第14話 日焼け止め
塾の短期集中講座を終えると暦は八月になっていた。
「着いたど〜〜!」
開口一番、大声を張り上げたのは渡辺君。
楓、久保田君、渡辺君、佐藤さん、そして私の五人は海にやってきた。
ここまで来るのに最寄駅から電車を二回乗り継いで一時間半。現在は九時前なのだが既に海の家は利用客でごった返していた。
「この辺の海の家は人が多いな。」
「そうね。あっちの端の方へ行ってみましょ。」
久保田君と楓が歩き出した。私達も後をついて行く。比較的に空いている海の家を見つけて更衣室を借りた。
私も楓も佐藤さんも水着はこの前のプールで着用した物だった。
だってね。私これしか持ってないんだもの。仕方ないよね。
楓に言われてラッシュガードは買ってきたので、それを羽織っている。
着替え終わって海の家を出ると久保田君と渡辺君が待っていた。
「哲也。お前、ちゃんと腰紐締めたか?」
「あ!ヤッベェ!締めてなかった!」
渡辺君は学習できない人だという事を私は学習した。昨今話題のAIに私は負けない。渡辺君は負けてるんだろうけど。
久保田君が海の家でビーチパラソルを借りてくれた。
砂浜に出て適当に空いている場所にビーチパラソルを立てる。その周りに持参してきたレジャーシートを全員が思い思いに敷いた。
「渡辺君。これ塗って!」
佐藤さんが日焼け止めをビーチバックから取り出すと渡辺君に渡していた。
「そんな事させて、えぇのんか?えぇのんか?」
「その手、キモい!」
渡辺君の両手の指がワシャワシャと触手の様な動きで恐い。佐藤さんはキモいと言った割に、満更でもない表情をしている。
「貴子。」
「なに?」
「塗ってあげるわ。」
楓が日焼け止めを塗ってくれると言っているが、その両手の指の動きはなに?先ほどの渡辺君の動きと同じなんですけど?
私は身の危険を感じた。何かにつけて楓は私にボディタッチしたがるから、最近は困っている。
「ううん、遠慮しとくね。」
「え〜!」
楓のブーイングを無視して私はラッシュガードを脱ぐと日焼け止めを久保田君に渡した。
「久保田君。背中、塗ってくれない?」
「え!俺?」
「うん、お願い。楓は信用ならないから。」
「貴子、酷〜い!」
楓を無視して背中を久保田君に向ける。
「じゃ、塗るぞ。」
久保田君が手日焼け止めを容器から手に取り、私の背中に塗り始めた。
首筋から肩、肩甲骨、背骨に沿って上から下へ。腰まできて久保田の手の平が横腹から脇に向けて滑る…
「ヒッ…ヒャウウゥゥ〜」
え?私、今変な声出しちゃった。久保田君の手が止まる。
「佐伯さん…」
「あ…あの…しゃっきのはべ…別に他意はにゃいの。き、気持ち良いとか、そ…そんにゃんぢゃないかりゃね?」
恥ずかしい。顔が熱い。今日はUVカットの化粧品を使っているのに、既に顔だけ日焼けしたみたい。
楓が溜息…
「塗り終わったよ。」
「あ、ありがとう…ござい…まふ。」
久保田君から日焼け止めの容器を受け取る。私は腕、胸回り、足へと塗り始めた。
「紀夫。私にも塗って。」
楓がレジャーシートの上にうつ伏せになった。久保田君が日焼け止めを手に取り楓の背中に塗り出した。
「次は前もお願い。」
楓がうつ伏せから仰向けになる。楓、前も塗ってもらうの?
「前は自分で塗れよ。」
「良いじゃない。本当は嬉しいくせに。」
「くっ…」
久保田君が折れた様で、楓の鎖骨周りから塗り始めた。
「水着の中も塗ってくれて良いのよ。」
「そんな事できるか!」
あ、楓の顔。あの顔は久保田君を弄って遊んでる顔だ。
久保田君は楓のお腹に手を当てている。
「オッパイ星人のくせにイクジ無し。」
「うるせぇ!そういう事は二人だけの時にやらせろ!」
え?久保田君、何気に爆弾発言してませんか?と言うか、楓の方が顔を真っ赤にして目が泳いでる。
これはアレだ。返り討ちにあったってやつ?
「塗れたぞ。腕と足は自分で塗れよ。」
楓は体を起こすと腕を塗りだした。
「今度は私が塗ってあげるね。」
佐藤さんが渡辺君の背中に日焼け止めを塗りだした。
「ひょ…うひゃひょはぅへ…」
「ちょっと…変な声出さないでよ。」
「いや、コレさ。何かに目覚めそうだ。次は前も頼む。」
「了解!変な声は禁止!」
佐藤さんが渡辺君の背後から腕を前に回すと、渡辺君の胸をまさぐるようにして塗りだした。
客観的に見ててエロい…
と言うか、なに?あの二人。自分たちだけの世界を構築してる。
「バカップルだな。」
「バカップルね。」
久保田君と楓の意見が一致している。
え?あの二人、付き合ってるの?
「紀夫も塗ってあげようか?」
楓が久保田君に日焼け止めを塗ろうとしている。
「やめてくれ!」
「なんで?」
「身の危険を感じる。」
ですよね。私も久保田君の意見に賛成だ。
結局、久保田君は自分で塗って、背中は渡辺君に塗ってもらっていた。
その後はビーチボールで遊んだり、男子二人を砂に埋めたりしながら夕方まで海を楽しんだ。
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