のりことあやしい結婚式6
「――失礼します」
のりこが会場の控えの間に入ると、すでに両家の関係者が礼服を着こみ待機していた。
一見、ただのニンゲンに見えるが、その参列者すべてが見事にぽっちゃりとしたまんまる顔である。
しかも、その礼服をまとったおしりからのぞいているのは、たっぽりとしたシッポだった。
メッヒは腰低く
「――これはこれは金長狸ご一家に六右衛門狸ご一家のみなみなさま、おまたせをしております。定刻どおりに式は開催いたしますので、もう少々おまちください」
そう。
今回、綾石旅館で結婚式をもつのは四国・阿波国(徳島県)に住まう「化け狸」のご一同さまだった。
人前式ならぬ狸前式だ。
「――なんだ?番頭さん。表でさわぎがあったっていうじゃないか?だいじょうぶかね?」
そうたずねるのは、今回の結婚式で立会狸をつとめる伊予国(愛媛県)の大親分・隠神刑部である。
ほんとうは狸だって四国の方言でしゃべってるんだろうが、そのことばは旅館の力によってのりこにもわかるように変換されている。しかし
(お美和さんの関西弁はそのままなんだよね)
と、どうもいいかげんなのだが。
メッヒは狸たちに対して
「はい。『ふらちもの』はこちらにおりますあるじが追いはらいました」
と、のりこをしめす。
「――ほお。さすが名旅館のあるじはちがうな」
いならぶ狸たちに感心した目を向けられて、少女はこまってしまった。
(追いはらったのはアンジーで、あたしはその場にいただけなんだけどな)
「……それで、その襲撃犯がなにものか分かったのかね?」
「いえ、あいにくそれはまだ」
番頭の返答に隠神刑部は顔をしかめて
「ふむ……危険を少なくするために四国から遠くはなれたこの地での式を選んだのだが、それでも邪魔をしようというものがおるか……むずかしいものよのう」
両家の関係者もけわしい顔をしている。
――そう。今回の狸の結婚式は、ちょっと「わけあり」なのだ。
もともと、四国には八百八狸というぐらい、おおぜいの化け狸がいる。
そのなかでも阿波・引開野の初代・金長と津田浦の初代・六右衛門は、それぞれ大親分といってよい勢力を持っている狸であると同時に、かつて一家を上げて衝突した歴史があった。




