のりことあやしい結婚式10
「あの方がなにを考えてらっしゃるのか、あたしにもよくわかりません。なにせ結婚が決まったあとも、ろくに話をしていませんから」
たしかに、あの緑髪狸がなにを考えてるか理解するのはたいへんそうだ。
「しかし、そんなことはどうでもいいんです。
とにかく今回、結婚の成功によって両家の和解が成立することがすべてです。阿波の狸界のために、この身はどうなってもいいのです」
その言い方は花嫁というより、今から戦場に向かう戦士のような悲壮さだった。
そんな新婦のようすに、のりこは首をかしげてたずねた。
「金長さんは六右衛門さんのことをどう思っているの?結婚するのに、好きじゃないの?」
その、こどもらしいまっすぐ質問に新婦は、顔だけでなく目もまるくした。
「――そんなこと、考えたこともなかったです。ただ家……みんなのためにするものだと思っていたから」
好きかどうかも考えたことの無い相手と結婚するっていうのが、のりこにはふしぎに思えた。
「……そもそも、ほんとうに六右衛門さんがあたしといっしょになる気かどうかもあやしいです。油断できないんです」
そんなことを言ってるんだもの。おどろいちゃう。
廊下に出たのりこは番頭に
「あの言い方だと、金長さんは式に出てる狸が襲撃に関係してると思ってるみたいだね。花婿さんのことも信用してないみたい」
「そうです。実際、結婚式に乗じて片方の一家がもう片方の一家の殲滅……つまりみなごろしをはかるおそれも、まったく無いとは言い切れません」
悪魔はあっさりとおそろしいことを言う。
「そんな!そんなことがもしあったら、あたしたちはどうしたらいいの?」
「べつになにも。われわれ会場スタッフとしては、お客さまの内々(うちうち)の関係に口をはさむことはありません。
お客さま自身が闘争をもとめるなら、われわれはだまってそのなりゆきを見守るしかありません。その結果として死狸が出たり、結婚が破談になったとしても、それはどうしようもないことです。
――まあ、ほかのご宿泊客に迷惑をかけられてはこまりますがね」
そこまであっさり冷酷にものごとをわりきってしまう番頭の商売精神に、少女はとてもついていけない。なんとか、結婚式にはうまいこと行ってほしかった。
「……あなたが式にいれば、もめごとがあってもおさえられるでしょう?」
あるじのことばに、番頭は冷ややかに
「もちろん私もお式にのぞむつもりでしたが、そうもいかなくなりました。なにせ、こちらの見張りがあります」
たもとから、あのひろった布切れを取り出すと
「――まったく。よけいな仕事を増やしてくれますよ」
と、不敵な笑みをうかべた。




