第八話 設立秘話 (2)
ちゃっかりとラクーンさんの前にはシフォン、シュリヒトの前にはミルクレープが置かれている。
せっかく作ったんだ、もちろん食べるだろう。ティグレさんは甘いものは苦手らしいく食後はコーヒーをリクエストしていた。
全員が食べ終わったところで、今度こそ本題に入る。
「何から話そか。
ゲート開通から時系列でええかな」
「うん」
皆静まり返っている。ラインじいちゃんを見つめる。
「あの日、俺は大学時代の悪友のファイン……
ファイン・ゴルトのところに遊びに、というか飲みに誘いに行ったんや」
「ファイン・ゴルトってうちの初代の社長よね? 後任の人間からなぜか名前が明かされてないけれど」
「そうや、ファインがゲート社を作ったんや。ただその話はもうちょい後やな……。先ずは開通の話や。ファインは優秀なんに変な研究をしとった。ヒカラビ?」
「カラビ・ヤウ?」
「そう、それや。その空間の存在を実証するとかなんとか言うてちっぽけな研究室でヘンテコな機械を作っとった。俺が行ったときも早々に実験をするとか言うて、機械のスイッチいれたんや。ちょうどそうやな、俺が通れるくらいの大きさの金属の門みたいなやつが二つくっついてたんやった。今思えばあれはゲートの原型やったんやけどな。
そいで、たまたまつまずいた俺が実験中のゲートの原型を動かしてもうたんや。そしたら、二つの金属の門がつながってることに気づいてなあ」
「門がつながっているってどういうことなの?」
「ファインが言うには最初は金属の門と門の間に、俺らのいる次元以上の次元を展開しようとしていたらしいんや。でも実際には何も起きんかった。だが門を離したときに、それぞれがつながっていることが発見されたんや」
「それがつまりゲートの発見ということなんだね」
「そうや。ファインはその時興奮して黒板になんかいろいろ書きだしたけどなあ。エネルギーがどうとか距離がどうとか言うとった」
「最初にゲートを通ったっていうのは、どういうことなの?」
ラクーンさんの相槌がうまい。適切なところでちょこちょこと疑問点を解決してくれる。
「そうやな。最初にファインがボールを投げてきたんや。そんで危ないからと思ってボールを投げ返すんでなく、持って行ったときにやな。ゲートをくぐってもうたんや。何や懐かしいな」
「それがつまり、ゲートを最初に通った人間になったわけね」
「大変やったんはそれからやな。この技術は悪用されたらあかんやつやからってファインがいろいろ考えだしたんや。世紀の発明やで? 普通は皆に言いたなるやろ? でもあいつは使えるようにはするけれど、技術は公開しないって言ったんや」
「でもなんでそんなまわりくどいことをしようとしたのかしら」
「ファインが言うには、『ゲート技術をあくまで平和利用に限定したかった』らしんや。『この技術がこれ以上進化すると、片方向からでも無理やり空間を繋げることができるようになるかもしれん』ってな。それが出来たら盗み、暗殺も簡単にできてしまうし、戦争も始まるかもっていうとった。やから、世界がひとつになるまでは少なくとも技術を公開せんとな」
「確かに国の境界がなくなって、世界は統合されつつあるけれど、まだまだ戦争の火種はくすぶってるわ。リコとポブレ、宗教の対立もあるし、もと国同士ももちろん。まだまだ統合されているとは言えないわね。実際に火星ではマシン対バイオの派閥争いのおかげでゲートをくぐるのに手間取ったしね」
「まあ、そうなんよ。実際に争いのない世界なんてもんはこない。
だが、ファインはちと純粋過ぎた。だから簡単に騙されちまったんかもな」
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