のりこと黄金の小箱4
「――もともと、それがしの兄にして父王・アナンシのあとつぎであるンディクマがふるさとガーナを出たのには理由があります。
兄は、ぬすまれたアナンシの『黄金の小箱』を探し求める旅に出ておったのです」
「黄金の小箱?」
「左様。そこには父が、王のあかしたる大事な宝をいれていたのですが、ある日、何者かの手により箱ごとぬすまれてしまったのです。
兄・ンディクマはあとつぎとしてその箱を取りもどす必要があるのです。しかし、その旅はけっしてたやすいものではありませんでした。
長い時間のすえ、兄からの音さたもなくなり、案じたそれがしは彼を追って旅に出ることにいたしました。
世界中をさまよったすえ、兄が日本にいるとの情報を得たそれがしは綾石旅館に宿泊しましたが、もうそのときふるさとから持参した路銀は底をつき、困窮しておったのです。
無銭宿泊ということで組織……かむのの協議会を通じてガーナに強制送還されそうになったそれがしを雇うことを、当時のあるじ・ゆりこさまに進言してくださったのが番頭・メッヒどのでした。
そうしてこちらで男衆としてはたらかせていただくうちに、のりこさまが新たなあるじとしていらっしゃったわけです。
そんなあなたさまをうらぎったことは、かえすがえすも申しわけありませぬ」
そう言ってまた頭を下げる蜘蛛に、少女は
「もおっ。そんなこといいからさ。旅館を出てから、あなたはどうしてたの?」
「……出奔したのち、兄の足取りをふたたび追うことにしたそれがしに入ってきたのは、なんと、このかむのの地に黄金の小箱を持った犯人、そしてそれを追う兄があらわれたという情報でした」
「えっ!そんなことあるの?」
「はい。そこで、なんとか兄を助太刀せんとしたそれがしは、ついにかむの西の枯れ下水道で兄、そして盗人どものすがたをとらえたのです。
――しかし、なんたることか!兄の襲撃を察知していたとおぼしき盗人は、それがしの目の前で兄の身を捕縛したのです」
「まあ!」
「それがしはなんとか兄をすくい出さんと勝負をいどみましたが、力およばずあべこべにこのようなざまで逃げかえってきたのです……なんとなさけない!」
そう言って、またクワクは涙をこぼした。
なんだか、旅館を出てクワクはすこし性格がかわってしまったようだ。
前はもう少しおかしい……というかご気楽な感じだったのに、すっかりシリアスな蜘蛛になってしまった。




