のりこと黄金の小箱2
綾石旅館のあるじの力のせいか、少女はユコバックの魔力にだまされるところがない。
最初に出会ったのが、バクチで負けてみっともなくヘクセにつかまっていたところだったのもあって、見る目がきびしいのだ。
「……はぁ、しかたないね。じゃあごめんよ、またね、こねこちゃん」
ユコバックは女性の腰にまわしていた手をはなすと、川をのぞきこんだ。
「きったねぇ川だよぉ、あるじ。――いくらスライムだからって、こんなところに好き好んでいるものかねえ?
……あっ、あそこのしげみに古い型のラジカセが落ちてる。あるじ、あれひろっちゃだめかな?」
「だめに決まってるでしょ。ただのゴミじゃない」
「古いけどさぁ、今ああいうのが人気なんだよ。日本製みたいだし、修理したらいいと思うんだ」
機械好きの血がさわぐらしいが、少女あるじはそれを完全無視した。
ユコバックは、釜たきやカメラいじりなど自分の気に入った仕事に対してはそれなりにまじめだが、それ以外の自分が関心がないことになると、てんで不まじめになる。
だから
「あ~~っ、こりゃあるじ、たいへんだ」
とユコバックが声を上げたときも、少女はあまり期待してなかった。
「なに?花咲のおじさんがいたの?」
「ちがう」
「じゃあ、ほっといて。よけいなものひろっちゃだめよ」
「……そうかなあ。でも、あるじは『あいつ』をほっとかないと思うぜ」
いつになく真剣な声に、のりこが
「なによ、いったい……?」
と釜たきが指さす先に見たのは、川につながる細い水路にはさまるようにたおれている少年らしきものだった。
しかしその手肢の数は、ふつうの人間より四本多い八本ある。
それは、のりこのよく見知ったもののすがただ。
「クワク!」
少女は衣服がよごれるのもいとわず、水路のぬかぬみにとびおりた。




