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第3話「悪夢の襲来」

今回で遂に第3話です!よろしくお願いいたします。

琉生はブロンドの髪の少女を咄嗟に抱き締めると、思いっきり地面を蹴り、バラバラに落下してくる鉄骨を避けながら猛スピードで100メートル先まで駆け抜けた。少女は状況がようやく掴めたのか、少し動揺しつつも彼の腕を振りほどいた。


「あ、ありがとう。もう大丈夫よ」


彼は脚のピリピリとした痛みに堪えていると、脚に取り巻く炎のような存在に気付いた。


「...これ魔法なのか...?」


「そうね。貴方の属性は火...かしら。とっても綺麗な赤じゃない」


ーーそういえば、グロリア第七魔法学院の授業で聞いたことがある。記憶に強く刻まれている性質の能力が出やすいということを。もしかするとオレにとってはあの爆発に巻き込まれた時の炎が、深く刻まれていたのかもしれない。或いは料理の時に使う炎なのか、定かではないが...。


「良かった。これで晴れて立派な学徒の一員ね」


「は?」


少女は髪を結い直すと、手を差し伸べた。少し頰を赤らめている様子だったが、さっきまでとは表情が優しくなっていることが一目で分かる。


「覚えてなさそうだから特別に教えてあげる。リタ・アマビスカ・エルカーノよ。よろしく」


「お前らは魔法が使えたらようやく挨拶してくれるのな。オレは朱道琉生だ」


握手を交わすと、リタは彼の脚の向かって魔法の水を放った。脚の炎を消し去ると、いつもの鋭い眼差しで彼を睨みつけた。


「貴方は火で、私は水。やっぱり私の方が優勢だわ」


「こいつぅ...」


今まで魔法が体内から発現せず、調合や実験を繰り返して作った魔術兵器や魔法道具で戦うことが多かった。それ故に琉生はシュヴァリエへの試験は認められず、研修に行き着くまで3年ほどかかってしまった。魔法発現が不安定とはいえ、主要属性である炎を手に入れた彼は少しだけ自信を取り戻していた。


--オレにも...ついに魔法が....


少しでもあの子を救い出せる方法が見出せた気がした。その為にも、シュヴァリエになる必要があるからこそ、この魔法が必要だったのだから。



翌朝、琉生の日課であるジョギングをしていた。空気はいつもより澄み渡っていて、登り始めた太陽はどこか色がくすんでいるように見えた。彼はただ無心に走っていると、リタが向こうからやってきた。


「おはよう、朝早いのね」


シャンプーの香りと、昨日とは打って変わってポニーテールにした彼女の姿を見て、少しばかり彼は動揺を隠せなかった。


「ま、まぁな、毎朝弁当作ってるし...げ、クレトが来る」


「挨拶くらいしておけばいいじゃない。そういえばクレトさんの属性って雷だったかしら?」


「この魔法マニア... ! だからさ、気まずいんだよ...昨日の今日だからさ」


クレトを避けるように別の細い道を二人で通り抜けていく。本人は気づいたのかふぅ、とため息を吐いていた。


「そういえば言い忘れてたけど、魔法は身体の一部分から発現するけど、鍛錬すれば身体のどこからでも発現できるようになるわよ。ありえない部分からもね。私からしたら当たり前なのだけれど」


「そうなのか?じゃあ炎の翼とか生えたりすんのか...?ヒーローみたいでカッケー!」


「まぁ頑張りなさい、試験まであまり遠くないんだから。少しでよければ...その、始業前くらいなら朝練がてら付き合ってあげるわよ」


琉生が目を輝かせながらリタに向かってありがとう、と呟くと彼女は後ろを向いて少し照れた表情を浮かべていたのだった。


--昨日までの貴方がウソみたいね。見違えたわ、素敵よ。


授業の本令が鳴り響く頃、いつもの教室には3分の1ほどの生徒しか集まっていなかった。赤髪で無精髭を生やした青年の教師・カーマインは気怠そうに生徒全員に向かってこう言った。


「あー、どうやら今日は授業できそうにないな、次回は錬成の基礎術式テストを出すから、他の連中にも復習してくるように伝えてこい!以上、解散!」


「なんかおかしいわね...生徒がこんなに来ないなんて。今の期間実習に行ってる生徒はそんなに居ないはずよ...?」


「そういえば、クレトもいないな」


きょろきょろと琉生が辺りを見渡して言った。リタも不可解そうに考え込んでいると、ある生徒が先生に対し質問を述べた。


「先生、今日こんなに人が来ていないのって理由でもあるんですか」


「連絡まわってなかったか、黒衣の魔術師集団の抗争に巻き込まれたんだよ。いつもならトップシークレットものだが、うちのクラスの連中が巻き込まれたのは事実だ。んーまぁ、教えないわけにはいかんだろ」


クラス内が騒然とした。


--黒衣の魔術師...?もしかしてオレがこの世界に来る前に遭遇したあの黒い魔女の仲間なのか?だとしたら...。


「とにかく、お前らは奴らを見かけても攻撃するんじゃないぞ。すぐに国家警備部隊かこの学校に連絡しろ。挑発を受けたら負けだ」


窓の外を見上げれば、晴れ渡っていたはずの青空が、真っ黒な渦を巻き始め、空一面を黒く染め上げていった。何か起こる、そんな予兆が立ち込めていたのだった。



始業1時間前に遡る。普段の様に通勤・通学する人々が道を歩いている中、黒衣の魔術師たちは基本交通量の多いエリアを狙って襲撃を始めていた。罠を仕掛けて獲物を捕らえるもの、銃であえて急所を外し傷めつけるもの、実に様々な魔法を駆使して彼らは民衆を黒の渦に巻き込んでいった。その現場に意図的に居合わせたクレトは、憎悪に満ちた眼差しで悪しき集団を睨みつけていた。ふと彼の目の前に倒れこんできた青年が、血に塗れた片目を抑えながら震えながら訴えかけてきた。


「助けてくれ...このままじゃ...」


「...」


クレトの目の前に広がるのは、赤く染め上げられた大地、無残なまでに壊された人々の姿。彼の怒りは頂点にまで達し、近くにいた黒衣の男に細く鋭い剣で斬りつける。


「こんな事して、ただで済むと思うなよ...はぁぁぁっ!!」


この黒衣の集団は度々ニュースに出ることも多かった。事件といえば魔法関係の貯蔵品などを狙ったものばかりだが、今回決定的にいつもと違う点は、日中に人だけを狙い、襲撃が行われたということだ。そして、この世界で数十年に一度と言われる「常夜の月」がまさに今日から始まろうとしていたのだ。「常夜の月」とは、約1ヶ月間、太陽の光が完全に遮断された世界が広がることを指し、逆に夜が来ない「白昼の陽」も存在する。この「常夜の月」が示すものこそ、黒衣の魔術師達の持つ闇属性の力が存分に発揮される時期であるということだった。彼らはこの日が来るまでにどれだけの勢力を蓄えてきたのだろうか、知る由もなかった。


これから必ず起こりうる災厄を、彼らは乗り越えなくてはならない--。運命は廻り始めたのだ。


プロローグもいよいよ完結し、物語の根幹となる部分に近づいてきました!次回からバトルが激しくなってきます。よろしくお願いいたします!

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