のりことあやしい結婚式8
たがいにいきり立ち、今にも手が出んばかりの両家の狸たちのあいだに
「……あーぁ、やだねぇ。今日はせっかくの祝い日だってのに、なにつまらないこと言いあってるんだ?」
ふらふらとわって入ったのは、黒紋付き袴すがたに緑にそめた髪・鼻ピアスというかわったいでたちの若オス狸だった。
「あっ、これはご新郎さま。まだお出になるのが早うございましょう」
「あーぁ、わるいね、番頭さん。あっちにいると退屈で、ついついこっちに来ちまった」
そう。それは本来、まだ控室にいるはずの新郎・十六代目六右衛門狸だった。
もうすでに酒をきこしめしているのか、その丸顔はほんのり赤い。そのことばといい格好といい、なかなかチャラそうな狸だ。
そのようすに金長がわ、そして立ち合いの親分狸たちもしぶい顔だ。
しかし六右衛門は
「そんなに顔をしかめるなよ、ご一同。今日は喜ばしき日のはずだ。なにせ、ふたつの家の記念すべき融和の日なんだから。すこしぐらい飲んでたってわるかないだろう?
――それに、こっちだって金長がわの言い分が正しいってことは重々わかっているんだからね」
「お、親分」
「――しかたねえよ、九右衛門。うちの一家がジリ貧なのはほんとうのところだ。しょせん合戦で負けたほうだからな。そりゃ、対等の合併ってわけにゃあいかないよ。
オレたちは金長さんのおめぐみで生かしてもらうんだ」
「そ、そんな親分。なさけねえ言い方」
子分のなげきに、しかし若親分はニッタリ笑みをうかべ
「な~にっ、しかしこの後どうなるかは知れないよ。いっぺん結婚しちまえば、オレはもう金長親分のダンナになるわけだからな。そこでどう立ちまわろうと、かってってもんだ。
そこいらの三下狸どもにスキなことは言わさせないさ」
「なんだとっ!」
六右衛門の不敵な言葉に、金長がわの狸がいきりたつ。
隠神刑部がしかりつけた。
「やめないか、おまえたち!めでたい席だぞ!……それに六右衛門。あんたも花婿のくせして、悪ふざけはいいかげんにしとくがよい」
「あー、これは隠神の親分、失礼をば。オレもなにもみなさんをおこらせる気はなかったんだが、ついね。はい、式はちゃんと坦々とすすめますので……♪たんたんたぬきの金時計……ってね」
どこまでもふざけた感じの新郎だ。
おかげで両家ともに、いまから結婚式が行われるとはとても思えない、ぴりぴりとした雰囲気になってしまった。
メッヒものりこもなにも言うことができず、そのままだまって、となりの新婦の控室に入った。




