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富国強兵の残滓
かつて
子を産むのは
女の義務だった
堕胎は刑法上の罪であり
戦時の女は「泣き言」を許されなかった
ああけれど
好きでもない男の子を
どうして愛せよう
「お国のために」
己を殺し
子を死地に送り
死者を数え
そして負け
戦が終わっても
兵を作る心持は変わらなかった
ゆえに強くあれと
弱きは死ねと
母達は子らを洗脳し続けた
明確な敵が消えた後でさえ
攻め立てられるように
親の勝手で産んだのか
世間の勝手で産まされたのか
産むか産まないか
選べるようになったのは
この二三十年の話だ
わたしは生まれてきたくなかったが
母には独身を貫く強さがなかった
祖母は戦前の人で
子孫を残さないことを
親不孝だと言い放ったようだ
女の意志など存在しなかった
子の意志もまた存在しなかった
強い男だけが正義であり
全てを許されていた
少子化だからと強制すれば
ますます国は病むだろう
生んで生まれることは奇跡だ
人は物ではないのだから