7話 謁見
「テツロー殿、テツロー殿」
ぐっすり寝ていた俺は自分の名前を呼ぶ声に起こされた。
目を開けると・・・ああ、シルク軍曹か、が起こしに来ていた。
「大丈夫ですか?まる1日寝ていたようですけど」
「大丈夫、大丈夫です。なんかあったんですか?」
「陛下がお呼びなんですが、体調がすぐれないようならそう申し上げておきますが」
「いやいや、大丈夫です。行きます行きます・・・って陛下?」
「ええ、皇太子殿下が即位されて
「そうですか。それじゃすぐ行かないと」
「それではそう申し上げておきます。後で陛下のところにご案内します」
そういってシルク軍曹は出て行った。
軍曹が迎えに来ることまでに着替えておかないと。さすがにジャージで謁見はまずい。
正装のほうがいいといってもどんな服がいいかなわかないので軍の制服で行くか。
そいうことで海上自衛隊の幹部の正装を改良して、高校の制服と同じものと創った。
そのままでもよかったけど、徽章とか略章とかはつけない方がいいだろう、でも徽章とかがないと見栄えが良くない(少なくとも俺はそう思った)から聞慣れている学校の制服にしたわけだ。
一応正装だし。
制服を着て、一応ベルトに儀礼用の銃剣もつけてと・・・やっていると軍曹が戻ってきた。
いますぐ陛下と会談ということで軍曹の後についていく。幸い、非公式なものらしい。
ほどなく、謁見の間ほどではないがそれでも豪華な扉の前についた。
「陛下。テツロー殿をお連れしました」
「うむ、入れ」
扉を開け、中に入るとキースとライナー、それにアドルフもいた。
「軍曹、下がってよいぞ」
「はっ、失礼しました」
シルク軍曹が退室した。
えっと、これからどうすればいいのかな?とりあえず、皇太子から国王になったのだから・・・
「国王陛下、このたびは即位おめでとうございます」
「いやいや、テツロー殿。このたび余が即位できたのはあなたの働きが大きいと聞いる。こちらこそお礼を申し上げる」
陛下が頭を下した。
いやいやいやいや、国王陛下が頭下ろしちゃだめだろう。非公開だからいいのかな?
「それでは、本題に入ろう。まず、テツロー殿。あなたに男爵の爵位を授ける」
「へ?」
「そうだ、まだ説明していなかったな」
驚いている俺にキースがいう。
「この国での慣例では異世界人と認められたら自動的に騎士の爵位が与えられる」
「はあ?」
「それに今回、国璽の件での活躍を加味して男爵の地位が与えられることになったのさ」
「はぁ」
どうもしっくりいかない。
あとから「ドッキリ大成功」なんてことはないだろうな?
んなことを考えていると、
「男爵。卿さえよろしければこの場での敬語の使用をやめたいのだがよろしいか?」
「別に構えませんが」
そういった瞬間、一気に雰囲気が変わったというか緩んだ。
陛下は王冠やマントを脱いだ。
「まったく、これにはなれないね」
「慣れてください、陛下」
「んなこたぁ分かっとるわ。ったく、兄上さえ生きていればこんなことはしなくてもよかったのに」
ん?随分と人が変わるな、おい。
なんかぎこちないと思っていたのはもともとがこんな性格だったからか?
「おお、テツロー。説明していなかったな。俺ははっきり言って宮廷社会が苦手でな。格式やら儀礼やらそういったものは最低限しかできないんだ」
「陛下はよく逃げ出して隠れるから親衛隊も大変だったんだ」
「だまっとけ、キース。軍隊生活が長いのだからしょうがないだろう」
「はいはい。その軍隊生活で女性士官に手を出して憲兵にひっぱかたれた陛下なのでしょうがないですね」
おい、今すんごい黒歴史が出てきたぞ。
「まあ、とりあえずテツロー、もっと上の爵位いるか?」
「いや、まるでそんなサラッと言わないでください」
「んなこというな。貴族なんてこの国でもごまんといるし、一人ぐらい増えても大したことない」
「いやでも、前の世界では平民ですよ」
「それは前の世界での話だ」
「そうなんですけど」
「まあいい。爵位の件は後回しだ」
そういうと陛下は何かをポイっと何かを投げ渡してきた。
「ほれ。爵位はいろいろ面倒かもしれんが、これは受け取っておいても損にはなるまい。銀獅子勲章だ」
「勲章って投げ渡すものなんですか?」
「いや、違う」
「ですよね」
もうなんなんだこの人は。
国王なのに普通の人みたいな態度だな。
やりやすくていいけど。
「ちなみにそれ、上から2番目の勲章だぞ」
アドルフが教えてくれた。
いくら国王とは言え、そんなものを投げるなんて。
「テツロー。分かってるかもしれないが、ここでこんないい加減なことをしたなんて誰にも漏らすなよ?」「分かりました」
国王命令です。
守らなきゃ首をはねられるのかな。
「さて、話は変わるがテツロー。これからどうするつもりだ?」
「どうする、とは?」
「この国で生きていくか、この国から出ていくかということだ」
その話か。
選択肢としては2つある。
だけど、この国から出ていくことを選ぶと少々危険が大きい。
この国は内戦状態にはあるけれど、それほどこちらの状況は苦しくないと思う。
それに、もしこの国から出ていくといったら「機密保持」とか「異世界人を他国に出さねいため」とか理由をでっちあげて幽閉もしくは殺される可能性もある。
そんなことをするぐらいだったら・・・
「できるならば、この国で生きて行きたいと思っています」
「ほう、つまりこの国のいいなりになるということか?」
「さすがに人体実験の実験台になれとかは拒否しますけど、従軍するぐらいの覚悟はありますよ」
「そうか、そういってくれるとありがたい」
「どうせ、この国から出ていくといったらそのまま放り出されるか拘束されるかだろうですしね」
「よくわかってんじゃねえか。それなら心配は不要だな。これからのことは追って沙汰するが、まぁ一兵卒とはならないだろう。これだけは確実だ。では話は終わりだ。」
「わかりました。それでは失礼します」
外からシルク軍曹が扉を開けてくれた。
部屋から出ようとしたときに再び陛下が声をかけてきた。
「おい、男爵の位は本当に要らないのか?」
「はい。自分はあくまで平民なので」
「分かった。もう行っていいぞ」
「では、失礼しました」
シルク軍曹が扉を閉めた。
「あー疲れた」
「起きて早々お疲れ様です。食事を部屋に用意してありますよ」
じゃあさっさと行こうと駆け足気味に部屋に戻った。
「ふう、やれやれ。どうやらあの異世界人は当たりのようだな」
「そうですね。記録によると前の異世界人はかなり暴れていたようですから」
記録によると、120年ほど前にやってきた異世界人はかなりのことをやらかしたらしい。
王権が握られ、王族の血が一時途切れたともいわれるぐらいだったそうだ。
幸い、その異世界人は病死しそのあとコンラート朝が成立した。
ちなみに今の国王はコンラート6世だ。
「さて、爵位に興味がないとするとどうすればいいと思う、ライナー?」
「昔から男を篭絡するには金、名誉、地位、女ですが」
「ふむ、令嬢のだれかをあててみるか」
「皇族でいうとマリア王女ですか?まあ、あの方なら誰にでも好かれるような方ですが」
一応、コンラート6世には腹違いの兄弟を含めて弟が1人姉が2人が妹が1人いる。
ちなみに王位継承権は男子の方が優先される。
一番上の姉の方はすでに他国の王族に嫁いでいるが、それ以外はまだ婚約もしていない。
「ま、それに関してはまだ急ぐ必要はないだろう。そこまで権力とかに執着しているようではないからな。それといせか」
「了解です」
「それと、テツローの配置だがどうすればいいと思う?」
「親衛隊はすでに定員を満たしていますが」
「そういえば今のところお前たち3人も宙ぶらりんだな」
王国の制度では親衛隊が2つ以上できることがある。
まずは国王の親衛隊、さらに国王が許可すれば他の王族の親衛隊も設置することができる。
今回の場合、すでに前国王の時に皇太子の親衛隊の創設が許され、それがそのまま現国王の親衛隊となっている。
そのため、前国王親衛隊の2トップであるキース、ライナーは現国王の親衛隊の臨時顧問という形をとっている。
ちなみに元近衛兵のアドルフはその部下という扱いだ。
「なんなら新部隊を創設するか?テツローをトップとして精鋭だけを集めた部隊を」
「それはやめといたほうがいいかと。テツローの戦闘はこちらの常識では考えられないものなので」
「それもそうだな。3人でテツローを助けてやれ。あと異世界人についての機密文書の閲覧も許可する。十分気をつけて当たってくれ」
「「「はっ」」」
3人が敬礼をし、部屋から出て行った。
「さて、これから面白くなっていきそうだ」
コンラート6世は部屋の中一人、そうつぶやいた。