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第三話 原因調査!エウロパへ引き返せ (1)

 ――ゲート社はその占有技術であるゲートを使って、月のクレーターを最初に観光地化した会社でもある。

 直径約540キロにも及ぶ月の最大クレータのヘルツシュプルングの中心にある月面最大都市『アイナ』は基本的にはバカンスを楽しむための観光都市である。もちろん中心地が観光都市というだけで、端の方へ行けば工業区やスラム街なども存在するが。

 ゲート社は月重力下のような低重力を実験に使用するために、実験施設も併設していた。


 技術部先端技術課は、この低重力が必要という名目で、ゲート社技術部の保養所のような位置づけで無理やりに設立された課である。

 基本的には、その維持のために構成員が必要なだけのとてもまったりとした部署である。というか、基本的には保養所の管理人として一人が常駐するだけの名ばかりの施設でもある。


 ゲーニーの同期シュリヒト・グラオはここで伸び伸びと好きな研究を行っていた。


 「さてさて、あとはこの確率制御装置の起動さえうまくいけば……」



 ――素性の怪しい上司(仮)とシンギュラリティが疑われる人型端末と一緒にまたエウロパまで行くことになりそうだけど……。

 不安だ。


 「どうかしましたか? ゲーニーさん?」


 シエンがこちらの不安を読み取ったかのように、顔をのぞきこんでくる。

 最新鋭機って読心術までサポートされてるんだったかなぁ。


 「なんでもない」


 「もしかして私達のこと疑ってます?」

 

 「いや、そんなことないよ。

 あれは、ただの不具合のはずだよ」

 

 「あらあら、ゲーニーくん。

 どっちを疑っているのかしら。

 それとも両方かな」


 さすが、女性の感は鋭いラクーンさんからも突っ込みが入る。

 凄いのは、読心術かそれとも……。 


 「いやいや、疑うだなんて。

 だいたい、シエンはともかくラクーンにどうにかできるなんて思いませんよ」

 

 「何よそれ。バカにしてー。

 私だってなんかできるわよ。

 たぶん、なにか、ちょっとくらいなら……」


 「いや、別にそこは出来なくていいところですよ。

 技術者の僕ですら、どうにもならなそうなんですよ」


 「ま、それもそうね。

 ここで意地になってもしかたないし」


 「しかし心外です。私は疑惑の対象なんですね。

 なぜそう思うのかくらい聞いておきたいですね」


 ラクーンさんとシエンからにらまれる。


 「ほんとに疑ってないですって」


 「本当のこと言わないと……

 くすぐってやる。

 うりゃー!」


 「ひゃっ、あはははは、ちょっ、やめてくだっ

 さいよ」


 「ほら、シエンちゃんも一緒に」


 「イエス。マイロード」


 「ちょっ、まっ、シエンはやらないよね?」


 てか、そのネタなんで知っているの?


 …………。

 

 「わかりました、言う、言います。

 だから、ひゃっ、あはははは」


 「本当ね?」


 危うくキャラが崩壊しそうだった。


 「わかりましたよ」


 落ち着くまでに時間が……。


 「シンギュラリティってご存知ですか?

 技術的特異点と言って、昔は人間の知能レベルをコンピュータが超えると予測されていたんです。

 その特異点がくると、コンピュータは人間を滅ぼそうとするかもしれないなんて話もあって……」


 「それが、今来たのかもしれないって?」


 「あとラクーンさんは正体不明で、新しい上司っていうのも怪しいのかもしれないって……」


 「いや……だから、

 私はあなたの上司よ」


 「そう言われましても」


 「身分証もほら、この通りよ」


 …………。


 そういって見せられたのは、ゲート社の身分証だ。

 ゲート社の身分証は今日最も厳しいセキュリティで作られていて擬装は難しい。

 同時にどんなところにでもゲートをくぐっていける伝家の宝刀でもあるわけだが。


 「あー、そっか、写真が古いままだわ。

 まあ、でもなんとなくわかるはずよね。

 今とそんなに違わないし」


 「確かに全然変わらないですね」


 って、おかしい。見た目が12歳の少女の証明写真だ。

 もとの身体っていったい、何歳の写真なんだろう。

 結局謎はより深まったような……。


 「とにかく!

 エウロパに急ぎましょう」


 「さっきの加速ができるなら二課のシャトルがいいわね。

 最速でエウロパまで行っちゃいましょう」


 「そうですね。

 ではお二人とも、さくさく乗り込んでください」


「すみません。

 ゲートのユニットはこの状態で放置はできないので、持っていきます。

 ユニットをはずしますんで、ちょっとまってください」


 急いで回路の接続を切ってシャットダウンしたけれど、時間がかかってしまった。

 シートベルトをしっかりしめないと、またあの加速がやってくる。

 あの加速がまた繰り返されるなら心しておかないと……。


 「では、シエン、行っきまーす」


 あ、これ毎回やるんだ。

 

 「さて、これより最大加速に入ります。

 どなた様も舌など噛まないように、だまっとれ!」


 …………。


 …………。


 …………。


 予告されてもすごい加速だ。

 しかし、このシャトルのエンジンってどうなってるんだろう。

 どう考えても普通のゲート社用のシャトルではない。


 そもそも、エネルギーからして不明だ。

 もしかして、最新の超小型核融合エンジン積んでるんだろうか。

 あんなの経費でおとしちゃったのか?


 推進力はどうだろうか、すごい加速だけれども……

 この前発表されたばかりの軍用のEMドライブだろうか。

 どこのルートを使って入手したんだろうか。


 いかんいかん、考えたら泥沼な気がする。


 しかし、あの上司もしかしてほんとはやり手だったのか?

 趣味にこんなに予算がとれるなんて。


 …………。


 …………。


 …………。

 

 加速が落ちついたところでようやく解放される。


「シエンはともかくとして、なんでラクーンさんは平気なんですか?」


「私?

 ちゃんと訓練受けているもの。この三倍くらいまでなら大丈夫よ。

 適正もあるらしいけれど。

 さて、お茶にしましょう。

 いい加減に一息つきたいわ。」

 

 「了解です」


 シエンが早速準備に入ろうとしている。


 スルーしそうになったが、訓練ってなんだ?


 「ティーセットは割れてしまったので、コーヒーカップでよろしいでしょうか」


 「そうだ、ゲーニーくん?

 きみが割ったジ○リのカップ。

 あれビンテージだったのよ。

 一客50万はするんだからね。


 「50って……

 なんて詐欺みたいな価格だ」


 「ま、いいわ。

 後で弁償してもらうから。

 シエンちゃん。お茶にしましょ」


 「あと、10分ほどお待ちください。

 スコーンが焼き上がります。

 焼きたてと一緒にどうぞ」


 「って、いつの間に」


 「ゲーニーさんがユニットを外している間にしこんでおいたんです」


 「いいわよね。

 でもなんで、お菓子のレシピなんてインストールされてたのかしらね」


「……。

 ジリリリリリーン。

 ジリリリリリーン」


 これはもしや黒電話っていうやつの音では?


 「ラクーンさん。

 お父様となのるお方から社内直通回線でお電話です」


読んでいただき、ありがとうございました。

感想、レビューなどお時間がありましたらお願いいたします。

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