1-2.
「ごめんなさい、カミリア!貴女が不敬罪に問われでもなさったらと思うとわたくしこわくなって……」
午後の授業の居心地のわるさったらなかった。
学園内のどこへ行ってもだれもが私の方を見てささやき合ったり、頑張ってください!なんて握手を求められたりするものだから、私とリチェは放課後早々にノウスの保健室へ逃げてきていた。
リチェが私の両手を握って申し訳なさそうに眉を下げる。
「いいのよ、リチェの言う通りだったもの……。それより、アーサライル殿下の妃候補って、本当に?」
その手を逆に握り返して、リチェを覗き込む。
「……そうなの。ずっと秘密にしていてごめんなさい」
「そんなこと気にしませんわ!」
「ありがとう、カミリア。……はるか昔から、妃候補の間では家を巻き込んでの恐ろしい謀略がたくさん起きてきましたわ」
「知っているわ。だから三代前から、然るべきときまで無関係の国民にも、候補者にさえ他にだれが候補なのか知らせない決まりになったのよね?」
「ええ。ただ……アーサライルさまがおっしゃっていたように、わたくしたちの代の候補者は、すでに半分以下まで減っているというお話なの」
「半分以下……って、そんな」
「だれが、どのようにして。もちろん調査は行われているのでしょうが、わたくしたちにはなにも知らされていませんわ」
室内に思い沈黙がおりる。
銀のトレンチにティーセットを載せて、上機嫌に保健室に入ってきたノウスの鼻歌が止まる。
「なにかあったのかい……?」
「いいえ、ノウス先生!なんでもありませんわ」
リチェがぴょんと立ち上がってノウスを手伝いにいく。
「リチェ……」
「だって心配したって、わたくしの状況はなにも変わりませんもの」
はい、とソーサーにのったカップを翳りのない笑顔で差し出してくれる。
私が神妙な気持ちでそれを受け取ろうと手を出すと、リチェはすっとカップを遠ざけてしまった。
「リチェ……?」
「わたくしのことよりギルベルトさまとの決闘のおはなしですわ!」
カップを追って身を乗り出した私に、リチェは真剣な顔をつき合せる。
「や、やっぱりあれは決闘に違いありませんわよね……」
「当然です!どういうおつもりかはわかりませんが、か弱い淑女に剣をお向けになろうだなんて、ギルベルトさまもアーサライルさまも野蛮ですわ!」
「決闘!?カミリア、なんのことだい!?」
ちゃっかり自分の分の紅茶を飲んでいたノウスも立ち上がって輪に混じってくる。
食堂での件を話すと、よほど驚いたのか押し黙って、再びティーカップに口をつける。
……いや、カップは置きなさいよ。
「あちらがどう出てくるかわからないけれど、私も対策を考えないといけませんわね」
「そもそもカミリアが魔法の指導だなんて、不向きもよいところですわ!」
「そうそう……って、え、魔法の決闘なのかい!?」
「剣だとしても無茶なおはなしでしょ!」
わいのわいのと立ち話をする私たちのうしろで、すっと保健室の扉が開く。
「あの、失礼します……」
顔を出したのはアリスだった。