第二話 ゲートの不具合?孤立する人々 (4)
――木星開発部第二課のメンバーは、自分とラクーンさんとシエン。
この中にこの事件を引き起こしたものがいるのかもしれない。
しかし……。
シエンが正常に動いているか確認するにはラクーンさんと確認しないといけない。
ラクーンさんの身元を確認するにはシエンを通して確認しないといけない。
つまりは、どちらかが真に信じられると判明したときのみ、もう一人の信用も確認できると。
単純で難しい問題だ。
でも、自然現象だったら? 二人を疑うこと自体が間違いだろう。
やはり、原因が気になる。
考え込んでいることでラクーンさんがどうしたの? と言いたげだ。
「うーん。考えがまとまらないですね。
今の世界状況でも確認してみましょうか」
何が起きているかわかれば、犯人の狙いもわかるはずだ。
犯人がいたとすればだが……。
「シエン。ゲートの通行記録課に連絡をお願いできるかな。
そこから、現在の状況を確認しよう」
「了解です。
各地域ごとに表示いたします」
ゲートの入場、出場入口の映像から世界の様子が見える。
ニューヨーク、ロンドン、パリ、東京、北京、ウブド、プラハ、イスタンブール、モルディブ
「不具合が起こった当初からの映像を早送りします」
不具合が起こった当初は、ただただ立ち尽くす人々と慌てるゲートの係員の様子だ。
これはどこの地域でも同じような様子だった。
しかし、不具合から30分がたったくらいから、
イライラしている人々が多く目立つ。整列していた地域も徐々に崩れている。
座り込む家族ずれも見え始めた。
「ゲート・ステーションは大混乱ねぇ。
はやく解決しないとさらに大変なことになりそうね」
その通りだ。早く解決しないと、暴動でも起きかねない。
と、そのとき、客の一人が暴れ始めたことで、イライラがピークに達していた人々は一気に暴徒と化した。
ゲートの係員に詰め寄る人々……。
無理にゲートを通ろうとする人まででてきた。
まあ、開いていないゲートは本当にただのゲートでくぐるだけで何も起きないのだが。
それもまた、暴徒にはイライラの原因になるようだった。
幸いなのは地震などと違って津波や火災の心配がいらないことか……。
だが、発生の仕方は地震みたいだ。
余震のようなものが起こらないだろうか、やはり心配だ。
水道、ガスは一部地域で断線している。
電気もネットワークも迂回ルートを通しているせいで普段の3倍以上の負荷がかかっている。
このままでは、エネルギーチャージがすぐに切れて停電がはじめる。
そうなれば、ネットワークも切れてしまうのでこの画像も届かなくなる。
「ゲート経由で街の監視カメラの状況もみられないかな」
「やってみましょうか。
本当は違法ですが、非常時ですし、ちょっとハッキングします」
さらっと危ないことを言っている。まあこっちも願ったりかなったりだ。
コントロールセンターとの通信がとだえた車は自動走行モードで一定時間動いたものの、自動停止モードに移行しておりほとんど停止している。動いているのは改造された車だろうか。
ゲートが一部使えないだけで、こうなってしまうとは……。
「人がゴミのようね。
いっそのことバ○スって言いたいわね」
またラクーンさんが物騒なことを言っている。
いや、今のは本当にいいたいだけなのかもしれないけど。
「思ったよりは被害が少なくてよかった。
とはいえ、ここはモニター出来る地域だからな。
モニターできない地域はどうなっていることやら」
「なんだったら、監視衛星を1つジャックして覗いてみましょうか」
ラクーンさんの暴走癖が移ったんだろうか、シエンもなんだか物騒だ。
しかし、興味はある。
「バレないようにやっちゃってくれるかな」
「はい、よろこんでー」
使い方が間違っている。それは居酒屋のセリフだ。
だがまあ、これで様子がわかる
「ちょうど北米のポブレ地域がモニター可能です。
ニューヨークから約150キロの地点を出力します」
電気は勿論ついていないし、車も動いていないのは先ほどと同様だ。
さらにひっそりとしていて本当にひとけがないようだ。
「ここにも人が住んでいるんだよね」
「人口的には少なくはない地域です」
「確かこの辺りって、ゲートが発明された直後に反対運動をしていて、そのまま開発されずにポブレ地域になったところよね」
「なんでしたっけ、ゲートに頼らない清く美しい世界を保とう! でしたっけ」
「なんで、ゲートがあると清く美しくなるのかわからない団体だったわね」
「ゲート反対派がこぞってここにやってきたことでゲートができなかったなんて、もともと住んでいた人達はたまったものではないですよね」
まるでディストピアだ。
ゲートを受け入れさえすればこんな生活にはならなかっただろうに……。
いや、この考え方が彼らからすれば毒されているということなんだろうか……。
「ほかの地域もご覧になりますか?」
「いや、いいわ。
どこも似たり寄ったりでしょう」
返事をするまえにラクーンさんに言われてしまった。
とはいえ同意見だったが。
ポブレに住む人々はゲートの事故にかかわらず孤立しているようなものだ。
それがさらに電気もネットも届かなくなったというだけの話なのかもしれない。
…………。
…………。
…………。
さて、世界の状況は確認できたとして、結局犯人の狙いはわからずじまいだ。
世界の混乱が狙いなのか……。
だとしたら大成功だが……。
「さて、暴徒と化した人々の対応はきっとゲートの係員とか、窓口対応部署がやってくれると思うわ。
私たちはどうしましょうか? このまま待機する?」
…………。
対応部署に心当たりがあるとすれば、一か所だけだ。
「それもありかもしれませんが……。
技術部先端技術課に知り合いがいるんです。
この地震のような現象のログをもっていって相談してみたいんですが……」
「面白そうね。その話乗ったわ」
面白いことではないのだが。それには、最寄りの生きているゲートから地球圏へ帰らないといけない。正確には月にいければよいのだが。
「シエン、とりあえず、どこでもいい。
一番早く地球圏に行くにはどういうルートがある?」
「それでしたら、エウロパ経由になりますね」
「エウロパから直通回線は切断していますが、火星経由であれば地球圏に戻れます」
今空いているゲートもいつ閉じるかわからない。
急いだほうがいい。のは判っているが……。
素性の怪しい上司(仮)とシンギュラリティが疑われる人型端末との旅かぁ。
先が思いやられるなぁ。
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