再会
翌日、辰美は眠い目をこすりながら大学へ向かった。結局謎の男はたまたま近くに居た警察官にあっさり捕まり、辰美は事情を聞かれたりしていて寝るに寝られなかったのだ。そんな日の翌日に限って一限から必修の講義だったりするので余計に腹立たしい。
「ほんっとにあの変態男の所為で…」
つい文句が口から出てしまう。人通りの少ない道であるのを良い事に。
「すみません。でも変態男はちょっと…」
人通りの少ない道であるのを良い事に、の、範疇に入るかどうか。辰美の目の前に男の顔があった。しかも逆さまになって。
「あっ」
「わー、だからちょっと待ってくださいよ!話!話を聞いて下さい!」
男の手が辰美の口を塞ぐ。
何故だろう。割と危機的状況にあるはずなのに状況がおかしい所為か辰美は全く恐怖を感じなかった。
男は辰美の口からそーっと手を離すと唇の前に人差し指を立てて、シーッというポーズをしながらくるり、と、身体を反転させた。
すとん、と軽い足音を立てて地面に降り立つと、男は恭しく頭を下げた。
「申し遅れました。私、ジェームズ・ケント、ラグーン王国探偵協会所属、駆け出しの探偵です。ジェイとお呼びください。」
黒いスーツが一瞬、マジシャンの燕尾服か執事の制服に見えるような、どこか芝居がかった丁寧な礼だった。何だか色々と突っ込むところがあるような気がしたがとりあえず
「探偵が黒スーツ…」
と、呟いてみた。
「変なところに突っ込みますね。こちらではこの方が目立たないと思ってこの格好なのですがおかしいですか?」
少し長めの崩した銀髪。紫の瞳。整った顔立ち、すらりとした長身の黒スーツ。ある意味目立つといえば目立つ。探偵が目立っちゃいかんだろうと辰美は心の中で突っ込んだ。
「…まぁいいんじゃない?」
昨夜は事の異常さに気付かなかったがこうしてみると結構いい男だと辰美はうっかり思ってしまった。そしていかんいかんと首を振る。
「良かったです。では話を…」
ジェイがそこまで言った時辰美ははっとした。
「ちょっと待って!今これから出なきゃいけない講義があるの!話はまた後で!」
そう言って辰美は走り出した。
「辰美さんの事情は分かります。でもこのまま逃げられても僕としては困ってしまうんですよ。」
「それは分かるけどこっちにもこっちの…事情が…」
「分かってます。それではお待ちしますから場所を指定して下さい。」
「わか…っ、学校・・・」
辰美は息が上がってしまい、立ち止まった。
「おっとっとっと。」
すると隣に居たジェイはすーっとすべるように前に行った。否、滑ったのだ。路上を、と、言うよりは路上の僅かに上を。
「すみません。行き過ぎてしまいました。」
悪びれない笑顔を見せるジェイの胸倉を掴んで辰美は言った。
「ひとつ、聞いていいかしら。」
「何なりと。」
すー、はー、と大きく息をして呼吸と鼓動を整えてから言う。
「私の頭がおかしくなったんじゃないわよね。」
「はい。辰美さんは至って正気です。」
「それは、この後あなたがちゃんと説明してくれることの一部なのよね。」
辰美はそう言ってジェイの浮いた足元を指差した。
「あ、すみません。こちらでは普通では無かったですね。」
「登場の仕方もね。」
昨日も今日も、と辰美は付け加えた。
「そう、ですよね。」
「説明、してもらえるのよね。」
「はい!是非とも!」
ジェイは話を聞いてもらえるということで満面の笑みを見せた。今、辰美に好きな相手がいなかったら間違いなく恋に落ちるだろう。だが、本命がいる以上、辰美は至って冷静だった。
「今日の午後4時。あそこの公園で待ち合わせ。オーケー?」
「了解しました!」
何故かびしっと敬礼するジェイを尻目に辰美は全力で大学に向かって疾走した。




