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第11話 終業式

 今日は一学期の終業式。


 全校生徒を体育館に集めて、演壇の上で校長先生が『夏休みの心構え』と言うありがたいお経を絶賛説法中だ。


 体育館にはエアコン設備が無いので窓という窓、扉という扉を全開放しているんだけど、焼け石に水。

 私の斜め前にいる女の子。さっきからフラフラしてるんだけど大丈夫なのかな?


 蒸し風呂の様な体育館で苦行に耐える事十数分。やっと校長先生が退いてくれた。あまりの暑さに汗が大量に放出されていた。洪水警報が出されてもおかしくないくらいだ。幸にして死者、行方不明者が出なくて良かったと思う。


 教室に戻り、ホームルームを無難に乗り越えて一学期の終わりを迎える。

 この後、部活のある子達は鞄を持ってサッサと教室を後にしている。


 隣の席を見ると楓が鞄に机の中に置いていた物を詰め込むと立ち上がった。


「貴子。」

「なに?」

「私はこの後、所用があるので一緒に帰れないんだけど、いいかしら?」

「あ…うん。大丈夫だよ。私も少し用事があるし。」

「そう…じゃあ、お先に失礼するわね。また連絡するわ。」

「了解!またね。」


 楓が教室から出ていった。


 帰宅部のクラスメイト達も殆どが帰ってしまい、教室に残っているのは私や久保田君を含めて数人程になっていた。


 久保田君はまだ椅子に座って本を読んでいた。帰らないのかな?


「久保田君。またね!」


 久保田君や楓とは夏休み中も遊びに行く予定をたてているので、またねと挨拶をする。


「ああ、またな!」


 久保田君も顔を上げて挨拶を返してくれた。


 私は鞄を持つと教室を出た。昇降口へは行かずに、渡り廊下を抜けて特別教室棟へと向かう。

 職員室や教室のある普通教室棟とは異なり、調理実習室や理科実験室のある特別教室棟は静かだった。


 特別教室棟の階段を上がって行く。屋上は開放されていないので、最上階の扉は鍵がかかっている。行き止まりなので生徒がやってくる事は殆どない。


 何故、私がそんな所へ足を運んでいるのかと言うと、朝の出来事に起因する。


 今朝の登校は一人だった。下駄箱を開けるといつもの様にドサッと手紙が落ちる。それらを拾い集め、上靴に履き替えて廊下に上がると、一人の男子生徒が立っていた。

 彼は私をジッと見つめていた。彼とは一切の面識は無い。学年も知らない。クラスも知らない。名前も知らない。

 私は彼の前を素通りしようとしたのだが『佐伯さん!』と呼び止められてしまった。


「なんですか?」

「あの…これ受け取って下さい。」


 彼は頭を下げ、両手を私に差し出す。手の先には手紙があった。


「こういう事されても私、困ります。」

「今まで何度か佐伯さんの下駄箱に手紙を入れていたのですが、なかなか読んでもらえてないようなので、意を決して手渡しします。受け取って下さい!」


 私が手紙を受け取らない限り、彼はこのままなのだろう。無視しても良かったのだけど、私は受け取る事を選択していた。これは悪手だった。

 私は受け取った手紙を鞄に入れようとしたら、彼がそれを制止した。


「今、ここで中を読んで下さい。」


 彼は狡猾だった。私が鞄に入ってしまうと読まれない事がわかっていた。

 仕方なく私は手紙を封筒から出して読む。


「そういう事で、今日の放課後。待ってます!」


 彼はそう言って走り去っていった。『廊下を走るな!』と先生の注意する声が聞こえてきたのはご愛嬌ってところかな。


 …という訳で、手紙に指定された場所まで来たのだ。


 今朝の男子生徒は既に来ていた。


「来てくれてありがとう。」

「なんのご用件でしょうか?手短にお願いしますね?」


 用件は分かっているのに、訊いてしまう。


「二年四組の島崎浩司と言います。佐伯さん、よければ僕と付き合って下さい!」


 島崎先輩が頭を下げて告白してくる。


 何も知らない、見知らぬ男性から告白。よく考えてみると、これって一種のナンパですよね?


「ごめんなさい。お付き合いできません。」

「どうして?」

「私、先輩の事をよく知らないので。」

「知りもしないのに断るって、食わず嫌いと同じじゃないか?」


 あ、なんか屁理屈言ってます。この先輩、ガチで無しで。


「私、しつこい人って好きじゃありません。失礼しますね。」


 ああ、手紙を受け取るんじゃなかったと後悔した。


 階段を下りて、元来た渡り廊下まで出た。

 渡り廊下は両側がガラス窓になっている。向かって右側には中庭が望める。左側の窓からは体育館の裏へと続く小道が見える。


 あれ?体育館の裏から出てくる曲がり角に立っているのは…楓?

 所用があるって先に帰らなかったっけ?


 しばらく様子を見ていると、体育館裏から三組の桜庭さんが出てきた。

 という事は、桜庭さんは告白されたのか…もしくは告白したのか?でも、桜庭さん一人で出てくるって事は、いずれにせよカップル不成立って事だよね。


 桜庭さんは楓の前で止まる。


「あっ!」


 桜庭さんが右手をあげたと思ったら、楓の頬を平手打ちした。

 桜庭さんはその後、中庭に向かって歩いてくる。私が見ている渡り廊下の下を通過して中庭へと抜けていった。

 上から見ていたのでよく見えなかったけど、彼女、泣いていた気がする。


 視線を楓に戻すと、体育館裏から久保田君が出てきた。久保田君は楓の顔をチラッと見ただけで、そのまま中庭へと歩いてくる。楓は久保田君が通り過ぎると、久保田君の後を追うようにして歩き出した。


 状況から察すると、桜庭さんが久保田君に告白して断られたのだろう。

 私の知る限りだけど、相合傘やレジャープールでの桜庭さんの様子から、間違いではないはず。


 そこで違和感に何かがひっかかる。

 何故、久保田君が告られている現場に楓がいるのか?


 『まだ付き合えてない。』


 二人が言った言葉が思い出された。

お読みいただきありがとうございました。

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(`-ω-)y─ 〜oΟ

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