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僕らの日常  作者: 優也
3/4

進路

 三年になると、クラスが別れ槙本と一緒の時間が少なくなった。さすがに進路のこともあり、そうそう遊んでばかりはいられなくなっていたのも事実だ。

「なぁ、お前どこの大学行くか決めた?」

 昼休み、クラスが別々の俺らが行く場所は大抵屋上が多かった。

 コンクリートの上に寝っ転がりながら空を見ていた俺は、何気なしに槙本に進路の事を聞いてみた。

「んー、今考え中。まだ迷ってんだよねー」

 隣に座る槙本も空を仰いだ。槙本といるのが心地よくて、この関係を高校で終わりにする気が無かった俺は、おもいきって

「どうせなら、一緒の大学行かね?」

 軽いニュアンスで言ってみた。すると槙本は笑って

「それって、辻が勉強頑張るの? それともオレがレベルを下げるの?」

 サラッと酷いことを言ってのけた。

 悪かったね、お前より頭悪くて……。ってか俺は普通なの。お前が良すぎるだけだ。

 心の中でムカつきながら、俺は命令口調で言ってやった。

「お前が下げろ」

 一瞬の間、の後、二人で大爆笑したのは言うまでも無い。 槙本にレベルを合わせてもらおうなんて、本当は思っていない。一緒の大学に行きたいのは、お前とずっと一緒にいたいのは、俺の願望で。それをお前に強制することは出来ないから。

 だから俺は、何気なしに言った自分自身の言葉で決心したのだ。槙本と一緒に居られる様に、がんばらなきゃって……。




「おはよー」

 短いようで長い夏休みも終わり、少し肌寒くなってきた10月。俺はいつもの様に教室に入ろうとした。

 その時、廊下の窓の外を見つめていた槙本の姿が視界に入って、俺は足を止めた。

「槙本?」

 呼んでも返事がない。聞こえなかったか? 俺はそっと槙本に近寄り肩を叩いた。

「おはよう」

「あぁ辻、おはよう」

 心なしかトーンの低い槙本の声に、俺は眉をひそめる。

「何かあったのか?」

「寝不足。昨日テレビ見てたら寝るの遅くなっちゃったんだよ」

「そんなに面白かったのか?」

「んー、まぁね」

 なんだか腑に落ちない返事。俺はふと槙本の手の甲に赤いミミズバレの様な傷を見つけた。

 「お前、それどうしたの?」

「え?」

 言われて、あっと袖を引っ張る槙本。その行為に俺の心臓が少しだけ痛んだ。

「どっかで引っかけちゃって……」

 見ればそんな感じの傷では無い事くらいすぐわかっていた。

 それでも傷を隠し、それ以上何も言わない槙本を見て、俺は初めてコイツを守ってやりたいと思った。 ただ一緒にいたいとか、そんなんじゃなくて、自分の中にあった曖昧な気持ちに、ようやく気がついた気がした。

 何だかとても愛しく思えて、俺は無意識に槙本の肩を抱いた。

「サボっちゃえば?」

 俺はあえて傷の事を追及せずに、話しを合わせる事にした。

「んー、どうしよっかなぁ」

 ボケーっと窓の外を見ながら答える槙本。

「なんか天気も良いし、俺もサボっちゃおっかなー」

 窓から差し込む光に手を翳しながら、俺は槙本に笑顔を向けた。




 日の光と風が無い事もあり、屋上は結構暖かかった。

「んー、きもちー!」

 思いっきり背伸びをしながら、空を見上げる。

「でもいーのか? 辻までサボっちゃって。今の時期まずくね?」

 後から入ってきた槙本は、屋上の扉を閉めながら俺に言った。

「いーのいーの。たまには息抜きも必要だって」

「辻の場合、たまにじゃなくて、いつものような気がするけど……」

「何? 何か言ったか?」

「ううん、なんでもない」

「そう? 変なヤツ」

 言いながら、俺はいつもの場所に寝っ転がった。

 本当は聞こえていた。でも今日は槙本と言い合いたいんじゃない。

 槙本の心が少しでも晴れてくれたらと思っていだんだ。そう、この気持ちの良い空の様に……。

「そんなところ突っ立ってないで、こっち来いよ」

 上半身を起こして手招きする。槙本が俺のすぐ側まで来た所で

「どーぞ」

 自分の太ももをポンポンと叩いて見せた。

「何、それ?」

「今日は特別に、俺様の膝枕を貸してやろう」

「男同士でキモくね?」

 槙本の言葉で一瞬胸が痛くなる。でも俺は大げさに傷ついているふりをしてみせた。

「ひっでーの、せっかくの俺の好意をお前はそうやって……」

「サンキュ」

 言い終わらないうちに、お礼の言葉が聞こえた。

「え?」

 以外だった言葉に俺は驚いていた。それは、膝を差し出した事に対してか。それともここに誘い出した事か……。

「じゃぁ、お言葉に甘えて」

 言うなり、勢い良く槙本の頭が俺の太ももを直撃する。

「いてー! お前な、もうちょっとゆっくりこいよな」

「あー、枕がうるさいなー」

「お前っ……!」

「少し寝るわ」

 俺の苦情も受け付けず、槙本は顔に腕をのせて日差しを遮った。俺は軽くため息を付いて、仕方なく言葉を呑むしかなかった。

 なんだか変な感じだよな。誰か入ってきたら、絶対に変に思われるな、このシチュエーション……。それでもコイツが断らなかったのって、相当何かキツイ事でもあったのか?

 数分後、規則正しい寝息が聞こえてくる。ゆっくりと上下する体。俺はまるで宝物を扱うように、槙本の髪の毛をそっと撫でた。

「なんでも話してくれたらいいのに……。俺じゃ頼りないか?」

 返事が帰ってくるはずも無く。俺はただ思ったままを口に出していた。


 いつの間にか大きくなっているこの気持ち。

 決して報われるものじゃないって事くらいわかっている。でも、それでもお前の為に何かできることがあるなら、してやりたいんだ。

 だから、それくらいは、許してくれよな……。


 結局あの傷の本当の訳は分からず仕舞い。槙本の言っていた通り、本当に何処かで引っ掛けたのか。それとも別の訳があるのか。俺には聞く勇気が無かった。


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