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3-2.

「やっぱり気づいてなかった」


 クラウスがクスクスと笑う。

 正直笑うところではない。

 抗議するようにこぶしをつくってぶんぶん振ると、クラウスはなおさら面白そうに身を乗り出してきた。


「魔法獣を引き寄せる魔法石を仕掛けられていたんだよ、おそらくアリス嬢か君自身に」

「そんな……!だから四匹、いえ五匹も一気に?」

「結果的にはそれも正しい。けど肝心なのは、魔法獣の移動の助けになるということだ。たとえば離れた場所にいる術士が、ターゲットを定めずただ魔法獣を生み出したとするね?」


 教師が生徒に答えを促すように、人さし指を立てて軽く私に向ける。

 なんとなく気に食わなかったが、私は素直に頭をめぐらせてその状況を想像した。

 通常ターゲットの指定は、術士自身がその標的の一定距離内にいなければならないという制約をもたらす。

 ただ攻撃に特化して生み出された獣は、より強い魔力を食おうと人を襲うようになる──。


「──魔法獣は魔法石の魔力を辿って勝手に私たちの元へ向かい、術士は遠くにいることができる……」

「正解。ターゲット指定に使うはずの魔力を、数を増やすことにまわすこともできるね。一度生み出してしまえばあとは放っておけばいいんだから、アリバイ作りなんかもできちゃう、と」

「そんな……」


 それでは犯人探しの限られた条件すらなくなってしまったということだ。


「魔法石に心当たりは?」

「ありませんわ、そんなの。……あの、でも、魔法の残り香と同じ香りの人物を手当り次第さがすという手は使えますわよね?」


 クラウスが苦笑する。


「僕の婚約者殿は、僕に犬になれと仰せになる」


「言 っ て ま せ ん !!」


 思いっきり立ち上がった拍子に、足首を固定した包帯が引きつってぐら、と体勢をくずした。


「おっと」


 転びかけたところをスマートに支えられて、椅子にそっと座らせられる。

 ノウス兄様。この包帯、逆効果では?

 私は気まずくて口をへの字に引き結んだ。

 中性的、なんて評判を欲しいままにしておいて、クラウスの腕は意外と力強かった。なんだかずるい。

 当の本人はなにごとも無かった様子で涼しい顔をしている。


「正直に言うと、香りを辿るのは難しい」

「…………なぜですの」

「あの魔法石に込められた魔力の香りは単純なものじゃなかった。術士を辿ろうとすると、それを覆い隠すように何重にも別の魔法がかけられているような感じ」


「それに」


 クラウスが一旦言葉をきって、ずいっと顔を整った顔を近づけてきた。

 ごく近い距離で、学園の女生徒のほとんどが倒れてしまいそうな妖しくて魅力的な笑顔を向けられる。


「甘いことを考えてはいけないよ、カミリア」

「な、なんですの」

「僕はアーサー様の側近であり親友だよ。殿下が道を違えるなら正すけど、彼はまだ道を探しているところなんだ。黙って付き従うのが、僕の役目だろう?」

「…………私に味方してくださるつもりはない、とおっしゃるのね」


 目の前の黒い瞳を睨み返す。

 クラウスはそれに満足したように更に猫のように目を細めて、私から離れた。

 思わせぶりに自分の唇に指をあてる。


「いまはまだ、ね?」



 結局、話が終わった頃には寮の消灯時間はとうに過ぎてしまい、一人で帰ると言い張る私にまあまあ、なんて言いながらついてきたクラウスと二人で女子寮に戻ると、寮母様はなにを勘違いしたのか乙女のように両の頬に手をあてて「まあ、」なんてこぼした。


「大事な方との時間は大切にすべきですものね。でも、いくら許嫁同士とはいえ、結婚前の男女が遅くまで一緒にいるのはあまり感心できませんよ、オッフェンバーグ様」

「申し訳ありません、寮母様。カミリア嬢は今日足をくじいてしまい、私は不安がる彼女のそばに少しでも長くいて差し上げたかったのです」

「あらあらまあまあまあ!」


(どの口がおっしゃるのかしら〜〜!?)


 しかしおかげで寮母の厳しいお叱りを逃れられたのも事実だ。

 このために、クラウスは無理矢理でもついてきたのだろう。


 ──本当に食えないわ、このひと。


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