第二話 ゲートの不具合?孤立する人々 (1)
――ようやくゲート接続のユニットを入手して、木星ガニメデから地球へのゲート接続をこころみるゲーニーだったが、みたこともないエラーに直面する。
「どうしたの、ゲーニーくん? 何が起きてるの?」
「おかしいんですよ。
さっき接続したはずのゲートが開かないし、こんなエラー見たことないんですよ」
ビーーーーーーー。
ビーーーーーーー。
ビーーーーーーー。
警告アラームがうるさい。
「先ずは、このアラーム停めましょ」
「そうですね。エラー番号も確認したし……。
接続停止要求をすれば、おそらく停まるはずです」
ふう。静かになった。
それにしても、エラー651か……。
ゲートのマニュアルを脳内で検索してみても651はヒットしない。
「知らないエラー番号なだけじゃないの?」
「そんなことないですよ。一ページずつ確認してますけど、そんな番号ないんですもん。629の後は691なんです」
「なんだかマニュアルを見ながら話しているような物言いね。
何も見ていないのに……」
「全部覚えてるんですよ。ゲートのユニット対応技術者は全部覚えるのが義務なんで」
「うん? 一語一句覚えてるってこと?」
「ええ。
僕の場合は、画像として覚えているだけなので、一語一句とはちょっと違いますけど。
こういうユニット設置の部署は初めてですか?」
「そうね。今までは火星のリゾート開発部にいたもの」
「じゃあ、簡単にユニット設置技術者について説明しときますと……。
ユニット技術者は、その秘匿性からマニュアルを全て覚えるところから始まるんです。
持ち出し厳禁、
書き出しも厳禁。
時間内に覚えられたものだけが技術者になれるんです。
もちろんその素養があるものにしか情報は開示されませんが……」
「じゃあ、外部記憶装置への書き出しは?」
「もちろん、ダメですよ。なので、マニュアルはシエンにもインストールされていません」
「辞めたり、途中までしか覚えられなかった人は?」
「監視が付きますよ。ちなみに今の僕の監視役はシエンとラクーンさんです」
「そもそも、前の上司から引き継ぎとかなかったんですか?」
「いやぁ。
聞いていたような。
聞いていないような……」
二人とも適当そうだからなぁ。
言っていないのか、聞いていないのか判らない。
「ゲートのユニット対応技術者は少数精鋭っていうのはそういうことなのね。世界に20人と存在しないと言われているようだけど……」
「実際には現在僕をいれて18人ですよ」
「みんなゲーニーくんみたいに画像としてマニュアルを覚えているわけ?」
「さあ?
覚え方は決まってませんけど……。
僕も他の人には会ったことないですし」
今の今まで、接続エラーがおきた話は聞いたことがない。
「あら、意外とドライなのね。せっかく少人数なんだもの、親睦会でもしたらよかったのに」
「いや、誰がユニットの技術者か、それ自体が秘匿事項なので……。
なので、ラクーンさんも外部に漏らしちゃだめですよ」
本当は引き継ぎで、そのことの説明もあったはずだが念をおしておく。
「だからユニットの設置っていつのまにか行われていたのね。
メンテナンスの人もそうなの? そんなに手が回らなそうだけれど……」
「メンテナンスは別の部隊が行っているけど、ユニットに触らないんです。
全体をブラックボックスで行っているんで」
「外から見て中身がわかるわけ?」
「中はわからなくてもいいんです。
故障個所だけわかればいいので……」
「中身がわからないのに、壊れているのはわかるのね」
「そういう風に作ってありますから……」
「でも、そんな仕事よくやっているわね」
「たまたま、向いてそうでしたから……」
…………。
…………。
…………。
「まあ、その話はまた今度にしましょ。今は目の前のことを何とかしないと」
「629は、配線ミス、
ゲートのユニット以外のどこかの配線に欠陥があることを示している。これによって、ユニットは接続を拒否して停止したことを表す。
691は、認証ミス、
ゲートのユニット以外の部品に認証できないものが存在することを示している。やはり、ユニットは接続を拒否して停止する。
600番台のエラーはこの二つ……
何か他にないか……」
「落ち着きなさい。今ここが繋がらなくても困る人はいないわ」
ラクーンさんに言われ、少し落ち着く。
本当はいい人なんだなぁ。
まだ会って一日たっていないけれど……。
「あ、でも、早く終わらないとバカンスに行けないから、私は困るわ」
台無しだ。
今の俺の気持ちを返してほしい。
「そういえば、このエラーコード何かに似ているな……」
「何かって、何に似ているの? なんでも言ってみるものよ」
「昔のネットワーク系のエラーなんですけど」
651は確か……。
昔読んだネットワークの本を思い出す……。
モデムの断線又はモデムの先にネットワークがないことを表している……か。
モデム……モデムってなんだ?
「シエン。大至急モデムについて調べてくれる?」
「了解しました……。
えーと、21世紀初頭まで使われていた回線終端装置ですね」
「うーん。ゲートのユニットがモデムの役割をはたしているってことなのか?」
「だとすると、カラビ・ヤウ空間内のネットワークディフェクトを表している可能性がありますね。」
さすが、最新鋭機。
今までの話の流れでここまで推論可能なのか……。
「ネットワーク系のエラー番号に似せて作られているんだとするならば……」
「ちょっと! 私をおいて二人で話を進めないでくれる?」
おっと、ラクーンさんを忘れかけていた。
「えっと、モデムってのはグローバル配線とローカル配線の境目にある信号変換器です。
今はもう全世界がグローバルネットに接続されているから回線に境目もなにもないんですけど……。
そもそも、ゲートは高次元空間を利用して繋がるってのは中学校で習うことですけど、いいですか?」
「うん。それは知ってる」
ラクーンさんがうなずく。
「ユニットはこの世界と高次元空間を結んでいる装置、つまりこっちの世界の回線終端装置なんです。
そのユニットより先が接続できてないってことなんで」
「ユニットが接続しにいっているはずなのに、その先がなくてエラーが出ているということ?」
「すみません」
シエンが口をはさむ。
「もう一つ、お伝えすることがあります。
先程モデムに関して調べた際にネットワークの大幅なルート迂回がありました。
地球外ネットワークも大多数が現在使用不能。
ここから推論するに、木星圏のゲートは半数が接続不能に陥いっています」
「シエンちゃん。
ゲートの接続状況について、地球圏の情報も調べてくれる?」
「地球の情報についても調査済みです。
今このエラー651が世界中で発生しています」
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