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第一話 新規ゲート開通に伴うあれやこれ (1)

 ――2116年 木星圏……。 

 

「ガニメデに到着して今日で1週間かあ。ゲートの開通作業は完全に遅れているな」

 

 そもそも、『いつでもどこにでも行ける』が常識の現代である。だが、ゲート設置の最前線であるこの土地にはゲートもないし、もちろんリゾート開拓もされていない。

 火星にいても20分あればゲートハブを通って、地球のリゾートまで行って海に入れる。それに通勤15分以内はゲート発展地域リコの常識なのにだ。


 ここからは家に帰るにも時間がかかるので、簡易施設での寝泊りを余儀なくされている。一日あれば終わるはずの仕事が1週間である。正直ここまですることがないとは思っていなかったので、暇である。

 暇つぶしの道具でも持ってくればよかったな。


 第五世代型、ゲート制御ユニットが到着していない。


 あと、ここで合流予定の新しい上司も到着していない。


 …………。 


 …………。


 …………。


「いったい何やってんだ。このやろう!」


 いかん、つい独り言が……。


 正確には一体アンドロイドがいるがあまり話し相手にはならない。


 新しく導入された第五世代型のゲート制御ユニットは、エネルギー効率の向上にともない、長距離接続を可能にしたユニットだ。このユニットの開発によって、火星や木星の開拓が可能になったといっても過言ではない。


 第三世代型以前は、ゲート解放状態でないと移動できなかったと聞いているが、ゲートをスタンバイにして分解してユニットだけで運べるようになった今の状態からは考えられない手間だ。おかげで、ゲートの設置はずいぶん簡単になったと聞いている。大きさも昔は人間が一人通れる大きさだったらしいが、今は車が通れるくらいに拡張されている。


 しかし、ゲートが一対一で対応しているのは相変わらずだ。そのあたりの原理やシステムがどういうものなのかは、ゲートを運営、設置している、この会社の社員の技術者ですらブラックボックスだ。もちろん、ゲートのユニット設置の技術者である自分には一部公開されているが。


 …………。


 …………。


 …………。


「人事異動でこの部署の課長として就任した、ラクーン・アスプロです。

 よろしくお願いします」


 いきなり入ってくるなり勝手に自己紹介したのは、身長120センチくらいの女の子だ。

 見た目は完全に子供。中学生、いや小学生といってもいいくらいだ。白い長い髪が特徴的だ。

 

 ???


 子供がこんなところにいるわけはないじゃないか。暇すぎて幻覚でも見始めたんだろうか。しかし、本当なら上司のはず、今の世の中、見た目で人を判断するのは不可能だ。とりあえず挨拶を返してみよう。

 

「木星開発部第二課へようこそ。と言ってもここには僕しかいませんけどね。

 ゲーニー・ツヴェートです。よろしくお願いします。

 皆、僻地が嫌で辞めてしまいまして……」


 見た目が子供の人に敬語で挨拶するのはちょっと違和感がある。

 

「それと、うちの課の作業用端末のシエン。去年入れ替えがあったんで、最新型ですよ。

 スペックとか見た目とか前の課長の趣味入ってますけど。」


 シエンは無言で礼だけする。今時、珍しくもなんともない、人型端末だ。

 人型端末は、世界倫理委員会の決定によって『男でも女でもない見た目』とされ、どれも中性的な顔立ちをしている。また、不要なパワーも出ないようにと、身長も120センチ程度と決まっているため、新しい上司と並ぶと子供が二人だ。

 シエンは以前の上司の趣味でおかっぱ頭に和服という格好だ。作業用人型端末の服はだいたい似たり寄ったりだが、それもどうかと思うのでなんだかそのままになっている。


「しかし、随分と到着が遅かったですね」 


 話を戻して、上司の到着が遅れた理由を問い詰める。ここ、木星開発部第二課は先人をきって、開拓を行っている部署でここにはゲートがない。僻地ということで、やめる人間も多い部署だ。

 上司も来ないものかと思ってあきらめていたが、ここまで遅れてこられるとそれはそれで疑問だ。


 アスプロさんが口を開く。

 

「背、大きいですねー」


 いや、明らかに向こうが小さい。こっちも背丈は170しかないので、男性にしては低いほうだ。あと、遅かったに関しては完全にスルーのようだ。


「あ、この身体ですか? ちょうどここに来る途中に事故にあってしまって、乗り換えたばかりなんですよ。この身体のマッチングに手間取って、5日もかかってしまいました。急遽ということもあって、二十歳までしかクローンの培養がすすんでなくて……」


なるほど、生体置き換え推進派バイオの方のようだ。

 きっと12歳の聞き間違いだろう。


 事故ってのは いったい何があったんだろうか……

しかし、とりあえず連絡くらいしてほしい。社会人として……


 …………。


 …………。


 …………。


「アスプロさん、到着早々ですが、現状ユニットの到着が遅れていて、まだ作業が進んでません。ユニットが到着するまでは待つしかないんですよ」

 

「ゲーニー君? ラクーンでいいよ」

 

「ラクーンさん……」

 普段はファミリーネームのツヴェートと呼ばれることが多いので、いきなりゲーニーと言われ、反応に遅れる。


「シエンちゃん? ユニットの到着までどれくらいか連絡はきてる?」 

 

「えーとデスね」

 

 今の今まで黙っていたシエン。所有者認証の移行も済んでいないのに、ラクーンさんの指示を聞いて、こちらに向かっているであろう宇宙船シップの位置情報を調べている。


「さて、シエンちゃんが調べている間に、木星開発部第二課の現状を報告してもらいましょうか」


 完全に連絡なく遅れてきたことはなかったコトにするつもりだ。まあ、ここでまた新しい上司に辞められても困るしこちらとしても好都合か……。


「ゲート制御ユニットが遅れているのは、先程報告した通りです。作業が完了すれば地球と木星圏を結ぶ新しいルートになるはずです。木星圏では、イオとカリストを第一課が担当、エウロパとここ、ガニメデを第二課が担当でして、既にエウロパは地球と結ぶゲートが設置されています」


 そう、エウロパの作業で大半の人間が異動してしまったのだ。通勤15分でも長いこの世の中、数日間拘束されて何処へもいけないような部署は人気がない。


 現状を簡潔に答えたつもりだ。

 だが、ラクーンさんは何か考えている様子だ。


「じゃあ、とっとと繋いで仕事を終えちゃいましょ。週末はバカンスの予定だから早く帰りたいし」

 

 来たばっかりで帰りたいとはいい根性しているが、ゲートがある世の中はそんなものだ。

 

「ここのゲートさえ設置してしまえば、ここ通って地球に帰れるでしょ」


 まあ、確かにその通りだ。ガニメデのゲートさえ設置してしまえば一歩で地球に帰れる。 

 けれど……。


「まだユニットが来てないんですよ」


「だから、とりに行けばいいじゃない」


「え?何ですかその発想。だって、シャトルで運んでるんですよ。

 ゲートをくぐって移動するんじゃないんですよ」


読んでいただき、ありがとうございました。

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