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僕らの日常  作者: 優也
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一人暮らしの行方

「オレ、高校卒業したら一人暮らししようかと思ってんだ」

 突然何の前触れも無く槙本が話してきたのは、受験も終わった3月中旬だった。

「マジで?」

 羨ましい様な、少し寂しい様な、何だかわからない感情が込み上げてくる。

「無事大学も合格した事だしな」

 槙本は廊下の窓際に肘をかけながら、空を見上げていた。

 何だか最近槙本が空を見ている事が多い気がして、俺はその行動がとても気になっていた。

 空を見上げる槙本の横顔を見るたびに、胸がざわつく。一人にしちゃいけないような気になる。

「なぁ、お前さ……」

「んー?」

 ――なんかあった?

「いや、別にいーや」

「なんだそれ」

 緊張感の無い返事をされ、俺は言葉を飲み込んだ。その代わりにもう一つの言葉を口にした。

「一人暮らしかぁ、いーなぁ。俺も親に言ってみようかな」

「大学合格祝いに?」

「そう! 合格祝いに!!」

 槙本の言葉に反応して俺は声を大きく張り上げて、この事実を確認するように叫んだ。

「でもまさか、辻がオレと同じ大学に合格するとは思わなかったな……」

「だよなぁ。俺も受かるとは思わなかったぜ。俺ってすげー」

 槙本が酷い事を行っているのに気がついてはいたけど、俺はそんな言葉も気にならないくらい、自分に感心していた。

 実はやれば出来るやつだったんだなぁ、俺って……。それにしても、卒業したら一人暮らしかぁ……。

「なぁ、俺も親がいいっつったら……、俺ら、一緒に住まねぇ?」

「え?」

「いや、槙本がイヤだったらいいんだ」

 驚かれて一瞬怯む。本当は引きたくないけど、槙本がイヤなら仕方が無い。

「別にイヤじゃないけど、辻はいいの?」

「いいのって、俺が言ってるのに、その返答はおかしくね?」

「そうだな、おかしいか」

 ――イヤじゃない。その言葉が嬉しくて、俺は顔が緩むのを止められなかった。つられて槙本も笑っている。

「じゃぁ、春から今よりも騒がしくなるわけだ」

「俺、そんなに騒がしいか?」

「十分騒がしいだろ」

「そうか? 槙本だって同じじゃんかよ」

「お前よりはマシだよ」

「ひでーの」

「でも、許してもらえるといいな」

「あぁ、今日速攻で聞いてみるわ!」

 二人で笑いながら話している時間が、俺はとっても楽しかった。大学が一緒でも、それ以上の時間を槙本と一緒に過ごしたいと俺は心からそう願った。


 次の日、昨日の件の報告を早く槙本に伝えたくて、俺は珍しく学校に早く来ていた。

 授業が始まる前にと、槙本のクラスの前で待ち受けていた。

「おはよー」

「おはよう。今日の宿題やってきた?」

「昨日のテレビ面白かったなぁ」

 次々と登校してくる学友たちの中に、まだ槙本はいなかった。俺はそわそわしながら、友達の中から槙本を必死になって探していた。

「おはよー! 辻! 今日はえらく早いな」

「なんっだよ、後藤かよ」

「なんだその言い方」

「別に」

 お前を待っていたわけじゃねーし。早く槙本こねーかな。

「なぁ、部活の打ち上げなんだけどさ」

「部活? そんなのもう半年も前に終わったじゃねーか」

「とっくに終わってっけどさ、後輩がなんかしてくれんだって」

「へー、そうなんだ」

「それでさ、ちょっと相談なんだけどさ」

「後にしてくんない?」

 今は無理。槙本待ってるし。

「廊下さみーし、教室行こうぜ」

「ちょっ、マジ後でにしろって」

「いいから、早く話したいんだって」

「俺は……っ!」

 早く槙本と話しがしたいんだよ!!

 半ば強引に後藤に連れられ、教室に強制連行されてしまった俺。ずるずると引きずられながら廊下を最後まで見ていたけど、槙本が来る様子はなかった。

 なんで、今日に限って遅いんだよ!

「ちくしょー! 早く言いたかったのに!!」

「なんか言ったか?」

「うっせー!」

 不機嫌丸出しで後藤に八つ当たりしながら、自分の教室でホームルームまでの間、永遠後藤の話に付き合わなきゃならなくなった俺って、超哀れ……。


「槙本!!」

 待ちに待った休み時間。俺は後藤に捕まる前に教室を勢い良く飛び出し、隣のクラスの入り口から大声で槙本の名前を叫んだ。

「声でけーよ! 普通に呼んでも聞こえるだろ!」

 俺の声に驚いて、怒りながら入り口まで走ってきた槙本を見ても、嬉しさは変わらず、むしろ早く言いたくてワクワクした気持ちの方が大きくなっていた。

「わりーわりー、昨日の話なんだけどさ」

「少しも悪いと思ってないだろ……。昨日の? あぁ、一緒に住むってやつ?」

「そう! それ!!」

「で、一応聞くけど、どうだった?」

 槙本の問いかけに、顔がほころぶ。

「OKだったぜ!」

「だろうな」

 間髪居れずに感想が返ってきた。

「だろーなって? どうしてわかった?」

「どうしてって、言う前からそんな顔してたら、誰だってわかるし」

「そんな顔って、どんな顔?」

「その顔だ」

 ずいっと槙本の指が俺の顔に伸びてきた。指摘されて始めて、自分が笑っている事に気がつく。

「あはっ」

「あはじゃねーし」

 苦笑交じりに槙本も笑ってくれた。

「これからも宜しくな」

「おう! よろしくな!!」

 バシっと音を立てて硬く握手を交わした俺たち。嬉しくて、俺は槙本の手を強く握った。

 最初、親は一人暮らしには反対だった。でも、ランクを上げた大学に合格出来た事と、槙本と一緒に住む事を言うと

「それなら……」

 と、許してくれたのだ。一人じゃ心配だけど、槙本が居るならいいって、俺はどんだけ信用されて無いのか……。と、少し傷ついた。

 でも、これで槙本とずっと一緒にいられると思うと、そんな小さな傷もすぐに忘れてしまった。

 もう一時の気の迷いではなく、俺は槙本がたまらなく愛しいんだ。だから、槙本がそう思って無くても、俺はあいつとずっと一緒にいたい。

 きつく握られた手を見ながら、俺は笑顔を隠すことが出来なかった。



 進路も決まると、3年は授業もあまり無く、登校してくるクラスメイトの数も少なかった。

 だから俺と槙本は春から住む家を一緒に探すため、不動産めぐりをすることにした。

「なかなかいいのないなぁ」

「この時期だからね、いい部屋はすぐに決まっちゃうんだよ」

 賃貸情報誌片手にカフェでコーヒーを飲みながら、穴が開くんじゃないかってくらいの勢いで俺は物件を探していた。

「槙本はどーゆーのがいい?」

「オレ? あんまりこだわらないけど」

「そうなのか? まぁ、駅近いか、大学近いか、どっちかだよなぁ」

「あぁ、それだと助かるよね」

「でも、それだと高いんだよ……」

「半分づつなんだし、そんなに気にしなくてもいいんじゃない?」

「そうは言っても、これんか駅近くて2LDKで13万だぞ?」

 月13万。二人で割っても65000円。普通に1Rが借りれそうな家賃だった。

「そ、それは少し痛な……」

「だろー」

 契約の時のお金は、両方の親が出してくれる事になってはいたが、月々の家賃は自分たちで出すことになっていた。 バイトも見つけて、自立していくすべを見につけるために。

「しゃーない、もうちょっと探してみるか」

「そうだね、不動産屋にも行ってみる?」

「あぁ、そのほうが案外いいのあるかもしれないしな」

 残っていた生温いコーヒーを一気に飲み干し、俺たちは寒い街中に出ることにした。


「おぉ! これいいかも!!」

 外に出て、数件目でやっと発見したチラシ。俺は食い入るように条件を読み上げた。

「2DKバストイレ別、家賃72000円! しかも大学から駅一つしかちがわねー!」

「マジ?!」

 思いがけない情報に、俺は思わず大声を上げてしまった。周りにいた人たちが何事かと自分たちを見る。

 恥ずかしくて、お互い顔を見合わせ苦笑する。

「中、入ってみようか」

「だな、早くしないとまた無くなるかもしれないし」

 少し緊張しながら、不動産屋の扉を開け俺たちは中に入った。



 目当ての物件はまだ誰も手をつけていなかった様で、次の日曜に見せてもらえる事になった。

 とりあえず見学の予約を済ませ、不動産屋を出て俺たちは一安心することが出来た。 

「まだ残っててよかったな」「そうだね、日曜どうする? 駅で待ち合わせする?」

「じゃあ、昼に駅前で待ち合わせて飯食おぜ」

「いいね、それでいこう」

 来た時とは明らかに足取りが軽くなった俺、最近浮かれっぱなしなのは言うまでも無い。

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