未来の選挙はインド式で
選挙についてちょっと考えてみました。
かったるい日々、しょうもない毎日。昨日と同じ今日、明日もきっと昨日と同じ。
なんとか生きていけるだけの収入はあっても、それが限界。それでも生活できるだけマシってもんなんかね。
そんな毎日でも今日は少し変化がある。
今日は選挙の日。
午後の1時頃、投票所のある近くの中学校の体育館へと向かう。
「お、ちわっすー」
「おう、こんちわー」
同じ職場で働いてる野竹がいた。
「早いな野竹」
「暇なんす。NHKの受信料払いたく無くて、テレビを売ったら家にいても暇で」
野竹と話ながらリュックからボードを出して書いてある金額を確認する。こんなもんか? ボードについてる紐を首にかける。
『私の一票、五千円で売ります』
さて今日の選挙で売れるかどうか。野竹のボードを見るとそっちも五千円。
「野竹ー、今の相場って五千円?」
「わかんないっす。見たところ三千円から一万円でバラバラっす」
俺達と同じような汚ないカッコのおじさん達が、首にボードのついた紐をかけてたむろしている。中には地面に座りこんで将棋を始めているのもいる。
俺も校門近くの空いてるところに座って、タバコに火をつける。
野竹も隣に座ってタバコをくわえる。並んで座って拾ってきた空き缶を灰皿に煙を吹かす。
「なーんか今回は売れ残ってるみたいな」
「そっすねー。選挙が接戦だったらもう売れててもいいのに」
「つーと、今回は圧倒的に勝ちの決まった奴がいるのかね」
「また前みたく終了間際に買いに来るのがいるかもしれないんで、それまで待ちましょうか」
「だなー」
その日その日を生きるのがやっとの俺らにとっては、政治なんてのは遠い遠い雲の上の話。
政治なんてもんには、意味はふたつしかない。
ひとつは『金持ちの道楽』で、もうひとつは『タカリ屋の商売道具』だ。
じみん党が何をしたいのかも知らね。みんし党が何を言ってるかもわかんね。そんなもんよりその日に手に入る金の方が大事。
「政治家も昔よりケチになったもんだよなー」
「昔はもっと高く売れてたって話っすよね」
「なんでも昔は一定額以上の税金を納めてる金持ちしか、投票できなかったらしいぞ」
「ふーん。ま、金に余裕のある奴じゃないと、政治の勉強なんてできないっす」
そう、結局世の中は金なんだ。金持ってる奴等が強いんだ。金持ってる奴が偉いんだ。
だったら政治家も金出して俺らの一票を買えばいい。
『うちの党はこんなに金もってんだぞ。だから偉いんだ。強いんだ』
そうやってアピールしてくれたら、そいつに任せるよ。
どんなにマトモで正しい事でも金が無けりゃ絵に描いた餅だ。政治ってのは大勢の金持ちの為のもんなんだから。
俺ら貧乏人はその金持ちのおこぼれ漁って生きるだけ。
結局この日は俺らの投票を買いに来る奴はいなかった。デキレースというか勝つのが誰か前評判から決まってたような選挙だったらしい。
「今日は無駄足だったかー」
「そっすねー。やっぱコネがあって期日前投票が売れないとダメっすね。どっちが勝つかわかんないって選挙じゃ無いと買いに来る奴がいないっすね」
「選挙もそのうち競馬みたいなギャンブルにすればいいのにな。そしたら税金も少しは浮かせるんじゃね?」
「それを宝くじ売場で売れば投票率は確実にあがるっすね」
「今日はもう帰るか」
「じゃ、どっかで飯食っていきましょーよ」
「昔の選挙だったらおにぎりとか配ってくれたんだけどなー」
「今はそんなサービスは無いっすね」
「で、そのおにぎりの中にラップで包んだ千円札が具に入ってたんだ」
「まじっすか? 昔はそうやって投票を買ってたんっすね」
金も飯も出ないのにわざわざ投票なんてめんどくさいもんに行く奴の気がしれん。
あなたの一票が大切です、とか言ってるけどな。
そんな大切なもんなら幾ら出す?
大切だっていうなら金出しても欲しい価値があるんじゃないのか?
いいよ、欲しけりゃ売ってやるからさ。
次に選挙があったら、俺の一票は幾らで売れんのかな?
「で、今回の選挙はどこの何様を決める選挙だったんすかねー?」
「そんなもん知らね。政治家様のやるこた俺らにゃわかんねー」
そういうのは頭のいい生活に余裕のある金持ちの仕事だ。俺らが考えたところでわかるわけないし、わかったところでなんもできん。
「俺らが政治に関わるとしたら、デモかテロしか無かろ」
「それもそうっすね」
そんな感じで一日が終わる。で、どこの誰様が当選したかって?
知らねーよ。
俺の家にもテレビは無いし、新聞とる金も無い。インターネット? 通信料なんて払えるかよ。ラジオは壊れてそのままだ。
誰が当選したかなんて知るもんか。




