6話 離宮
離宮ハイデルベルク
もともとは歴代国王の療養地として建てられたが、万が一の時王都のバックアップとしても十分機能するような作りにもなっている。
現在は皇太子が本拠地としている。
「これまたすごい城だな」
「そりゃそうだろう。王城以上の規模で作った離宮だからな」
関所から離宮まで走ってきた俺たちは今、離宮の手前で入城手続きのため待っている状態である。
離宮には城下町はないが、その代わり兵士たちでごった返していた。
車は外に止めたままなので結構周りから見られている。
「兵士が多いですね」
「そうだな。常備軍のほとんどは皇太子殿下についているか殿下よりの中立だからな」
「そうだ、テツロー。お前短剣出せるか?」
「?ええ、創れますよ」
「それじゃそれをつけとけ。いわゆる宮廷儀礼というやつだ」
特に逆らう理由もないので儀礼用の銃剣を創りだした。
そんなことをしていると中から黒い鎧を着た兵が出てきた。
「ライナー隊長、キース副隊長。王太子殿下がお会いになるそうです。協力者2名もお連れしろとのことです」
車の中で聞いたのだが、キースは弟だが階級は兄のキースよりも高いらしい。
そうそう、キースからも呼び捨てで呼ぶことが許されました。
ちなみに今となっては続いているかはよくわからないが、内戦前までは金色の鎧は近衛師団、黒い鎧は親衛隊限定の鎧らしい。
呼びに来た兵士についていき、大きな扉の前についた。
「それでは、武装を預からせてもらいます」
どうやら武装を預けるらしい。
といっても大きな武装は城に入る前に外しているから装備しているのはピストルと短剣だけだ。
ピストル(弾は抜いてある)を預ける。
武器を預けると兵士が合図し、重々しい音共に扉が開いた。
「ライナー親衛隊隊長御一行、ご入場でございます」
離宮ということで玉座も立派なものがあった。
「連邦派の主な貴族がほとんど集まってきているな」
アドルフがボソッとつぶやく。
たしかに貴族がたくさんいる。偉そうだし。
玉座の前までくると他の3人の真似をしてにひざまずく。
玉座から豪華な服を着た男の人が下りてきた。
おそらく皇太子であろう。
「キース隊長、ライナー副隊長。このたびはまことに大儀であった。父上の遺言を守るためよくやってくれた」
「おほめにあずかり、光栄でございます。このたびは国王様の遺言に従い、国璽を王太子殿下にお渡しする任を申し付けられました」
キースが懐から袋を取り出す。
皇太子がその袋を受け取り、中から国璽を取り出す。
「うむ。たしかに受け取った。ご苦労」
「ハッ。それではこれをもって親衛隊の最終任務を終了いたします」
「それで、そちらの2人が協力者とかいう者か」
「はい。左に控えるアドルフは元近衛兵ですがこのたび我々に味方してくれた私の友人です。また、右に控えるテツロー・モリタは異世界から者です」
「何!異世界から来たのか!」
周りの貴族がざわつく。
「しかし、何故このような所に?召喚術を使用したのは王国のはずだが?」
「おそらく、何かの不祥事があったのでしょう。帝国や連邦が阻止用の部隊を送ったという情報が入っていますし」
いろいろ憶測が飛び交っているがまさか神様が直々に動いたとは言わない方がいいだろう。
科学が発達していない時代ほど宗教というのは国民のよりどころだったりするからな。「神様が~」というのは慎重になった方がいい。
「皆の者、静まれ」
王太子の一言で貴族たちが黙る。
「それではテツロー殿は私のお客人と扱わせいただこう。この城を自分のものと思ってくれ」
「ありがとうございます」
「キース、ライナー、アドルフの3名は追って沙汰する。それではこれにて一時閉会する」
王太子が、いや王太子殿下が謁見の間を出る。
ようやく一息つけると思ったらなぜか周りに貴族の人たちが集まってきた。
そこから始まったのは自己紹介と家族の紹介の嵐だった。
「テツロー殿。お初にお目にかかります。私はこの国で穀倉地帯を収めている何某と申すもので・・・」
とか
「なんでも近衛兵を調略したのはあなただとか。いや、素晴らしい才覚の持ち主ですな」
とか10何人という貴族から一斉に言われた。
俺は聖徳太子じゃないよ!
それになに?もう戦闘の詳細なものが流布しているの?
「テツロー。上だ」
上を見るとキースが空を飛んでいた。
これは幸いと上に逃げる。
その後、キースについていき謁見の間を出た。
謁見の間をでた俺とキースは廊下を少し小走り気味に歩いていた。
貴族に会うと面倒なことになるからね。
「あー緊張した」
「お疲れさま」
「それにしてもさっきの貴族様たちはなんなんですか?」
さきほどの貴族に囲まれたのを思い出す。
あれはいったい?
「ああ、あれか?この国では、というかこの世界では異世界人の血は高貴なものとされているんだ。特にこの大陸では異世界人は男爵以上の待遇を受けられて、異世界人は王族並みの」
「つまり、異世界人の血を利用して自分の地位を上げようとしているということですか?」
「貴族連中はそれしか目がないからね。過去には別の国で貴族の令嬢を食いまくった異世界人もいたぞ」
「うわ。なんか後々問題が起きたのでは?」
「ああ、その国滅んだ」
あちゃー。こりゃ結構身の回りの管理をしないとこの国がやばくなる。
特に、女性関係かな。古今東西、国が傾く原因の一つだし。
しばらく歩いていると、部屋の前でキースが止まった。
「ここがテツローの部屋だ。部屋の外には兵士をつけとくからなんかあったら言いつけてくれ」
「了解。キースたちは?」
「俺たち?俺たちは外の兵士用の宿舎に寝泊まりすることになるかな」
「あ、そうだ。俺はこれからどうすればいいのかな?」
「それは多分皇太子殿下と話し合って決めるんじゃないか?」
「了解」
キースと別れ、部屋の中に入る。
部屋ははっきり言って1人用としては広すぎるものだった。
天蓋つきのベットなんて初めて見たよ。
そのとき、ドアがノックされた。
「はい、どなたでしょう」
「キース副隊長の命で参りました者です。入ってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
入ってきた兵士はいかにも真面目な兵士だった。
かかとを打ち鳴らし、直立不動の姿勢をとる。
「失礼します。自分はシルク軍曹であります。テツロー殿の護衛と補佐を命じられました」
「テツロー・モリタです。テツローとでも呼んでください」
「いえ、テツロー殿は皇太子殿下の御客人なのでそれ相応の礼を尽くさせていただきます」
「はぁ」
「それでは自分は外で控えさせていただきます」
シルク軍曹が出ていく。
なんか王太子殿下の客人って結構すごいのかね。
宮廷社会はよくわからん。
とりあえず、着っぱなしの装甲服を脱ぐ。
軽くて内部の環境が常に快適に保たれていると家でも長時間の着用はやっぱり負担になる。
服をジャージとシャツ(俺の普段着は大体これ)に着替えてベットに倒れ込む。
思ってみれば迷宮内で神様の部下とあってからずっと寝ていなかった。
初めての戦闘や車の運転、謁見といろいろなことがあった一日だった。
これからどうしようかということを考えながら俺は意識を手放した。