第七話 地球へ (1)
「ゲーニー、もう行っちゃうのー?」
「シュリヒトお前も来て欲しい」
「僕も行くのー? 魚の世話とかしないとなんだけどなー。
今日中に帰ってこれるかな」
さすがマイペース男。とはいえ一緒に連れていかなかった場合、最悪上層部に拉致監禁なんてのもありうるか……。
「まあ、なんとかなるんじゃないかな」
「あっ、そうだ。これ何かの役に立つかもしれないから持っていこ。面白いものが出来て自慢したかったやつ」
シュリヒトは両手に収まるくらいの四角い金属の箱を手にしている。
「何それ?」
「量子力学的トンネル効果確率変動制御装置」
「長い名前だな。つまり何するものなの?」
「えっと要するに、壁抜けができるの」
「はっ? 壁抜け?」
「そう。だから壁を通り抜けられるの」
「どうやって作ったんだ? そんなもの」
「えーっとね。量子力学のトンネル効果って知ってるよね?」
「普段は越えられない障壁を量子力学的には一定確率で超えることができる。だったっけ? そっち方面は専門外だな」
「ちょっとちがうかな。超えるんじゃなくて、通りぬけるの。
それでね、その確率を制御できるようにしたの。あと物体を量子化することにも成功したから……」
「出来るように……って簡単に言うけどな。それが出来たら……
って出来ちゃったの?」
「そう。やったら出来た。ね? これ役に立ちそうでしょ。
持っていこうよ」
何だろうこれ。
さらっと何か凄いもの出来ちゃった感じ……。
…………。
…………。
…………。
これがあれば、ティグレさん家の壁に大穴開けなくてすんだよな。でもそしたらここまでたどり着いていないか。
てかこれゲートに次ぐ発明なんじゃないのかな。作った本人はわかってなさそうだけど。
「これってどのくらいの大きさのものが通り抜けられるようになるの?」
「うーん。まだ出来たばっかりだからなー。でもたぶんティグレさんくらいまでなら大丈夫だと思うよ」
「それで、どのくらいの厚さの壁ならいけるとか実験したのか?」
「とりあえずここに使っているコンクリートの壁くらいなら楽勝だったよ」
「シュリヒト。この機械って世界にこれだけ?」
「とりあえずはこれだけだよー」
「この設計データがあるのは?」
「ここだけだよー」
「とりあえずここを出る前にお前にしかわかんないように暗号化しろ!」
「そのへんはちゃんとしてるよー」
うーん。まったりしているんだかしっかりしているんだか……。
…………。
…………。
…………。
「さて皆さん。ここからどうやって地球に行ったものでしょうか」
「地球のどこだ? また裏ゲート通るなら力になれるぜ」
そうだ裏ゲート界隈ならティグレさんがいたんだった。当然月と地球のゲートもあるか……。
だけど行き先がなぁ。
「昔のままだったらなんですけど、ルート0からしか繋がっていないんですよね」
「ルート0だぁ? どこのお偉いさんだよそいつ」
「ゲート開発の立会人なんですけど。
僕の祖父、ライン・ブラオンというんですけど」
「ライン・ブラオンって言ったら確か有名建築家よね。
ゲーニー君確かファミリーネームはツヴェートだったわよね」
「ええ。母方がブラオンですからね」
「それで? そのラインさんがゲート開発の立会人ってどういうこと?」
「なんでもゲートが開通した時に最初にくぐったのがラインおじいさんだそうで」
…………。
…………。
…………。
「うそでしょ」
あ、ラクーンさんがフリーズしてしまった。
だいたいこの話自体、他人にするもんじゃないんだけど。場合が場合だからしょうがないよね。
「最初に会ったときになんでこの仕事しているか聞いた時。
『たまたま向いてそうだったから』とかなんとか言ってたわよね」
「いや、関係者がゲート開発にかかわったとも言いましたよ」
「ゲーニー君、説明端折りすぎよ」
「だってあの時ここまで言う必要性もなかったですし。
そもそもこれも秘匿事項なんですよ。今だから言っちゃいましたけど」
「ちょっとシュリヒト君、きみは知ってたの?」
「僕は会ったことあるしなー、ラインおじさん元気かなー」
「あぁ。この子なんでこんなにのんびりしているのかしら」
「なにはともあれ、僕たちは何とかしてルート0からラインじいちゃんの所まで行かないと次の手がないです」
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