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第1話 「シュヴァリエ」

新たな登場人物


朱道琉生 (19)

本作の主人公。茶髪に紺青の瞳。少し根暗だが気を許した相手には明るく振る舞う。魔法があまり使えないのには理由があるようで...?


リタ・アマビスカ・エルカーノ(17)

本作のヒロイン。ブロンドの髪に藍色の瞳。勝気な性格でツンデレ。グロリア第七魔法学院に転校してきた女子生徒。水属性を使いこなす。


クレト・ブランカフォルト・トレンテス(17)

本作の準主人公。黒髪に赤色の瞳。クールで素っ気ない性格。グロリア第七魔法学院のエリート。雷属性で伝説の技も使える。

第1話 「シュヴァリエ」


-ーオレは果てない道を歩き続けている。たとえそれがなだらかな坂で、今にも崩れそうな橋だとしても歩くことを拒まない。それは誰しもが抱える夢が、その道の果てにあるからであるー-


ーーここは7大陸国家からなる大陸の1つである「オッキデーンス」と言われる場所。大陸一つ一つが国家として存在している。あらゆる民族や文化が混ざり合い、少しずつ大陸独自の文化が薄れゆく中で、昔から変わらないものがある。それこそ、魔法である。彼、朱道琉生は運動神経も顔も平凡。だが、誰にも負けないと思えることがあるとすれば、料理くらいだろう。


大陸の中央都市アエテルヌムにおける魔法聖団に君臨する魔法騎士「シュヴァリエ」が王家と同等の地位と名誉を築いている。琉生もその魔法騎士の候補生として「グロリア第七魔法学院」に4年ほど通い続けている。さまざまなジョブの資格を得るために多くの人が通うものの、多くの人が過酷すぎる訓練で命を落としたり、脱落する者がいた。琉生は最高学年になったものの、これといって地域への貢献や成果が出る程の事はしていなかった。


「こんなことなら回復術師とか目指すんだったな俺、実戦苦手なんだよ」


「分かる、私も」


「だろー?回復術師なら薬剤師の方と勉強内容近いし、何より仕事に困らない!」


「あんたは頭いいんだから絶対いけるって、来年から取り直してみたら」


「グロリア第七魔法学院」の通学路の途中、周囲の生徒達がある一人の少女を見つめ、生徒達は息を呑み、立ち尽くしていた。その少女は緩くウェーブの巻いたブロンドの髪で、深い海の底のような色の瞳をしていた。琉生も彼女にぼうっと気を取られていた。


--綺麗な子...こんな子もいるもんだな。転校生かな?


彼は油断している間にその少女に拘束術式をかけられてしまい、しゃぼん玉のような水の拘束魔法に閉じ込められ、体を宙に浮かばせていた。


「何すんだよ!」


「貴方が私の道を阻んで来たからよ。道の真ん中に居て邪魔だから退かしたまで」


ブロンド髪の少女は鋭い眼差しを向けながら彼にそう言うと、スタスタと歩き始めた。


--いーや、前言撤回。オレが嫌いな感じのタイプの女だ。


琉生は術式を解こうと鞄から短剣を取り出した。この短剣は「グラディウス」と呼ばれ、魔法の術式が組み込まれている。魔力が無くても魔法が発動する文明の代物だ。


「ふんっ!あれ?切れない...えいっ!てりゃあ!このっ!」


彼は特殊な術式で練られているものだと気がついた。そう簡単に解けそうもなく、少女の魔法技術の高度差に愕然としていた。魔法術式を組み込んだ武器といえど、生身の人間の生成した魔術や魔力には劣る。そして周囲の生徒は何事もなかったかのように、それぞれの学部の校舎の出入り口に入っていった。


「...どうしろってんだ、いやなんのこれしきぃ!!」


琉生はひたすらしゃぼん玉に剣を当てているものの、びくともしない水。彼の体力を確実に消耗させていったのだった。すると、校舎裏から一人の黒髪の少年が現れた。彼がしゃぼん玉に手をかざすと、みるみるうちに水の膜が破けていった。琉生はひとまず塀につかまりながら無事着地した。


「はあっ、はあっ、苦しかった...あ、ありがとな...クレト」


「そんな術式も解けないようじゃ、シュヴァリエは難しいだろうな」


「なっ...」


琉生は反論しようとするも、言い返す言葉が思いつかなかった。彼自身「グラディウス」がなければ微量の魔法を使えないおろか、この黒髪の同級生・クレトには一歩も及ばないことは分かっていた。実力差が明らかで、琉生自身が言い返せるような相手ではなかったのだ。


「あんたがどうなろうが知ったことじゃないが、研修の時にヘマされたらチームの俺が困る」


クレトは踵を返すとローブをなびかせながら歩き始めた。別れ際に彼はこう言った。


「シュヴァリエ専属の料理長でも目指したらどうだ?」


ーー何も、言い返せなかった。栄養や調理などの資格は1年足らずで全て取れた。料理をするのは好きだし、誰かに振る舞うのもすごい好きだ。だけど、オレが本当になりたいのは...


「魔法騎士...シュヴァリエなんだ」


輝く太陽を遮るかのように手を高くかざした。予鈴が鳴り響くチャイムも、風のせせらぎも彼にとってとても遠く感じるのだった。


シュヴァリエ候補生は2週間後、実地研修のために中央都市アエテルヌムへ赴くことになっている。その際に2人1組で行動するように定められているのだが、くじ引きで琉生とクレトは同じチームメイトになった。クレトの人気は学校中を取り巻くほどで、ファンクラブが結成されるほどに熱い。彼と組みたかった女子達は琉生を毎日のように恐ろしく睨みつけていたのだった。


「はぁ...」


琉生はぼんやりと教室の窓を眺めて座っていると、さっき会ったブロンド髪の少女が眼前に姿を現した。中々彼女が琉生に声をかけても気が付かないので、辺りがざわつき始めた。


「ねぇ、貴方いい加減返事しなさいよ」


彼女に机に手を思いっきり打ち付ける。思いっきり机を叩いたせいか、彼女は少し痛そうに片目を潤ませながら自身の手を抑えていた。するとようやく彼は彼女に気が付いた。


「あっ...バブルの女」


「その名前やめてくれる?れっきとした名前があるんだから。さっきホームルームで自己紹介したでしょう?まぁいいわ、さっさと行くわよ」


彼の服の裾を思いっきり引っ張り上げると、彼を教室の外へと連れ出した。周りのざわつきがより一層深まる中、ただ少女は無言で歩いていた。そして彼女は校舎裏に着くとすぐさま壁にルカを思いっきり押し当てた。


「貴方、この世界の人間じゃないでしょう?」


少女は琉生に5分ほど問いただし続けていた。彼は何も答えようとはせず、無言を貫いていた。


「...」


「いいから!答えなさいよ!ろくに魔法も使えないなんておかしいわ」


「...何が知りたい」


少女は思いっきり息を吸うと、再び口を開いて素直に答えた。


「貴方はどうやってこの世界に入ったの」


「そんなに聞きたいならこの手を離してくれる?」


彼は冷たい眼差しを少女に向けた。思いっきり手を振りほどくと、一目散に走り出した。


「ちょっ...待ちなさい!まだ何も聞いてないわ」


彼は工事現場の裏へと消えてしまい、彼女の魔法で追跡できないところまで行ってしまったのだ。


「なんなのよ...ちょっと聞きたかっただけなのに」


時は4年前に遡る。


--あの日のこと、忘れられるわけがない。


「すごい!!琉生、また一番じゃない」


「琉生兄はもしかしたら本当に陸上の選手になれるかもね」


ーー最初に思い出したのは母と弟がオレに駆け寄ってきて、笑顔で褒めてくれたことだった。父はオレに無関心で、あまり口を聞いたことがなかった。ごく普通の4人の家族で、どこにでもいるような普通の中学生だった。ただ、オレが人と違うことがあるとするなら、他の人より"少しだけ"足が速かったことだろう。


「あいつ、陸上強豪高校のスポーツ推薦取れたって」


「走ること以外本当に僕らより下だもんね。あ、でも料理はすごいうまかったね」


仲の良いクラスメイトとじゃれ合っている光景が目に浮かんでいた。決して蔑んでいるわけではなくて、お互いをからかったり、褒めあったりするような間柄だったんだろう。少なくとも今よりは誰かから大事にされていた存在だと思う。だが、大抵はオレの脚の速さで近づいてきたような連中だった。仮にオレの脚が評価されているだけであって、オレ自身に興味があるわけじゃなかった。そんなことは分かっていたけど、そう思わないようにしていた。もし、それを肯定してしまったら、オレの存在している意味が分からなくなりそうだったからだ。


ある日、ごく普通の日常が一変した。校外実習として、キャンプ場に行った帰りの出来事だった。


「レクリエーションも終盤に差し掛かってきましたー!次はカラオケ大会だー!!」


司会の生徒がバスの中の賑やかさをより強くし、それぞれの生徒が楽しんでいた。スナック菓子やチョコレートの甘い香りが立ち込める。


「最初に卒業式でも歌う曲にしようかなー?!」


「それは最後に歌うやつでしょ!しんみりさせないでよ」


バスの中が賑やかになる一方で、ふとオレは道路の先にいる二人の影が目に入った。一人は赤い刻印が背中に刻まれた黒衣の魔女。もう一方は青の刻印が刻まれた白い魔女。黒の魔女からはとても禍々しいオーラが漂い、白い魔女はボロボロで今にも倒れそうだった。彼女達が何を言っているかは聞き取れなかったものの、何か言い争いをしているように見えた。


「一体何なんだ...?」


次の瞬間、バスは謎の爆破に巻き込まれた。ほんの一瞬の出来事で、バスは炎に包まれ、縦に真っ二つに割れ、木っ端微塵になる瞬間が目に移った。運良く木っ端微塵にならずに、オレは崖に身を投げ出された。だが視界が真っ暗で、焼けるような痛みが全身に走り、脚がぴくりとも動かなかった。ただ、オレの近くに一人の足跡が近づいてきて、胸をさするような感覚があった。頰を掠める冷たい吐息が心地よかった。意識が遠のく中で、微かに涙を浮かべた少女の姿が見えた気がした。


--マダ、イキガアル...ガンバッテ、アトモウスコシダヨ...


今回初投稿ということで、楽しんでいただけましたでしょうか...?

いきなり主人公・琉生の過去が明らかになります!グロリアに来た経緯も、次回のお話で明らかになります。挿絵もいずれつけられるように頑張りたいと思います!

まだまだ未熟者ですが、よろしくお願いいたします!


※基本週1〜2回の更新となります。

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