第六話 解析 (4)
三つ子のOSシステムの奥にさらにブラックボックスか……。
こんなユニット見たことない。
KerBer-OSの奥にある新たなるモジュール。
名前くらいは判るか……。
『ECHIDNA』
「エキドナか……」
えーと、昔読んだギリシャ神話だと確か……
上半身が美女で、下半身が蛇で背中に翼が生えた姿をしているって話だったかな。あとケルベロスの母だったな。
なるほどね。KerBer-OSをケルベロスだとして、それに守られたシステムってことか。
中にあるシステムは果たして蛇なのか美女なのか。とはいえブラックボックスで近づけない。
Access Denied! と表示されただけだ。シュリヒトならなにか知っているかな?
「シュリヒト? KerBer-OSの開発者って誰だか知ってる?」
「さあー。うちのユニットに組み込まれているっていうOSだっけ? 独自仕様のOSだし誰だかわかんないねぇー。そういえば本社のセキュリティーシステムにも使われているんだっけ?」
「ん? 本社のセキュリティー? それじゃあ、このOSを看破出来れば例えばユニットの技術者を一人増やしたり、減らしたりも簡単に出来るってこと?」
「うん、そうなるね。出来ればだけどね」
そうなると、ユニット強奪犯のグループとエキドナを仕掛けたグループが同一である可能性が出てくる。
わからない。
簡単にユニットを強奪できるはずなのに、こっちのユニットには謎のモジュールを仕掛けるだけか。
「もう一つ質問。エキドナって知ってる?」
「何それ? 知らないよう」
シュリヒトがこれじゃあエキドナが何のシステムなのかは判らないな。そういえばティグレさんがユニット強奪犯のグループを洗ってくれていたな。
「ティグレさん? 何かわかりましたか?」
「うーん、それがさっぱりだ。相当慣れたもんの犯行ってのはわかるんだが。
この手を使ったやつは今までいなかったからな」
「と言いますと?」
「なんでもゲートのユニット技術者に完璧になりすましたらしいんだ。どうやってそんなこと出来たんだか検討もつかねぇ」
これもメールの内容と一致するから確かなんだろう。
「つまり今までの強奪グループとは別のグループということですかね」
「俺らのシマ荒らしてくれるような奴がそうそういてもらっちゃ困るんだが……。
そうなるな」
そもそもゲート自体はうちの会社のものだから、と、つっこんだらいけないんだろうな……。
方々に連絡をとっていたラクーンさんだが浮かない顔だ。
「ゲーニー君、ユニットとお金の受け渡し方法なんだけど……。本社にはまだ何のコンタクトもないらしいわ」
もしかすると、このユニットならコンタクト出来るかもしれない。というか、向こうもこのユニットを当てにしているかもしれないのか。
だとしたら本当にローカル接続してみるのも手かも……。
地獄の番犬の前を通れる方法を知っている人物と繋がるチャンスかもしれないからな。
「ゲーニー君、ユニットの解析は終わったの?」
ラクーンさんが議論に加わったことで一応全員手が空いたわけだ。ここまでの情報を整理してみよう。
「ええ。それがOSの先に僕も知らないユニット、エキドナが組み込まれていることがわかりました」
「今回の障害はそれが原因ってことなの?」
「そこまではわかりません。ただ、これとペアのユニットにもエキドナが組み込まれている可能性はあります」
「エキドナ? 何それ? 何の機能なの?」
「それもわかりません。但し、これを仕掛けられる人物は本社のセキュリティーも看破出来る疑いがあります。つまりユニット技術者になりすまして強奪も簡単にできてしまう」
「俺が調べた情報じゃ、ユニットの強奪は技術者のなりすましだった。内部から手引きした人間がいるってことじゃねえのか?」
「事はそんなに簡単ではないんです。ユニット技術者はトップの直轄部隊でIDも本社のセキュリティーがガチガチに固めていて人数ですら簡単に増やせるような代物じゃないんですよ」
「だが、おめえ、本社のセキュリティーも突破出来るって言ったじゃねえか」
「そうです。ここで出てくるのがKerBer-OS、三つ子のOSシステム、ケルベロスです。このシステムはユニットとうちの本社のセキュリティーの両方に使われています。こいつさえ突破出来れば……
もしかしたら、さっきのエキドナを追加することも、本社の情報にアクセスしてユニット技術者を一人増やしたりすることも可能です」
「ふーん。ケルベロスにパンを与えられる人間がいるってことなのね?」
「ケルベロスシステムはうちが創設当時から採用しているセキュリティーOSでして、バックドアを設置するとしたら創設時かもしれないです」
「創設時とは壮大な話ねえ。そんな人間が金銭なんて要求するのかしら。私の情報網でつかんだ話だと、ユニット単体と引き換えに50億が要求されているわよ。受け渡し方法はまだわかってないけれど」
「そこなんですけれど。犯行声明を出したグループとこのシステムを仕掛けたグループってもしかして別じゃないんでしょうか」
「その根拠はなに?」
「まず順序が逆なんです。僕たちがガニメデから接続しようとしていた時にはまだうちの社の手のなかだったんです。犯行声明ではゲートに障害を起こす装置を開発したといっていますが、障害が起こってから強奪されているんでです。
次に、犯行声明の配信方法なんですが、これも強奪してから用意していたら間に合わないはずなんです」
「ということは、敵は二組いるっていうことなの?」
「いえ、僕たちは上層部にも追われていますから、現状の敵? という言い方が正しいかどうかはわかりませんが、三組いるということになります」
「おっと忘れていたぜ。そもそもお前ら追われてるんだったな。そろそろ追手がここも割り出してるんじゃねえか?」
「だとするとここも出ないといけないですね。ゲート社の創設当時を知っている人、かつ会うことができる人物に一人だけ心辺りがあります……。とりあえずはその人に会いにいってみようと思うんです」
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