のりこと黄金の小箱8
少女も客商売をはじめて、口をうまくするということをちょっとおぼえ始めていた。
「アナンシの小箱の鍵をさがしに来た」と素直に言ってもややこしくなるだけ、とアンジーに言われたので、前もってそれっぽい理由を考えておいたのだ。
「ここは雑貨屋さんでしょう?買いものに来ちゃいけない、ということはないはず」
そう言う少女を、フラウはちょっとうさんくさげに見つめたが
「……まあ、たしかにそうだ。なんといっても、このあたりでウチぐらい品ぞろえのよい店はないからねえ。あんたが来るのも無理はない」
そう胸をはった魔女は、自分の店にほこりを持っているらしい。
「こっちも客商売だからね。買ってもらえるのなら、それにこしたことはない。ひとまず、うらみはわきに置いておこうじゃないか。――それで、いったいどんな品をお求めだい?お客さま」
急に手をもむ魔女に対してのりこは、とぼけ顔で
「う~ん、ちょっときらびやかなものがいいかな、と思って。
ゴールドとかがいいかな?それに、あんまり大きくない小さなものがいい」
アンジェリカによると、ヘクセは自分の店に置いてある小鍵がアナンシにちなんだものだとは気づいていない。
「たしかその鍵は、前にフラウがハイチのパブでいかさまポーカーをしたとき、ブードゥーの死霊術師から呪いグッズといっしょにまきあげたものですわ。
そんなに値打ちものだとは思っていないでしょうから、なにげないふうに買えば、そんなに高い代金は求められないと思います」
いくら旅館のあるじだとはいえ、少女としてはメッヒもいないのに大金をうごかすわけにいかない。
せいぜい数万円(それでもこどもには大きすぎる金額だが)でおさえたいところだ。
「う~ん、どんなのがいいかなぁ」
プレゼントを選ぶふりをしながら、アンジェリカに言われた鍵が置いてある場所に近づいた。
(あっ、あれかな?)
いろんな鳥の頭の剥製をならべてつくった気味のわるい小物かけ、そのオウムのくちばしに引っかけてあるのは、聞いたとおりの小さな黄金の鍵だった。




