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第六話 教え

 一体、蟻芝さんと道祖君はどうしてしまったのか。少なくとも、道祖君はもう少し慎重だったように思う。


「あいつら目ぇヤバかったっスよ。俺の両親がヤバい系の宗教にハマってんスけど、あいつらと同じ目してました」


 一君の両親の話も気になったが、とりあえず二人のことである。


 しかし宗教か。

 おれの知り合いにカジキマグロの崇拝者がいて、その信仰心はとても強いものだった。彼女は学内でカジキマグロ信仰を布教することに熱心であったが、それを強制することはなく、とても人当たりの良い人物であった。


 だが、地球では過激な思想を持ったどこぞの信者が、凄惨な事件を起こした事例が山ほどある。

 或いは、それほど目立たなくとも、胡散臭い宗教団体は日本にも沢山ある。それこそ一君の両親が染まっているのがその手のものなのだろう。


「この国って宗教国家でしょ?その宗教が人間至上主義で魔族を敵視している。だから国全体で魔族制圧を望んでいる」

「二人はその教えに染められてしまったと」

「洗脳っつった方がいいかもしんないっスね」

「ううむ」


 しかし話を聞いただけで急にそこまでなってしまうものだろうか。

 彼らも高校生ならば、言われたことを自分の目で確かめもせずに、全て信じ込んでしまうことが馬鹿らしいことくらいわかっていそうなものだが。


 おれが初めから王様たちの言うことをいまいち信じきれないのも、結局のところそれである。熱心に魔族は悪だと説いてくるが、おれ達は魔族のことを何も知らない。

 もしかしたら本当にそうなのかもしれない。だがそうでないのかもしれない。しかし現状、自分の目で確かめることは難しいし、そうさせてくれそうにもなかった。


「もしかしたら、魔法使ったガチの洗脳って可能性もあります」

「そんな魔法もあるのか」

「まあ、精神に干渉する系の魔法もあるらしいんで。だから洗脳だって出来んじゃないスか?」

「ふむ。もしそうだったら、お手上げだな」

「こういうときって、術者倒したら戻るもんなんスけどねー…」


 そんな風に話をしたが、結局何もわからない。

 つまり現状の推移を見守るより他にない。


「ま、色々探ってみますよ」

「無茶をして君まで染まらないようにな。あと、おれに出来ることがあるとは思えないが、もしあったら協力する」


 そんな風に話は終わった。



 ところが、おれ達が思っていた以上に状況は逼迫していたらしい。



「左右加さん!!」


 数日後の夜。

 部屋で踊っていると、主計さんが乱暴に扉を開けて駆け込んできた。

 彼女がこのような無作法をするとは珍しい。何事かと尋ねようとしたが、主計さんの必死の形相を見て言葉が吹き飛んだ。

 続けて彼女の口から出た言葉に面食らった。


「逃げましょう!」

「な、なに?」

「逃げるんです!このままだと左右加さんがっ…」

「なるほど、殺されるのか」

「っ…」


 主計さんは何も言えない様子であった。


 いつかこんな日が来るのではないか、と漠然とした予感はあったのだ。主計さんの表情から、ついにそのときが来たのだと直感したのだが、的中したらしい。

 まあ、殺されなくとも、碌な目に合わないだろう。

 以前から失敗召喚者として疎まれていたが、よもや命を狙われる羽目になるとは。

 正直に言うと、怖い。悪童の脅し賺しとはわけが違う、殺すというなら本当に殺すに違いない。

 しかし。


「これは良い機会でもあるわけだ。――すまない、着替えるから少し後ろを向いて欲しい」

「あ、はい。…良い機会?」

「おれは失敗作故に、君らのように余計な期待をされることもなく、漫然と過ごしていたが、それがなかなか悪くなかったのさ」


 表面上は、おれも勇者達も同じ衣食住が保証されていた。

 つまり、素晴らしき哉不労所得。いや、金を貰っているのではないからそれは違うのだが、ともかく働かなくとも食えていたのだ。


「だから碌なところではないと言いつつも居座り続けていたのだが、ここはひとつ、外に羽ばたいていこうと思う」

「左右加さん……凄いですね、そんな風に思えるなんて」

「それほどでもある」


 喋っている間に、おれが元々着ていた服に着替えた。

 ここに来てからいくつか服を与えられたが、やはりこのジーンズと着古したセーターの方が落ち着く。

 そして部屋を出ると。


「うっす、左右加さん」

「一君?」


 一君がいた。背中には長い金属製の棒を差している。


「助っ人参上、てな。俺も協力しますよ」

「一君…ありがとう」

「世道人心守るべし、スよ」


 本当に、感謝しかない。おれを助けるのは、二人にとって危険だろうに。


 さて、動き方は単純である。

 主計さんの幻影魔法で人の目を欺きつつ、都市の外に出る。とてもわかりやすい。

 

「この街はかなりデカいんスけど、この時間は誰も人いないんスよ。日本の感覚だと、こんだけデカけりゃまだ人が多いんスけどねー」

  

 この世界自体には定時法は存在するが、この国ではそれを採用していない。曰く、時を分割し定めるなど人の子のしてよいことではない、だとか。

 よくわからない。

 まあ、体感では夜の十時か十一時くらいか。確かに、日本ならば夜はこれからだと言いたいが、この国では真夜中も同然である。


 人がいないということは、それだけおれ達が目立つことになる。だから主計さんの魔法が必要不可欠になるのだ。

 おれの殺害計画を知ったのも、普段から彼女が魔法を利用して情報収集に務めていたからだという。


「そんじゃ」

「行きましょう」

「ああ」


 そうして、この国から逃げ出すこととなった。


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