第17話 二学期開始
九月一日。
二学期が始まった。久しぶりに会うクラスメート達を見て、どんな風に夏休みを過ごしたのか想像するのが結構楽しかったり。
あの男の子、全然日に焼けてないな。どこにも出かけず家でだらけてたオタクかな?
あの子、黒髪で化粧っ気無かったのに茶髪に染めてガッツリ化粧してる。さては彼氏ができて彼色に染められたな?
「おはよう、貴子。」
「おはよう、楓。」
楓が登校してきた。鞄を机に置くと、鞄から細長い箱をだした。綺麗にラッピングされている。
「これ、誕生日プレゼント。」
「え?」
「貴子の誕生日、八月二日だったでしょ。花火大会の時にも渡せなかったから。遅くなってごめんね。」
「ううん。覚えててくれたんだ。」
「当たり前でしょ。親友の誕生日ですもの。」
「嬉しい!開けてもいい?」
「ええ。」
私はラッピングを丁寧に剥がし、中の箱を開ける。ピンクゴールド色のシャープペンシルが入っていた。文房具屋で見た事がある。二千円くらいするいいヤツだ。
「ありがとう。大事に使うね。」
「うん、そうして。その代わり…」
「その代わり?」
「私の誕生日プレゼントは倍返しで。」
「えー!じ、じゃあ、これ返す!」
「冗談よ。」
「そう、よかった〜。」
楓は冗談よと言ったけど、私としては楓の誕生日プレゼント、それくらいの値段の物を送るつもりだ。さっきのやり取りはノリって事で。
親友なんだもの。言葉だけでは足りないから、贈り物で補填しないとね。
久保田君が教室に入ってきた。
「おはよう、紀夫。」
「久保田君、おはよう。」
「ああ、おはよう。」
久保田君は椅子にドカッと座ると気怠そうにしていた。
「紀夫。貴子に誕生日プレゼントした?」
「はあ?」
「あげてないの?」
「いや、俺。佐伯さんの誕生日知らねぇし。」
「そこは察してプレゼントしなさいよ。」
「何言ってんだよ。」
確かに久保田君に誕生日を教えてはいない。だからプレゼントやお祝いの言葉がなくても気にはならないんだけど…
「ホント、ダメね。普段は天然タラシのくせに。ここは貴子に誕生日がいつか訊くところでしょ?」
「あー、そっか。佐伯さん、誕生日はいつ?」
「八月二日だよ。」
「わかった。なんか用意するよ。」
「ううん、別にいいよ。」
「貴子、高価な物を貢がせるチャンスよ。」
「楓は余計な事、言うな!」
楓、久保田君に対して容赦ないね、いつも。
熱気のこもった体育館に全員集合させられて、始業式。あまりの暑さに校長先生のありがたいお説法は耳に入らなかった。
教室に戻ってホームルームが始まる。
「新学期なので席替えしま〜す。」
担任の先生が言った。え〜!という声が教室に響く。狙っている異性の隣になれるチャンスという希望の声や、せっかく後ろの席なのに一番前になると嫌だなという絶望の声など、色々な思惑が入り乱れてた。
くじ引きの結果、私は楓が座っている席。久保田君は私の席。楓は真ん中の列の前から三番目となった。
「私だけ除け者ってありえない!」
憤慨する楓だけど、くじ引きだから仕方ない。諦めなさい。
席替えが終わり、これで今日は解散かと思いきや、ホームルームはまだ続いた。
「十月に体育祭、十一月に文化祭があります。それぞれ決めなければならない事がいっぱいあるから、今から決めていかないと間に合いません。委員長、後の進行をお願いするわね。決まったら職員室まで呼びにきて。」
そう言って先生は教室を出て行った。
体育祭については、個人競技に誰が出るかを決める事。陸上部をメインに体育系部活に所属するクラスメートが割り当てられていくのは必然だよね。私みたいな帰宅部にお鉢が回ってくるなんて考えてなかったのだけど…何故か二人三脚の出場となっていた。楓も借り物競走に出場が強制された。
隣の久保田君が体を近づけてきて、小声で話しかけてきた。
「佐伯さんが選ばれたのって、理由があるんだ。」
「理由って何?」
「佐伯さんが走るとさ、ほら。オッパイがボヨンボヨンとなるだろ?」
「く!久保田君!」
私は思わず大声を出してしまった。
「はい、では佐伯さんのパートナーは久保田君に決定です。」
「へっ?」
委員長の言葉に私は思わず呆けた声を出した。楓が私の方を見てハァッと溜息。
後から楓に聞いたんだけど、私が久保田君と小声で話している時、私の二人三脚の相手を誰にするか、委員長が私に『佐伯さん、パートナーの指名があるなら言って下さい』と言っていたらしい。
なんたる偶然なんだろうか。
私が久保田君と二人三脚…
肩を組んで走るよね。
お互いの足首を縛りつけるよね。
当然、体は密着するし、露出した足が素肌でくっつくよね…
そんな事を妄想して、私は顔が真っ赤になり、心臓のドキドキが激しくなった。
お読みいただきありがとうございました。
(`-ω-)y─ 〜oΟ