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プロローグ 続

「うーん。こっちからは普通に見えんねんけど」


 また、EゲートとWゲートの間にくると、


「こっちからはやっぱ何も見えんな」


 そして、またEゲート側へと移動して、


「うーん。こっちからはやっぱり普通やな」


 何回繰り返すつもりなんだろうか。

 ボケに対する突っ込みはおいておいて、考えなきゃいけないことは……。


「ちょ、無視すなや。かまってや」


「いや、今のはスルーというつまんないボケに対するテクニックで……」


「そんなん、いらんわ! 普通にかまってや」


 実験の当初は、片方向から強引に4次元以上の空間の存在を証明しようとしていたが、うまくいかなかった。強引にこじ開けようとしても無駄だとさとり、最近は二点から空間をささえることにして、二基の高次元トンネル開通装置(EゲートとWゲート)を使用していた。

 

 今まで測定器はなんの存在も示さなかったし、EゲートからWゲートを覗いてみても何も起こっているように見えなかったたので、失敗だと思っていたが……。


「何か想定と違うことが起こっている?」


 自分もEゲートからWゲートをのぞいてみると、離れている二つの装置の距離に違和感がある。Wゲートの先の壁は見慣れたものだが、まるで間の空間が存在しないようだ。壁までの距離が近く感じる。

 

 …………。


 興奮が徐々に高まるが、失敗したと思った直後のこと、何が起こっているかよくわからない。

 

「なあ? これ何なん? 何が起こってるん?」

 

「4次元以上の余剰次元、カラビ・ヤウ空間に対して両側からアクセスすることで、いってみれば一点でなく二点で空間をささえることになるのでもしかしたらいけるかもと考えたのだけど……」


 これはもしかして、EゲートとWゲートがつながっているってことなんだろうか……。

 そもそも人間に知覚できないほどコンパクトに折たたまれているカラビ・ヤウ空間をデフォールド(展開)したとして……。Eゲートと座標指定したXX-XX-XX-……地点とWゲートの3点はトンネルのようなものでつながると考えていたはけだけど……。


「なあ? 何なんこれ?」

 

 こっちも考えている途中だというのに、ラインが騒いでいる。

 

「物理的・光学的につながっているってことなのかも……。

 俺もこんなの見るのは初めてだし、こんな結果も予想してない……。」


「つまり?」

 

「どこでも2地点がつながるってことかな」


 ――ゲート解放エネルギー残量30%

 

 実験エネルギーも残り少なくなってたようで、非常アラームが鳴った。


「電気代も結構かかるし、そう何回もこの実験できないんだよな。」


「何、超現実的な問題を考えてるん? 電気代の心配なんてええやん……。

 これ世紀の大発見ってやつちゃうん?」


 理論が未完成の部分が残っているけれど、今回の実験データから逆算しよう。チャージがなくならないうちに測定しないといけないことが山のようにある。


「おいちょっと、ライン、Wゲート側に立っててみて」


「Wゲートってどっちなん、こっち?」


「おお、そっちでいいよ」


 測定を前にしてやってみたいことがいろいろあった。光の通過は確認できたが、ほかの物質や生物が無事にこれを通り抜けられるかは別だ。

 

「いくぞ。」

 

 ボールをEゲートからWゲートの先にいるラインへと投げてみる。見事にEゲートにボールが吸い込まれていき、Wゲートから出てボールが飛んでいく。運動は苦手だったので剛速球というわけにはいかない。かなり山なりのゆっくりした軌道を描いたが……。

 EゲートとWゲートの間1メートルの区間は全く見えなかった。

 

「おっとっと、いきなりボールなげんなや。てかこれどこにあったん?」


 質量のあるこの世界の物質も通過を確認できた。ラインもボールを投げ返してくる。


 と思ったら、ボールを持ってこっちに向かってくる。


「よっと」

 

 Wゲートからラインが歩いてきて、Eゲートを抜けてでてくる。


「狭い部屋でいきなりボール投げたら危ないやん」


 このわけわかんない事象にラインは速くも順応しているのだろうか。

 これで、生物の通過を確認、問題なしと。

 数少ない友人を実験台にしてしまったのは申し訳ない限りだが……。


「今までカラビ・ヤウ空間を人間が知覚できるように、この世界に展開することを目標として実験をしていたわけだけど、実際には極薄の空間があるだけか……」

 

「なんか、ゲートを通るだけみたいやな」


『解放エネルギー残量10%、危険域に入ります。

 自動シャットダウンを開始します。3、2、1』

 

「しまった……。

 測定がまだ終わってない。解放にかかるエネルギーがこんなにかかるなんて計算外だ」

 

 いつもだったらもっとエネルギーに余裕があるはずだが、ゲートの距離が遠くなったことが影響しているんだろうか。自動測定器があらかたの測定をしてはいるものの、正しく動作していることを祈って装置の終了を待った。


「これで、カラビ・ヤウ空間の存在が確かなものだということはわかったが、それ以上に……。

この次元の二点が極薄空間で接続されたということは……」


 空間をデフォールドするからこっちの次元くらい距離があるものだと思ったけれど……。

 まさかここまでの極薄空間だなんて……。


 ……。


「これはもしかして、期待以上の結果なのだろうか……。

 実験と測定の結果を基に整理すると、だいたいこんな感じだ」


 重要事項を黒板に書きだす。


 1.WゲートとEゲートの間は物理的、光学的につながっている。光はもちろん物質も生物も通り抜けることができる。

 WゲートとEゲートの間はおそらく極薄の空間があるが知覚することはもちろん計器での計測も無理そうだ。


 2.WゲートとEゲートの解放作業は完全同時で行わなければならない。

 二点の通信が必要だ。

 最も現在の通信技術を使えば、どんな二地点でも完全同時に通信可能なわけなで、これはあまり問題ではないかもしれない。


 3.最初から数メートルの距離がある状態で同じく起動しても何も起こらない。

 WゲートとEゲートは接触状態から離していくことでこのワープのような機能になるようだ。

 ということは、ゲート発生装置が設置できるところからしかゲートを開くことはできないし、未到達地域に自由に行けるわけではない。


 4.これは重力の異なる二地点を接続するときだけど、重力制御も必要だろう。

 あくまでトンネルだからな。

 しかし、これも最近開発された重力制御装置のおかげで問題ないようだ。


 5.ゲート接続のエネルギーは距離の2乗に比例する。

 長距離を接続するためには莫大なエネルギーが必要だ。

 20mの距離を接続するゲートですら今の電力事情ではいっぱいいっぱいだ。


「何か質問は?」


「わけわかんなすぎて、何も……。これって、月まで行けるんかね?」

 

「仮にエネルギーが無尽蔵だとするならば、行けるところならばこの世界の二点間が接続し放題だと思う。今のところはせいぜい繋げても数キロといったところだろうけど。将来的には国同士や、もしかしたら月と地上だって接続できてしまうかも……」


「じゃあ、月の土地買っておこうかな……」


「……。

 ああ、月の土地か。

 確かに宇宙開発って滞ってるよなぁ。問題は宇宙まで行くコストがかかりすぎることで、そこまでして新しい土地の開発に力をいれなくてもいいって言われてるよな」


「でもこのゲートがつながれば、いくらでも開発し放題やんな」

 

 そういう問題ではない。こんな技術何も考えずに公開したら大変な騒ぎになる。


「これって特許?」

 

「確かにこの特許をとれれば、これだけで一生暮らしていける。でも、特許は……。

 技術ではとれるはずだけど。

 こんな現象の発見ではとれないはずだし、たしか実現不可能なものではとれない。こんなこと、現代でも実現不可能としてとりあってもらえないはずだ……。

 ということは」


「ということは?」


「月の土地買っておこうかな……。

 というのはさておき、この技術で世界にどういう影響があるのか考えよう」 


「そんなん適当でええやん。とりあえず発表してみよーや」


「そんな訳にはいかないよ。それなりに責任ってものがあるだろう」


 重要な部分をブラックボックス化して、独占して浸透させれば安全だろうか……。


 これが原因の戦争だけは避けたい、悪意ある人間には使ってほしくない。しかし、正しく使えば素晴らしい技術になる。エネルギー問題も解決するし、都市の人口増加問題やら……。



「そういえば、これ名前どうするん?」


 って、こっちが真剣に考えているのに、名前って?

 適当でいいんじゃないのかな。 


「高次元トンネル開通装置?」


「そんな長ったらしいくてわかりにくいの流行らんわ。だいたいゲートくぐるだけで、トンネルなんて感じせんやん」


「うん。じゃあ、『ゲート』でどうだろう?」


「まあ、えーんでない?」


      ◇◇◇


 ――2067年高次元トンネル『ゲート』が開発され世界は変わった。

 発表時には数メートルだった接続距離が、接続効率の向上によって10年後には数10キロ、2090年には月との接続に成功した。誰でも2点間を一瞬で移動できるこの装置の発明によって、人は距離に縛られることがなくなった。


 開始される予定だった軌道エレベータの建設予定は立ち消えになり、石油の枯渇問題は発電衛星内からゲート経由でのエネルギー供給で全く問題なくなった。


 このゲートによって、未開の土地の開発に力が入れられた。地球の土地はもちろんのこと、月もその対象となった。宇宙船によりゲートを運び、設置した後は資材や建築用の工機を持ち込んでリゾートとして開発されていった。

 無限のフロンティアの開発という新たな目標を得たことで、いがみ合っていた国々も我先にと開発に乗り出した。大国に対抗するために技術力・経済力のない国が協定を結んでいき結果として、国という概念は消えさり、当初この技術によって世界は一つになるかに思われた。


 しかし、土地の価値を見い出しゲートの配備が進んだゲート先進地域リコと、そうでない地域ポブレのギャップは広がり続けた。さらに都合の悪いことに、飛行機や列車などの移動手段は前時代のものとして廃棄されていき、ゲート後進地域とそこに住む人々は孤立していった。



 そして2116年、次の開発対象は木星の衛星ガニメデへと移った……。


読んでいただき、ありがとうございました。

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