昼下がり
「あなたは悪霊にとり憑かれている!」
びしっと辰美の目の前に突きつけられたのは銀であろう十字架だった。
どこにでもある大学の何の変哲も無い昼下がりである。午後の授業も粗方終わり、帰宅する者、レポートに勤しむ者、そしてサークル活動へ行く者など学生は思うまま、それぞれの都合のままにばらけていた。
辰美こと、清水辰美もサークル活動へ向かう一人でまさにそのサークル部屋の前に来た所だった。
辰美はただ黙って大きくひとつため息をついた。今更驚きもしない。これもある意味日常になりつつあるのだ。実を言えばこれでもう七回目。一週間ほど前からのことなのだ。飽きもせず毎日毎日大学構内のどこかしらで辰美をみつけては同じことを言う。最初のうちは驚いたりもしていたものの、最近はもう半ばどうでも良くなっている。
「はいはい。私そういうのいいから。」
辰美は極めて適当に言葉を流した。
「あなたが良くても私が良くないのよさあ今すぐ払いましょうさあさあさあさあ!」
いつ息継ぎをしているのか分からない勢いでそう言いながら辰美に迫ってきているのは長い黒髪でほとんど頭部が隠れている見事なほど黒尽くめの女。ご丁寧に服装も真っ黒で黒のハイネックワンピースに黒のケープを纏っている。更に言えば足元も黒のブーツだ。
真っ黒い彼女は同じ大学の学生でオカルト研究部の部長、桜小路麗華である。名前は華々しいがその名前はあまり知られていない。誰からともなく、皆、寛恕のことを
「サダコ。」
と呼ぶ。
「…あのね。ここをどこだと思ってるの?」
辰美はふっと余裕の笑みすら見せた。
「ミス研。つまりミステリー研究部の部室のまん前!そして私はこれから活動!」
そう、と辰美は額に指を開いて当てた。
「ミステリーは科学!科学的美学を根底にした推理劇!非科学なオカルトが入り込む隙間なんて無いのよ!」
「まあまあ、二人とも落ち着いて。」
二人の間に割って入ったのはミス研部長花菱幸也である。
おっとりとした癒し系男子で他の女子学生からの人気も高い。
「落ち着いてなんかいられないわ。今すぐ払わないとあなたに災いが…」
「毎日毎日あなたに同じことで絡まれてること自体が既に災いなんだけど。」
「私はあなたを心配して!」
「大きなお世話!」
いつまでたっても終わりそうにない二人の喧嘩を幸也ははらはらしながら見ていた。だが、拳を口元に当てながら二人の会話を聞いているうちにふっと笑顔になった。
「仲がいいなぁ。」
「良くない!」
同時に応える二人にますます幸也は笑いたくなった。そして心ひそかに自分の考えの確信を得た。




