のりことあやしい結婚式19
そのあとの親族全員による「固めのさかづき」が、いつのまにか酒宴というかたちになって、今のりこの目の前にある。
みんな、狸の本性を見せて無礼講の大宴会だ。
「まったくもう!みなさん段取りどおりにしてくださいませんから、あたしどうしてよいかわからなくって!」
アドリブの苦手な少女人形は、ほほをふくらませて給仕する。
「――いいじゃない、もりあがったんなら。あーあっ、あたしもその化けてるとこ見たかったなぁ」
残念がりながら、のりこも酒瓶と料理をはこぶ手伝いをする。
お美和が朝から腕をふるって用意した会席料理も、すっかり食い散らかされていた。
上座では、花婿・花嫁を狸たちが取りかこんでいる。
「なんで酒なんか飲んでいた?」
と聞かれた六右衛門が
「――こんなかわいい狸っ子といっしょになれるかと思うと、緊張してついつい飲んじゃったんですよ」
と、のろけると花嫁の金長が「まあ」と丸いほほをあからめるものだから
「へっ、うちの親分が照れてなさるぜ」
「ほんに、ほおづきのようにまっかっかだ」
と冷やかす一方だ。
そしてしまいには
「よし、めでてえ。こりゃみんなで腹鼓だ。
隠神の、音頭をとってくれ」
「おうよ――。
♪打ちてやさしき もの多き
板屋のあられ 窓の雨
鉦鼓・鞨鼓に うちまじえ
いまの狸が はらつづみ――
それ、みなのしゅう」
「「ぽこぺん、ぽこぺん。ぽこぽこぺん。ぽこぺん、ぽこぺん。ぽこぽこぺん―――」」
隠神刑部狸による「打つものづくし」の小唄に合わせ、すべての狸がいっせいに腹をうつ。
そのにぎやかさは、旅館全体がふるえんばかりだった。
ユコバックは「ナイスです。激写、激写」と言いながら、カメラのシャッターを切る。
結婚願望がつよいお美和は酌をしながら「ええわぁ、うらやましいわぁ」とつぶやく。
そして、メッヒは出番のなかったラメ入りのタキシードを着て、酔っぱらった狸をひきずっていた。
「まあ、こっちはうまいこといったみたいでよかったけど……」
花咲のおじいさんに、息子がスライムになったことを伝えないといけないと思うと、気が重くなる少女だった。




