のりことあやしい結婚式5
「……ふうむ。それで、その不逞のやからはたしかに『結婚』を阻止すると言っていたのですね?」
「うん」
「ふむ、そうですか……おや、これは?」
道からなにか拾った。
なにか布の切れはしみたいだ。
おそらくバイク乗りたちが身に着けていたのが、アンジーの攻撃によってやぶれたものだろう。
なんだかみょうなマークがついている。
「ふむ、これは……」
「なんだか知ってるの?」
その意味ありげな態度にのりこがたずねたが、番頭は
「いえ、なんというか、これだけでははっきりとしたことは言えませんね……」
と、布を袢纏のたもとに入れると
「とにかく旅館の業務を妨害するものは、どんなものであろうとゆるしません。この件には私がひとりで対処しますので、あるじはなにも心配なさらずともけっこうです」
「そお?」
この番頭にそうきっぱり言われたら何も言えない。
ついでに、アンジェリカがこわしたガード・レールの後始末とかもまかせとこう。
「――それより心苦しいですが、本日のお式の参列者・関係者の方々にこの襲撃の一件は報告しておかねばならないでしょうね。あるじもいっしょにいらしてください」
「えっ?あたしも?」
「当然です。あなたが当旅館の最高責任者ですのでね」
(……そう言うけど、あたしは事前の打ちあわせにもほとんど出てないよ。……もしかして、やっかいな時だけあたしを引っぱりだしてんじゃない?こいつ)
小学四年生のあるじは疑念をいだきながらも、番頭とともに本日の結婚式がおこなわれる「おとろしの間」に向かった。
綾石旅館に結婚式をおこなう予約が入った、とはじめて聞いたとき、のりこは
「えっ?うちでそんなことできるの?」
と、素朴に聞き返した。
そんなあるじのもの言いに番頭は不満げで
「『もちろん』できます。そこいらのホテルや神社にできて、わが旅館でできないはずがないでしょう」
「でも、結婚式なんて人生でそう何度もしない大事なことでしょう?それをうちみたいな……」
ボロ旅館で、と言いかけてのりこはとどめた。
番頭の目がこわかったからだ。
「――失礼ながら、あるじのその姿勢にはこの番頭、承服しかねます。
謙遜の心を持つことはよいでしょうが、すぎた『へりくだり』は害悪です。世界一の旅館である当館で、一生に一度のハレの場を持ちたいと思うことは、しごく当然です」
「そお?」
「『そお』です。特に今回のお客さまはごくごく内輪、少数でのお式を希望なさっておられますので、われわれにも十分対応可能です」
「ふうん……うちでするってことは、じゃあ和風の結婚式なんだね?」
「ええ。彼らは伝統を重んじる『いきもの』ですのでね」
「いきもの?いったい、今度はなんなの?」
「それは……」




