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時計塔の伯爵曰く『裏ボス堕ちする伝説の師匠って、需要あるよね?』  作者: 身体は細胞で出来ている(ドヤ顔)
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九人の弟子たち

さて、『早朝の哀しき回想シーン』が終わり、ひと段落がついた。


何?誰も見ていないのに、やる意味があるかって?バッカもん!!こういう日常の一欠片が、案外重要になってくるんだよ!!


ほら、未来の主人公がトンでも水晶とか使って過去を覗き、悲嘆にくれるイベント。そういう意味深なイベントで凄く大事なんだ。分かったね?


よし、自己肯定を終えた所で朝食とするか。大食堂へ急ぐとしょう。


我が住処はむろん時計塔だが、帝国で随一の巨大さを誇るため、充分生活するに相応しい。時計塔の大時計の上、つまり先端部分でさえ劇場を建設できる広さがある事から、如何に巨大かお分かり頂けるだろう。


ふむ?何故建築に関わってなさそうな伯爵の私が、『劇場を建設するための広さ』が分かるかって?あまり私を甘く見ないで頂きたい。


...もう建設したからに決まっておろう!実に酔狂だろう!?フハハハハハ、ハハハハハハハハハハ、アッハハハハハハハハハハァ!!


む?何故メイドが生暖かい眼でこちらを見ているのだ?全く、最近の若い娘はよく分からない。やれやれだ。




大食堂は文字通り、これもまただだっ広い空間である。取り敢えず、ファンタジー映画に出てくる宴会などに使われる大ホール、というイメージで構わないだろう。長机が理路整然と並び、多くのシャンデリアが全体を明るく照らしている。


私はもう席に着いている可愛い第一期生たち、つまり、我が最初の弟子たちを横目に、一際豪奢な大理石の席に着く。私が席に着くや否や、一人の男の子が立ち上がり、私に朝の聖句を復唱する。


「朝はあらゆる不浄を焼く、焔の陽炎。大いなる陽の帳のもと、我らは今日もあらゆる生命に祈りを捧げんッ!!」


幼い声は堂々と大食堂に響き渡り、全員が彼に続いて聖句を復唱する。


『朝はあらゆる不浄を焼く、焔の陽炎。大いなる陽の帳のもと、我らは今日もあらゆる生命に祈りを捧げんッ!!』


うむ、実に素晴らしい。今はまだ計九人(第一期生)しかいない為、大食堂が閑散としていることは否めない。が、彼らの熱気は百人を優に超えるために、食堂全体が火をつけたかのように活気に満ちているのだ。


嗚呼、適当に聖句とかを義務付けといて良かったァああああ!!これだよ、これ!如何にも厳格な学校の朝食っぽい雰囲気が出てるじゃあないか!


私はホクホク顔を跳ね除け、視線を号令した男の子に向ける。アダムは今年で12歳となり、最年長である。だから、号令は彼の仕事となるのだが、これが実に見事!私と二人っきりならば時に甘えてくるのだが、みんなの前だとこの通り。


少年だと思えぬ太陽の如きカリスマ、朗々闊達とした爽やかな美声、眉目秀麗な顔立ち、黄金比の身体、そして全方位に及ぶ天賦の才。もう勇者英雄の類いに成るために生まれてきたんじゃないかと、そう確信してしまうほどの末恐ろしい才能だ。


さて、メイド達に運ばれてくる超一級品の食事を堪能しながら、改めて一人一人見ていくとしますか。


リーダーのアダムはいいとして、彼の隣に座るヒロイン役から始めよう。彼女の名はリリス、黒ドレスが大好きな黒髪紅眼の女の子だ。


11歳にして既に色気を漂わせながらも、静謐で貞淑な様を兼備する魔性の聖女である。聖句の覚えが誰よりも早く、魔術は一度見れば体得してしまうほど優れている。蛇も大大大好きであり、よくアダムに絡ませて遊んでいる。


アダムとリリスに続く七人だが、みんな同年齢の十歳である。正確には分からないが、()()()()()()()()()()()()()()()、あながち間違いでもないだろう。


………気を取り直して、と。


次は、聖騎士・軍師役を担当する男の子。彼の名はミカエル。金髪金眼で、金装飾がお気に入りの、金色尽くしの少年である。銀も割とお気に入りらしい。


彼は武術で右に出る者が無く、いかなる至難の業であっても一朝一夕で修得できる。チートの私でさえ刮目するぐらいにバケモノじみた天才だ。『勇気』や『正義』に関するものに目が無く、時々堅物な態度をからかわれている。


四人目は、癒しの聖女役である女の子。彼女の名はラファエル。リリスが魔性だとすれば、彼女はれっきとした正統派。雪白のウエーブがかかった長髪に温かな青色の瞳を持つ、穢れ無き白き天使だ。


性格もとことん慈悲深く、たちまちあらゆる不満を解消する温和さがある。彼女の治癒魔術はリリスでさえ全く歯が立たず、味方を鼓舞するにおいて欠かせない子だ。てか、彼女が泣けば争いは融解する。


五人目は、使者・交渉役を受け持つ女の子。名はガブリエル。草の瑞々しい緑髪と土色の眼を持つ、一片の風を思わせる少女だ。


脚がとことん速く、徒競走では誰も追いつけないほどだ。文学にも極めて優秀な才能を示し、彼女の少年らしい闊達さとは裏腹に弁舌も上手い。聖句の意味を個人的に解釈し、お手製の教科書を配り歩く姿を見た時は心底感心した。


六人目は、参謀・助言役は務める男の娘。...うん、誤字に非ず。名はウリエル。炎に負けぬ紅髪と、爛々と輝く黄色の双眸を持つ。めっちゃ男の娘。大事な事なので二回言いました。


事情を知らぬ人が彼を見れば、十人中十人が女の子だと断言するほど、彼の柔和で芸術的なまでに美しい容姿は人々の胸に火を灯す。非常に聡明であり、全分野の学問を網羅するほどに学者肌な子だ。火や光魔法が大の得意でもある。


七人目は、テイマー・召喚士役の男の子。名をアリエル。栗色のたなびく髪と焦げ茶色の眼を持つ彼は、一言で表せば『百獣の王』。


まだ少年だというのにその肉体は筋骨隆々であり、眼光はあらゆる猛者をも射止める覇気を帯びている。ミカエルが群の最強だとすれば、彼こそ個の最強。荒ぶる嵐の如き彼だが、実は自然界の生命を完全に支配し、心を通わせる力を持つ。


彼ら九人はみんな、『使者』や『巫女』と帝国で総称される存在だが、特にアリエルは自然界との繋がりが強固らしい。次いでに、生け花が趣味らしい。


八人目は、アサシン・スパイ役の女の子。名はアズライール。濃い紫色の髪と鋼色の瞳を持つ、どこか危険な色気を秘めた子だ。


彼女は普段から存在感が無に等しく、異常なまでに影が薄い。チートの私でさえたまに見失うほど、先天性の気配遮断能力を持っている。無口であるが、アダムと話す時だけは饒舌になる。死生感は、『みんなを生かすために、()()()()()()()()()()』。


イケメンかよ。一番私が気を遣う子の一人だ。むしろアダムよりも気に掛ける時がある。


最後の九人目は、扇動・政治家役の男の子。名をカマエル。銀色の長髪と紺色の眼を持つ、スタイリッシュな子だ。


彼は洞察力がずば抜けており、ヒトの心の機敏が誰よりも理解できる子だ。大衆を消極的にするのも、積極的にするのもお手の物。だからか、金のやりくりも非常に上手く、決して私欲にまみれることもない。


彼に最近、財布を握られている気がしてならない。...気のせいか?


顔が鮮明に映るほどに磨かれたタイルの床。それを足裏でタップしながら、私は今日も自慢の弟子たちとの一日を始める。




「私は………幸せ者だな。嗚呼、どうか………」


彼らの誰かに聞こえうる、ギリギリの音量で呟く。ポイントは、わざとらしくないように、彼らの方を見ながらの遠い目線。哀愁を誘えばグッド!


最初に気付いたのは、カマエル。流石だ。彼はすぐさまアズライールに一言こそっと伝えると、大声で乾杯する。アズライールは乾杯時、僅かに杯を傾け、異音を奏でる。こん、こん、カツン、カン。


私が教えたモースコード(暗号)を、こんなにも応用して!私も鼻が高い!クソ烏がテーブル下で脚を刺すが、我慢だ。


一瞬、刹那の間に会話が途切れるが、すぐさま何もなかったように継続される。だが、私には分かる。彼らは明らかに此方の哀愁を帯びた雰囲気に気が付き、なんとかしょうとしていることを。


ウリエルはさり気なく指先を動かし、テーブルに文字を数個書いた。アリエルはテーブル下で両手をすり合わせると、薔薇を召喚し、器用にも食器で『加工』を施す。加工の終えた生け花を彼はガブリエルに渡すと、ミカエルがラファエルに眼で指示した。


ガブリエルが食器を落としたフリをして花をアダムに渡している間、ラフェルはすくっと立ち上がる。


「あら。わたくしは御花をどこかへ落としたようです。折角お渡ししょうと思いましたのに...。」


事情を知らぬ私が見れば、確実に騙されていたであろう、どんよりとした表情。温和な彼女の悲しい顔は、それだけインパクトが凄まじい。


私が彼女に注意を向けている(フリをする)間にも、彼らの『作戦』は進む。


アダムは隣のリリスに魔術を依頼し、大輪の生け花を小さき種粒に変幻させる。すると彼は、周囲を見渡すフリをしながら、机下からポイっと種を此方に投げた。


種はコロコロと床を転がり、見事私の机まで辿り着く。すると、種は小さき黒蛇へと姿を変えて私の足元まで這い、また薔薇へと変身を遂げた。


………全く、粋なことをしてくれるものだ。からかいたくなってしまうだろう?


「ほう、奇遇だな。私の足元に転がる薔薇だが、ラファエル、君のモノかい?」


ラファエルはパアーッと顔をほころばせると、喜色満面に大きく頷く。


「はい、今日の朝、()()()()()()()()()()()()()()()()ッ!」


私はフフッと穏やかに微笑んで見せると、大事に生け花に強化魔法をかけ、胸元のポケットにしまった。さて、ここだ。君たちの気が最も緩んだすきに、思い出イベントを挟んでやろう。


「しかし、どうも君たちに気を使わせてしまったみたいだね。



()()()()()()()()()()()()()。流石私の、自慢の家族だ。」


ピキッと同時に九人が固まる。


みるみるうちに彼らの頬は赤く染まり、誰も目線を合わせようともしない。こういう所は、いくら天才だといっても。


やはり、愛すべき子供だ。


私は今日も意味深に微笑み、彼らに慈愛の視線を降り注ぐ。彼らの輝かしい未来に、遥かなる祈りを乗せて。






「おし、完璧だな。次は訓練系でもするか?いんや、まだ育成系でいいか。一人一人と成長エピソードを作って………痛ッ!!」


『カァアア、ペッッッ!!(これでも喰らえ、クソナルシスト)』


「オイコラてめえ、シチューになんてもの吐き出してんだ黒く染まってんだろこんのカッスッッッ!!」


相変わらず、舞台裏で戯れる一人と一羽であった。



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