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第七話 地球へ (4)

 

 とにかくここはいったん隠れるしかない。だがしかし、網羅的に部屋を調べられたら隠れるところもない。


 「シュリヒトここはいったん任せるぞ。なんとか誤魔化してくれ」


 「えー。一人で?」


 少々不安だがここはシュリヒトに任せるしかない。エージェントはすぐそこまで迫っている。幸いにもこちらには壁抜け装置がある。ドアなんて通らずに部屋づたいに移動できる。

 

 「シエンのEEGと接続してくれればこっちからも指示だせるから」


 「あー。その手があったかー。でも通信範囲は? EEGって10メートルそこそこじゃない?」

 

 「とりあえず、隣の部屋で様子をうかがっておくよ」

 

 シュリヒトを残して、壁抜け装置で隣の部屋に移動する。ファンの音がうるさい。そうか、ここサーバールームか。ここなら少々の話し声も消してくれる。都合がいい。

 しかし、壁を抜けるときの違和感が半端ない。壁の抵抗があるようなないような。ヌルっとした感じで通り抜ける。みんなもなんとなく気持ち悪そうな感じだ。


 「ちょっとゲーニー君。ちゃんと説明してよね。なんで奴らに私達の位置がバレちゃったのよ」

 

 「つまりですね。犯行声明を出したグループとユニットの強奪は別グループなんですよ。というかユニットの強奪はうちの上層部の自作自演で、僕達の場所を突き止めるための囮です。アウトサイドピープルは始めからなにも盗んでいません」


 「ふーん。私達はその囮に、まんまと騙されちゃったわけね」


 「そうなりますね。それで居場所がバレて近くにいたエージェントがすぐさま乗り込んできちゃったわけで」


 「それで? となりの様子はどうかしらシエンちゃん」


 「シュリヒトさんから通信です。一人はシュリヒトさんの実験室で待機、もう一人が他の部屋を調査しているみたいです。あとこの人怖いから早く帰ってきてほしいとも」


 「人数がそろっていないのがせめてもの救いね。今のうちにこの保養所から脱出してしまいましょうか」


 「シュリヒトを置いてはいけないですよ。僕らがここにいたのがバレたらあいつが締め上げられますよ」


 「それもそうね。それにあの子の力もこの先必要になるかもしれないしね」


 ひそひそと話していると。


 「エージェントがここにやってくるらしいです」


 「やっば。ここからさらに隣の部屋に移動ね。しっかし、この道具、詐欺みたいな機能ね。ゲートもそうだけど」


 サーバールームのカギが開く直前に全員さらに隣の部屋へと移動する。しかし、これではキリがない。さらにこっちの部屋を見に来たときにどうすればいいのか……。あっ、もとの部屋に戻ればいいのか。


 エージェントはサーバールームを隈なく調べるとこっちの部屋へと移動するようだった。ここで、サーバールームにまた全員戻る。これで一安心か。あとはシュリヒトがうまくごまかしてさえくれれば……。


 なかば強引に調査を進めたエージェントだったが、全ての部屋を見て回って、そのうえで僕たちをみつけられなかったのだ。シュリヒトに軽く謝罪をして、二人は首をかしげながら研究所を後にしたようだった。確信があった来たのに肩透かしをくらったのだ。仕方がなかったのかもしれない。


 全員が研究室に戻ってきたところで……。


 「しかし、さっきの案が使えないとしたら、民衆に暴動でも起こしてもらわないといけないわね。

 シエンちゃん、どこでもいいから支部を踏み台にして、『ゲートの復旧があと一日遅れる』って、ニュースサイトに流せない?」


 「はい、よろこんでー」


 うぅ。それでは居酒屋の挨拶だ。それとも本当によろこんでやっているのか……。

 しかし、地球に行くには、やるしかないのか。


 「うちの上層部が異変に気付いてゲートを解放するまで、どのくらいかかりますかね」


 「そうね民衆の暴走具合によるところは大きいけど、あの頭でっかち達のことだから数時間はかかってしまうかもしれないわね」


 「それだと時間的にはキツイですね」


 今からニュースを作って、ばれないように流して、上層部の反応をまっていたら明日になってしまうかもしれない。そうなれば自分たちは世界のお尋ね者として移動どころではなくなってしまう。

 まてよ。さっきの手をこっちが利用してやるというのはどうだろうか……。


 「ニュースサイトもいいですけど、向こうが使った手をそっくりそのまま返してやるというのはどうでしょうか」


 「ゲーニー君? もう少しわかりやすく言ってもらえるかしら?」


 「つまりですね。社内に『ユニットの取引が成立して安全が確認されたから、再接続を開始せよ』っていう偽メールを流すんです。そうすればメンテナンスの人達が再接続を開始するんじゃないでしょうか。

 さらに、数か所でも再接続されてしまえば、ネットを通じて拡散して復旧せざるを得なくなるのでは?」


 「それいいわね。社内のほとんどの人間はまだユニットは強奪されたと思っているからうまくいくかもしれない」


 「ボウズもだんだん染まってきたな」


 褒められても全く嬉しくない。だがしかし、やれることはやっておきたい。しかしこれで完全に上層部とは敵対の道だ。ログをたどってこられたらいずれはこちらがやったことがバレるだろう。今まではただ逃げていただけだったのに……。


 「シエン、お願いできるかな」


 「はい。わかりました」


 なんで今回はよろこんでじゃないんだろう。


 「ニュースサイト確認していれば接続情報については入ってきそうだし。後は偽虹彩とパスかな」


 「それなら手配は終わってこっちに向かってらぁ。車で移動して道すがら受け取るぞ」


 …………。


 「ゲート社が復旧作業を始めたってニュースになってるよー」

 

 さすが、メンテナンス作業員は手が速い。


 「これで地球に行けるわね」


 アイナのステーションはルート2だから、2階層上にあがればルート0にたどり着ける。今なら移動がストップしていた人間たちでごった返しているだろうから、堂々と通れば大丈夫だろう。目指すはルート0のラインじいちゃんのところに繋がるゲートだ。開通していることを願おう。

 

 ティグレさんの車でアイナのゲートを目指す。終始後ろには気をつけていたが尾行はなし。街は意外と静かなものだった。


 ただ案の定というか、今まで開通を待ちわびてた人でステーションはいっぱいだった。


 ちょうどいい。急いでルート0までたどり着き、ライン設計事務所行きのゲートをくぐる。


 ああ、ゲートがつかえるとなんて移動が楽なんだろうか。



 ライン設計事務所は三方を崖に囲まれ、南面がプライベートビーチになっている地中海の無人島にある。よくこんなとこに事務所を構えたもんだ。ゲートがなかったら誰もたどり着けないじゃないか。



 ドアベルを鳴らすと、本人が迎えてくれた。


 「えーと、どちらさんだったかのう?

 隣のばあさんとこの孫かい?」


 「もう! ラインじいちゃん。なにボケたふりしてんだよ!」


 だいたい身体を乗り換えているからか見た目は30台くらいからかわっていない。実年齢だと80くらいだろが、この時代に80で現役など普通だ。


 「お、ゲーニー! 悪い悪い。ちゃんとツッコミ入れてくれるひとがあんましおらんでな。

 新鮮やな。この感じ」


 「じいちゃん。久しぶり!」


読んでいただき、ありがとうございました。

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