憂鬱、そして来訪
主人公『のみ』が演技しているとは限りません。
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弟子たちは、知っていた。
師の痛苦も、毎度『お出かけ』する際の『使命』も知っていた。彼らとて、たかが子供だと言った所で、れっきとした天才児たちである。
故に、彼らは点と点を繋げ、思考する。仮定し、試行し、推論し、分析する。その結果、彼らは知る。その結果、彼らは痛感する。
師に全てを背負わせてしまう自分たちが、狂ってしまうぐらいに憎い。何一つ任されない自分たちの無力さが、耐えられぬ程に気色悪い。
彼らは、自分たちの育ての親であり、先導者であり、師でもある男性を愛する。無論、これからも何があった所で愛し続けるだろう。
嗚呼、だからこそとでも言うべきか。必然とでも言うべきか。
彼らは世界の悪を狩り、その手を血で汚し、拳を狂気に染める師を。そんな師を何としてでも救いたかった。何をしても救いたかった。彼らは色々と手段を模索し、対策を講じ、その度に挫折した。
先日の猿芝居だってその一つである。彼らは悠久の時を生きる、否、生き続けなければならぬ師に、どうしても重枷を付けたくなかったのだ。
だからこそ、彼らは師の想像する『子供』を演じる。『喜怒哀楽』を彼が欲する様に、彼が思う様に。師に、彼らの『悲哀』が決して悟られる事のないように。いつか、師に安寧が訪れるまで。彼らは、そう在り続けると決めたのだ。
今日も今日とて愚者たちは舞台に揃い、狂想曲の幕は開けられる。彼らに、真なる救いは訪れるだろうか。彼らは、真なる相互理解に到達できるだろうか。
ああ、楽しみだ。そうだと思うだろう、我が同輩たち?
しかり。
然り然り。然り然り。然り然り。然り然り。然り然り。然り然り然り然り然り然り然り然り然り然り然り然り然り然り然り然り然り然り然り然り然り然り然り然り然り然り然り然り然り然り然り然り然り然り然り然り然り然りー
バッと寝床より飛び起き、私は周囲を見渡す。何の変哲も無い部屋、豪奢な家具、優雅な金装飾、時計塔の紋章。
何の異常も無いのに、先ほど感じてしまった悍ましい悪寒はなんだ?理解したくないような、理解したいようなー
...................ははは、何を急に突飛な事をほざいているのだ、私は。そう、私の使命はただ一つ、真なる世界平和ッッ!!人類を昇華させ、新たなるステージへ飛び立つのだ!
余計な事に気を囚われている時間など無いのだッ!!
私は、天蓋より降り注ぐ黄金の斜光にビシッと人差し指を向け、仁王立ちをする。....うむ、今日も私は美しい!完璧に決まったなッ!!
「朝餉の御時間に御座います。帝塔猊下、どうかお準備がおできになられましたのならば。」
おっと、この声は。というか、この慇懃無礼な話し方は。まさか!
大股で鋼鉄の両開き門扉に歩み寄ると、人差し指でクイッと解き放つ。扉はゴンッと凄まじい轟音を奏でるも、その人物は微笑みを全く崩さない。いつものように、秀麗な顔立ちを緩ませ、スラリと優雅な一礼をするのだ。
「今日もご機嫌麗しゅう、帝塔猊下様。」
「 出 て い け 。 」
帝塔を護衛する『表』の組織は、我らが帝国最精鋭の帝塔騎士隊様である。ならば、『裏』の組織とは何か?
「何故、貴様がメイドとして此処に居るのだ?私は舐めているのか?」
「滅相もございませぬ!もし、御不快との仰せでしたのならば、今すぐ汚らわしい我が身の自刃をッッ....!!」
「ヤメロヤメロ、絨毯が汚れるだろう。というよりも、教育に悪いわッ!!」
悲壮な顔をしたかと思いきや、いきなり皆の目前で腹切りをしょうとした、(頭の)危ない女。コイツが所属する組織こそ、『裏』である。『帝塔晩鐘』と貴族間で呼ばれるその組織の正体は、帝塔教の狂信者集団である。
帝塔教。それは以前も触れたが、帝塔そのものを拝め奉る宗教だ。帝国の誇りとはすなわち、皇帝でも帝国の文化でもない。そう、中心に聳え立つ帝塔だと言っても過言ではないのだ。現人神ならぬ、現塔神。
....自分で言ってて訳が分からなくなってきた。ま、自然崇拝に近い教えだ。
そんな帝塔教だが、決してカルトとかのヤバい類いではない。私自身が潜伏して調査したから、それは確かだ。が、何処の宗教にも狂信者の類いは存在する。
ただでさえ、私は建国以前からこの塔に住み着いていた『人ならざるモノ』だ。マイホーム(塔)歴数千年の、此の世の者とは思えない美貌を持つ男性。宗教の条件が、気付かぬうちに生え揃ってしまったのだ。
だからか、半ば現人神のような扱いをされている。てか、聖書に名前を書かれていた。ついでに、食べ歩きした場所もバレて、そこを巡行する教徒もいるらしい。
........声を大にしてプライバシー侵害を訴えたい。割と切実に。
兎にも角にも、私は帝国の求心力そのものと言っても差し支えない存在であり、初代皇帝もそれを理解した上で私にへりくだった。
国をまとめるために、どうすれば良いのか。方法は主に二つあり、『団結しなければならぬ強大な外敵』を作るか、『団結せざるを得ない程の信仰心・共通理念』を作るかのいずれかである。私がまさに後者であった。
まあ、それも歪であることには変わりはないが。今はまだ、その時では無い。
「猊下?どうなされましたか?」
........ああ、そうだった。この狂信者の女こそ、帝塔晩鐘の長であり、弟子ではない不死者だ。瀕死の彼女と数百年前に出会い、その時の私の血が、偶然にも彼女に『取り込まれた』のだ。
本来、私の『血』自体が圧倒的な神秘を保有するため、私自身の監修無しでは対象の肉体が耐え切れず、崩壊するのみ。しかし、彼女は数少ない『適合者』だったらしい。
そもそもの話、何故そんな事態となったのか。実は、私も定かではない。ただ頭の奥で、ナニかがチラつくのだ。思い出すな、と私に囁きかける。彼女本人に当時の事を問い詰めても、法悦とした笑みを返されるだけ。未だに、真相は闇の中だ。
『そう、それでいい。』
うん、あれ、なんだ?........うむ、彼女の名はアスモデウス。私が彼女の弟子入りを拒んだ後、直接帝国の特務機関に入ったらしい。なに、私が拒んだ理由だと?........さあ、分からぬ。
ええと、何だったかな。そう!アスモデウスのメイド入り事件だ!!話が逸れまくって危うく流される所だった!
「メイドに入った理由はなんだ?解雇するぞ。」
「御弟子様たちの事で最近お悩みだと小耳に挟みまして、御心を煩わせては忍びないと愚考し、教育係として馳せ参じた次第に御座います。」
ウッと言葉に詰まる。痛い所を突いてくるじゃあないか。てか、噂になるほどだったのか!?迷う私に、彼女はさらに畳みかける。
「私は、三日を頂く存じます。さすれば、必ずやお弟子様たちの多感な時期を、上手くなだめすかして御覧に入れましょう。」
グぬぬぬぬ...。
「よろしい。そこまで啖呵を切るならば、成して見せよ。」
背中を見せ、私は食堂へと向かった。
アスモデウスの前に、彼らは揃う。彼らの顔に師を前にした時のような無邪気さは無く、ただただ、冷徹に観察する鋭利な眼のみが『暫定教育係』に向けられる。最初に口を開いたのは、代表者のアダム。
「お前は、なんなんだ?」
そう、開口一番飛び出した言葉は、名を聞くものでも、ましてや紹介を促すものでもない。人ならざる正体を問い詰めるものであった。
その質問に対し、アスモデウスは静謐に嗤う。
「皆様、帝塔猊下の過去について、少々知りたくは存しませんか?」
「「「「「「「「「...!!!!」」」」」」」」」
パンドラの箱は揺られ、甘美な香りを探求者たちは嗅ぐ。
はたして、それは幸福と言えるものだろうか?
今はまだ、誰にも分からぬ事である。
何かご意見があれば、是非とも感想にて。