のりことあやしい結婚式9
そこには、鏡のまえで白無垢・角隠しをととのえる花嫁のすがたがあった。
このかわいらしいメス狸が現・十七代目金長なのだ。
「わあ、とってもきれい!」
そこは女の子らしく花嫁すがたに興奮するのりこに対して
「あら、あるじさん。ありがとうございます。本日はどうぞよろしくおねがいもうします」
そそとして少女に対応するおしとやかな丸顔は、これが名高い化け狸の親分だとはとても思えない。
「――なんですか、おもてでなにかあったようですね?」
「えっ?まあ……」
いまから人生……いや狸生に一度の晴れすがたをむかえようという花嫁さんに、よけいな不安をあたえてはならないと言葉をにごすのりこだったが
「お気をつかわないでください。あたしは花嫁ですが、それと同時に阿波の金長一家の当主でもあります。現状は正しくつかんでおかねばなりません」
きぜんとした表情を見せるメス狸にだまっておくことはできなかった。
番頭からの説明を聞くと、金長は
「そうですか……なにもののしわざかわかっていませんか」
ため息をついた。
「ええ、残念ですが」
メッヒのことばに金長はまゆをひそめて
「しかし、はっきりさせるのがよいことかどうかわかりませんわね」
そのなぞめいた言い方に首をかしげるのりこのとなりで、番頭は
「……やはり金長さまは、参列者がなにかしら関わっているとお思いですか?」
ショッキングな一言を投げた。
(えっ?そんなことあるの?)
「……番頭さんにはお見通しですわね。そんなバカなこと、と切って捨てたいところですが、そうもいきません。
ごらんになったでしょうが、結婚が決まったとはいえ金長家と六右衛門家の関係は、とても良好なものとは言えません。
なにせ『合戦』以来、たがいに先祖・身内を多く亡くしていますから、そのしこりはいまだとても大きいのです」
たしかにのりこもそのギスギスした感じを見てきたばかりだ。
両家の狸のあいだに憎しみの思いが強くのこっていて、それが今にも爆発しそうに見えた。
正直、
(ほんとうに結婚式なんかできるのかしら?)
と思うほどだ。
「あたしも先代・金長だった父を亡くして、いまだ一家すべてを完全にまとめているとは言いきれないのです。知らないところでかってなことがおこなわれやしないかと、とても心配しています。
それに六右衛門さんも……」
金長は、ほんらい自分といっしょにひかえているはずの新郎の、空席の椅子を見てため息をついた。




