0. おはなしのはじまり
生まれ変わりを願ったことはあるだろうか。
あるいは、剣と魔法、現実ではありえないファンタジーの世界を?
私は、どちらもある。
退屈な日常を脱して、夢と希望あふれる異世界で冒険する日々を、そんな物語を小説や漫画、ゲームで沢山見てきた。そして願っていた。
ここじゃない、こんなつまらない場所じゃない、私が私らしくいられる世界が待ってるはずだって。
そして、叶った。
夢、なんて口にするのがはばかられるぐらい大人になって、忙しい日々にそれこそ夢なんて見てられないぐらいで、でも大人になってしまったからこそ『私らしさ』を誰にも言えないでいた。
そんなある日、本当に些細な事故で私の短い人生は終わった。終わったはずだったのだ。
なのに私は目覚めた。
クレアドール王国。
剣と魔法が当たり前に存在する世界で、その王立クレアドール魔法学園の女子寮で私の二度目の人生が幕を開けた。
まさに朝、目覚めて瞼を開くように。
……というより、本当に朝目覚めた瞬間、くだらない人生を送っていた『私』と、たった十五歳の公爵令嬢カミリアの人生が溶け合ったのだ。
私は私を思い出した。
鏡に写ったカミリアは、少し気の強そうな顔をしていて、でもとびっきりの美少女だ。
栗色の巻き毛が、ゆるいウェーブを描いて腰まで届く。
身に着けた学園指定の制服だって、運営を褒めたくなるぐらい可愛らしい。
でも私は知っていたのだ。
「なんで……なんでよりにもよってココなの……?」
新緑の可愛い制服も、カミリアの睨みつけると怖い美貌も、私は知っているのだ。
「どうして、私が乙女ゲームの世界に生まれ変わっちゃってるのよ──!?」
前の人生では誰にも言えないでいた、一番大事な『私らしさ』であり、『秘密』。
私の記憶を思い出した朝からちょうど一年経って十六歳となった、カミリア・フォン・ウェステリア。
前世で人気を博していた乙女ゲームでヒロインをいたぶり邪魔する悪役令嬢。
私は、女の子が好きです!




