ある阿呆の一夜(プロローグ)
初めてのオリ作品です。
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ゴーン ゴーン ゴーン。
鐘の音が夜闇を震わせ、深夜十三時の訪れを、厳かに人民へ告げる。
夜に地上の星が煌めく絢爛なる都市に、一日に一回しか鳴らぬ、荘厳な鐘の音。
道を歩く人々はそのせわしなく動く足をふと止め、天にそびえる黒き巨塔を見上げては、また各々の道を往く。
世界の中心でもあるローダ帝国に建つこの巨塔は、他と隔絶した帝国の権力を誇示するかのように、世界一高い。
900メータルを優に超えるかの塔は古代遺産で最たるものであり、ヒト以外の存在を阻む絶大なオーラを放つ。
故に、塔の所有権を他の国より簒奪し、千年に渡り所有してきたローダ帝国は、正に至高の千年帝国と言えよう。
竜ですら寄せつかないその塔は、ローダ帝国人民にとっての誇りそのものであると言っても差し支えないランドマークであり、帝塔教という宗教が存在する程である。
その塔を、帝国最精鋭の帝塔騎士隊という御大層な方々が護衛していらっしゃるが、むろん、管理者も存在する。
それがこの私、帝塔伯爵こと、ヴラド・ヴィン・インへリアル。
なお、『ヴィン』は古代語で「1」を意味し、帝国での重要度を決定づけるランクでもある。
対して、『インへリアル』は古代語で「君主、守護者」等の意味を持ち、貴族の家名というよりは、もはや称号に近い。
さて、この簡潔な説明からも感じて頂けたと思うが、私はかなりの重要人物であり、帝国の幹部である。
表向きは、だけどね。
全く、上辺だけを美辞麗句で飾ったとて、彼らが為していることの、その所業から滲み出る腐敗臭が無くなる訳でも無いというのに。
まあ、一理あると認めざるを得ないけどね。
なぜならば私は、竜をすら拒む塔の中に居ながらも平然としている、ヒトならざるモノでもあるからね。
さて、と。
世界にケンカを売っている様にしか思えない、私の様なクソチートは、その気になれば何だってできるし、敵う存在もほとんどいまい。
だが、その何処に趣きが在るとでも言うのだろうか?
だが、その何処に浪漫が在るとでも言うのだろうか?
つまらない、くだらない、実に味気ない。
ところで、話がガラリと変わるが、皆さまはロールプレイという言葉をご存じだろうか。
まあ、私なんかよりもずっと詳しい方がそれはもう、沢山いらっしゃるに違いない。
私は今、そのロールプレイとやらを絶賛満喫中である。
「師匠ーッ、えっへん、できたぞ!」
今はまだ可愛らしさを色濃く残す、黒髪黒目のイケメン男子が駆け寄ってくる。
「そうか。よしよし。流石私の弟子だ。」
黒髪をワシャワシャと撫で、微笑む。
褒められたこの子は思わずにへらと笑い、慌てて取り繕うとするも、嬉しさを隠せずにいる。
そんな様子も愛おしく、兎を撫でるように彼の耳をくすぐる。
嗚呼、だがこの子は夢にも思うまい。
この子が父の様に慕い、全幅の信頼と無限の尊敬を抱く、この、私が。
この私が、胸に狂気じみた野望を抱えている事を!
この子こそ、この世界の英雄となるだろう。いや、してみせるとも。歴史に万年も残り、史上最高最強と呼ばれるような英雄にッ!
何故私がこんなにもこの子に拘るのかって?そもそも、何故に英雄などを育成しょうとしているのか?
その説明をするには、私のルーツについて語らねばなるまい。
私は、もうここまで聞いた諸君ならば、もう言わずとも分かるだろう。そう、輪廻転生にケンカを売る存在である。
テンプレの俺TUEE転生者である。
私の転生した世界は地球に負けず劣らず残酷であり、救う余地はいくらでもある。なら、お前が救えよテンプレ的に、と思うかもしれない。
だが、少し落ち着いて考えてみて欲しい。
ただ絶大な力で世界を矯正しても、それは仮初でしかない。
希望を抱かせようと、それは所詮夢幻。
いや、そもそもそんな考えをしている時点で傲慢だ。
与えられた強大な力は、人の倫理を犯し、腐らせ、やがてはその人の人間性を殺す。
『絶大な力には絶大な責任が伴う。』
この至言を、真に心の底から理解する人間でなければ英雄は務まるまい。
苦悩に溺れ、絶望に脚を折られ、なお足掻き、自分に打ち勝つ人でなければ。
そういった英雄でなければ、意味がない!
自分自身で血反吐を吐きながら力を得て、なおそれに溺れず、誇り高く在る人でなければならない!
だからこそ、なんちゃって英雄の様な、私の様なクソチートテンプレ転生者が、主人公になってはならないのだ!
よってこの物語は私の物語ではなく、私が育てる英雄の物語であろう。
な~んちゃって。ホントはロールプレイしたいだけです。うん、要するに上が建前。
私は自分が偽善者であり、クソみたいなナルシストであることも自覚している。
自覚しているからこそ、先ほど述べた建前も決して嘘では無い。
だが、それよりも遥かに、ロールプレイがしたいのだよ。
そう、中盤で自己犠牲をしたと思ったら、終盤でラスボス化する主人公の師匠に、私はなりたいのだよ。
途方も無く悲しく、だが心に残り、主人公の踏み台となるような存在。
そのような、誰かの心に住める存在に、私はなりたいのだ。渇望していると言っても過言ではない。
兎にも角にも、何故かチート転生者となったからには、私自身を肥料にするべきだろう?そう思わないか?
はは、ハハハ、アッハハハハハ、ハハハハハハハハハハ!!!!
「ねえ、ししよー? どうしたのー?」
ハッ、いかんいかん。妄想ワールドで熱く語り過ぎてしまったようだ。この子が、こんなにも純粋な眼で見上げてくれているというのに。
ああ、実に鍛えがいがある。ハハッ。
「何でも無いよ。ただ、自然の聲に、耳を傾けていただけさ。」
彼はその大きい眼をパチクリさせると、不思議そうな顔で首をかしげる。
「しぜんのこえー?」
「ああ。そうさ。大地は我らが母であり、同時に海は我らの揺り籠である。空は全てを故郷へと運び、また旅へ送る。森羅万象輪廻転生、さ。この私でさえも、ね。」
彼は私が適当に重々しく言ってみせた、無駄に意味深な言葉の羅列にも懸命に食いつき、その幼い顔をギュッとしかめる。
ああ、だから逸材なんだ、君はね。
「……わからない。ごめんなさい。」
どんな無理難題にも当然な様に挑み、自身の弱さを認め、だが決して諦めない、その清い眼差し。
必ずや、磨いてみせるぞ。どんな手を利用しても、ね。
「大丈夫、今はまだ分からなくていい。いつか、分かる時が来るさ。」
哀し気に、そっと呟いて見せる。
儚さを湛える眼を作り、少し泣きそうな表情も一瞬演出する。完璧だ。
「ただ、覚えていて欲しいな、なんてね。」
肺から空気を絞り出すみたいに、僅かに声に震えを入れてみる。
こういう小さい思い出が、後々の重大なイベントに繋がるんだよ。ほら、あーッとなる、巧妙に隠された伏せんみたいに。
「さて、今日も朝日は下り、月が昇る。夜闇は怖い。闇の聖句は、何だったかな?」
「ふるき血を、おそれよ。しんえんをのぞくとき、しんえんもおのれをのぞきかえしている。」
彼は顔を子供ながらに真剣に引き締めて、静かに答える。
うんうん、調きょーゲフンゲフン、教育が上手く行っている様で何よりだ。
「そうだね。忘れちゃあいけないよ、アダム。」
「はい、ヴラドさま!」
未だ治らない彼の、アダムの悪い癖に思わず苦笑をこぼす、風に見せる。
「ただのヴラドでいいと言っているのに。全く、貴方という子は。私みたいな悍ましい存在なんかに、『様』は到底似合いませんよ。」
自嘲するように、自身の全存在を憎むように、微かに嫌悪を湛えた顔を作る。
「そんなことはッ、ないッ!」
ああ、愛いな、そういう純真さは。
「ししよーは、ヴラドさまは、すごいかたなんだッ!せかいいちなんだッ!」
ハハ、普段の訓練の賜物だな。少しずつ私への崇拝を、徹底的に刷り込ませたかいはあった。
「アダム、君は........。」
「すごいったらすごいんだッ!」
賢明な君が、こんなにも泣きそうな顔を作って…。本当に、最高だよ。
「ありがとうッ、アダムッ…。........ッ。」
感無量な風に顔を歪ませ、彼を強く抱きしめる。
そんな感動的な風景を、銀色の満月が神々しく照らすのだった。
か ん ぺ き !
さて、明日はどういうシチュエーションを作ろうか。
そして、そんな二人をやるせない眼差しで見つめていた、白き三本足の烏はー
ベチャッとヴラドの頭に糞を投下した。
『あの烏、いつか焼き鳥にしてやる。』(ヴラド)
『して見ろよ、この痛々しい中二病野郎。』(烏)
このように、裏で実に低レベルなくっだらない争いを一人と一羽が繰り広げていたことは、誰も知る由はなかった。
勘のいい方ならば名前に意味があるとか考えたりして…。どうだろうネ。
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