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或るピアニストへの……
麗しき陶酔の調べ
旋律に咲く菫
風をはらむ
白い麦わら帽子
亜麻色の髪を耳にかけ
乙女は微笑む
老女は微笑む
パリからの雨音
雑踏に踊る
赤いリボン
最後の一息を
黒鍵に込めて
…………
さあ
さあ
と
降る
降る
古る
…………
凛々しき悲嘆の調べ
波打ち際のハマボウ
人々の夏が終わる
銃弾の気配
誰しもが抱えて
見上げる青空
煤けた手
白魚の手
掲げられた花は
追憶に燃えて
…………
はら
はら
と
降る
降る
経る
…………
色彩の雫
魔法のように
一音が置かれた
…………