第六話 解析 (3)
「うわー、何? この内部通信ログ」
移動中にラクーンさんが見つけてついそのままになっていたのだった。あの時はたしか、シエンに疑似映像にしてもらってロココ調の内装だったっけ。シュリヒトと二人だけならCUIでも大丈夫だ。
「そういえば、これも謎だったんだ」
うっかりしていた。読み出し可能領域からも情報を取れたのに……。
「ここは普通に読める領域だっけ。で、何かわかってるの?」
「アクセス元がユーロ南部のポブレ地域くらいってしか……」
「なんで内部通信ログがポブレ地域から接続されてるのー?」
「それが、謎なんだったんだよ」
「普通はこれ社内のネットワークログだよねー。じゃあ、踏み台ってことかー」
「踏み台にされたのは、ユーロのゲート社支部のようです」
「そうなのシエン?」
「あの後も解析を続けていまして……。
うちの支部のログもあたっておりましたところ、ユーロの支社に形跡がありました」
さすがシエン。言わなくてもやることをやってくれている。
「うーん。これだけ見るとこのログの犯人はユーロ地域なんだろうか。
どう思うシュリヒト?」
「ネットのログは、そんなに当てにはならないけどねー」
「このポブレ地域も踏み台ってことも考えられるもんな。そういえば、犯行声明の発信先って特定できているのかな」
「いろんなところから配信されてたみたいで、わかってないみたいだよー。分割ファイルがウィルス状になっていて、そろったところから配信されたみたいで」
「ふーむ。周到に準備されていたってことか」
だが、僕らが考えている順番だとするとおかしい。
準備をする時間なんてそうなかったはずだ。
「この際だから犯人グループとコンタクトとってみるのも手かもしれないな」
「どうするのー?」
「ローカル通信すれば、犯人グループの手元にペアのユニットが本当かどうかわかるし。向こうの位置情報もつかめるし。といってもこっちの位置情報も向こうにわかるけど」
「そいつはちょっと危険だねー」
「とりあえず、このユニットのシステム領域を確認してからかな。
さてと、比較はこっちでできるからと」
ブート領域やシステム領域を表示しつつ、脳内にある本物と比較していく。
何か違和感さえつかめれば……。
「そんなところまで覚えてるのー?」
「一度見せてもらったことがあるからね」
「…………」
「さて、メールの方は何かでるかなと……」
ゲート社のトップ50人中の34人だ。えーと、さすがに社長や相談役の情報はとれなかったか……。
そもそもトップは名前も顔もわかってないんだからな調べようもない。わかっているのは支部長から下の人間だけなのだから。秘密主義にもほどがある。
これだから、ゲート社は胡散臭いとかニュースで言われてしまうのだ。
おっと、内部批判はほどほどにして、肝心のメールに目を通そう。
プライベートメールだ、基本は妻、子供、友人へ他愛もないメールだが、その中は本来喋るべきではない内容も含まれているものだ。浮気のメールはみなかったことにしよう。
『ゲート関連事件で遅くなる』
『50億って経費で落ちるのかな』
『うちが管理していたゲートが強奪されてさぁ、今日は帰れないかも……。』
これだ。ルート0の事業部長のメールか……。確かににガニメデと繋がるはずだったユニットの強奪か。
『ユニットの強奪なんて最近は頻繁に起こっていたから仕方ないと思っていたけど、まさか事件がらみだったとはね。部下の話だと相当手際が良かったらしい。うちの技術者になりすまして、堂々と持っていかれた』
そんなことは出来ないはずだ。うちのセキュリティーはどこの会社よりも厳重に管理されているはず。
『うちのセキュリティーの硬さに付け込まれたらしい。本物としか考えられないカードを持っていたらしいし、照合して身元もはっきりしている社員なはずだったんだけど、後で確認したらそんな人間の情報はもうどこにも残っていないらしいんだ』
これが本当なら一時的にでも技術者が一人多かったことになる。そんなことができる人間がいるんだろうか。
もしセキュリティーを作ったときに意図的にバックドアを組み込んであったとしたら………。
最近セキュリティーが見直されたときを当たるべきか。
「シエン? すまないけど、本社の情報システムで見直しが入ったものを探ってみてくれないか?」
「本社の情報システムなら、創設当時から少々のアップデートがあるだけで、全て社内の人間が行っています。行っている人間はロックが厳重でわかっていません」
いや、それだったらゲート社創設の時からゲートの強奪が仕組まれていたことになる。
都合のいい時だけ増えるゲート技術者か気になるな。
せめて現在の全員の身元が分かればいいんだけど、自分を含めてそれも秘匿事項だ。
トップの直轄部隊だから、知っているのは社長クラスか。
…………。
…………。
…………。
システム領域の解析も9割完了と。特に変わったことはなかったな。
残すところブラックボックスKerBer-OSか。
KerBer-OSから先はユニット技術者にも開示されていないシステムだ。なんでも、三つ子のシステムが互いに監視しあって多数決で補完しあうはずで、これになにか組み込めるはずなんてないんだけど……。
今までおかしいところはなかったから、あるとすればこの中だけど……。
表面的にしか覗けないな。
うん? なんだろうもう一つモジュールが組み込まれている。
アクセスは……。
もちろんできないか。
これもブラックボックス。
なんだこれ?
こんなユニット見たことない。
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