のりことあやしい結婚式17
「うへぇ。そんなの、いくら長生きできても、あたしイヤだな」
のりこが顔をしかめて首をふると、ミスター・ディーは
「おっしゃるとおりです。あのようなおぞましいすがたはわれわれ錬金術師の求めるものではありません。今までも多くの術師が『赤き王と白き女王』の結婚にいどみ、あの無残なすがたに変じました。
ですから、われわれ協会は『賢者の石』の生成実験を禁止しているのです。ゆがんだ『結婚』はけっしてゆるされるものではありません」
「結婚を阻止するってそういう意味だったのね?狸さんと関係なかったんだ」
「ええ。まさか、今日こちらの旅館で本当の結婚式がおこなわれているとは思いもよりませんでした。われわれはあくまで『王と女王』を持ちだしたハナサキを追いかけていたのです」
ミスター・ディーにつづけてメッヒは
「おそらく花咲史郎は以前、あなたの父親にさそわれこのかくし部屋に出入りしていたのでしょう。錬金術師と魔術師で気が合っていましたから。
しかし花咲の社長は錬金術がきらいでした。植物の自然な力を引き出すことを好む彼には、花屋が持つワザとして物質をいじる錬金術は邪道だったのです。そんな父親の命令で史郎は錬金術の研究から手を引いたはずでしたが、こっそりつづけていたのですね。
それが先日、あなたから『時空の間』でオートマトンに会った話を聞いて、史郎は幹久が生体金属の生成に成功していたことを知りました。そしてその金属が『賢者の石』の生成につかえるとさとった彼は錬金術協会から『王と女王』をぬすんだのです。
彼にとって狸の結婚式があるのはさいわいでした。花の搬入にかこつけて旅館内に入ることができるし、結婚式のあいだかくし部屋に入っていても人目に付きにくい。
しかも、われわれは協会の追手を狸の結婚式をこわしにきた襲撃者と思いこみ、その追撃をはばみさえしたのですから。
よく考えてみれば、おかしいことでした。本気で結婚式をこわす気なら、その飾り花をはこぶ花屋を襲撃などせず、いきなり式場をおそえばよいのですからね」
番頭は
「私もいささか頭に血がのぼって冷静な判断ができなかったようです、ふふふふ」
と自らをあざけった。
のこされた「赤い王と白き女王」を回収したディー会長は
「いやはや、しかしハナサカがこの旅館に逃げこんだとの知らせを聞いたときはあわてました。なにせ、こちらの旅館は異界と人間界のあいだに立つ中立地帯です。ほんらいならかむのの組織……協議会に話を回すべきですが、そのひまもありません。
無礼とは知りながら自分たちで押しかけました……が、いくら数をたのんだところで、どうなるものではありませんでしたな。会員たちがケガをしただけです。番頭どのに話に応じていただき本当にありがたいことでした」
会長はひきつった顔でメッヒを見ている。
おそらく、相当こっぴどい目を見たんだろう。
「ククク。まあ、このマークを見て私もおかしく思っていたのですよ。これは水銀を示す記号で、こちらの協会のシンボルマークです。
頭のかたい悪魔祓い(エクソシスト)ならともかく、錬金術師が狸の結婚式が原因でウチに手を出すはずもないと思いましてね」
布切れを見ながらわらう番頭に、のりこは
「もうっ!それならそうと早く言っといてよ!けっきょく、なにも狸たちと関係なかったってことじゃない……あっ、そうだ!それで、狸のお式はいったいどうなったの!」
あるじのことばに番頭は肩をすくめて
「……さて、どうなりましたか?」




