王国
「いったあああい!早く退いてよ!麗華!」
「うるさいわね!私はそんなに重くないわ!」
「…重…くない…けど、それなり重力感じるから退いて欲しいんだけど…二人とも…」
「…す、みま、せ、降りて、も…」
一番下のジェイが気を失いかけている。
「大丈夫かー?」
世界を隔てる壁を抜けた先で折り重なっている人間たちを翡翠が上から見下ろしていた。おおよそその小さな身体ですら支えることは難しいであろう小さな翼をはためかせている。
「思うに、それはつまり、鳥のように身体を浮かせるための羽ではないってことね。」
「翡翠が飛ぶのはじめて見た。」
服の土を払いながら辰美が言う。
「浮遊すること自体は別の某かの力が働いていると見るね。」
「つ、つまりはそういうこと、です…」
最後によろよろと立ち上がったジェイはまたすぐに倒れそうになった。
「で?ここはその王国とやらのどこなわけ?」
「そうですね…」
辰美に聞かれてジェイは初めて王国の地図らしきものを広げた。
「ちょっと待って。ジェイの狙った場所に出られるわけじゃないの?」
「基本、そうなんですけどね。」
「時々失敗するの?」
「やだなぁ。時々成功するんですよ。」
ジェイは悪びれずそう言った。
「…それって下手したら敵の真っ只中に出ることもあるってことかな?」
幸也が負けずに笑顔で突っ込む。
ただしそれはどこか引きつっていた。
「そういうこともあるかもしれませんね。」
今更ながらに危険な移動をしたものだと全員が思っている頃、麗華は冷静に空を見上げていた。夜空である。月は半分。いくつかの星がキラキラと瞬いている。
「星の配置、月、大気の様相、植物の種類。」
今度は地面に目を向けてあちこち見て周っている。
「ここも地球、と、考えていいのかしら?」
「そうです。皆様のいる地球とは色々違いますが太陽系第三惑星、地球、と考えていいでしょう。」
「じゃあ、大気状態も同じと見ていいかしら。ここに居ても大丈夫ってことね。」
「違う世界では幾分でも負担はかかります。物理的なことじゃなくても。そもそも生身で世界の間を移動することは出来ませんよ。」
「なるほど。確かにそうかもね。」
「皆さんにお渡ししたその銀バッジがシールドを張っているのです。だから移動も可能ですし、そう長い期間ではありませんがここに居ても大丈夫です。」
そう言うとジェイは金バッジに地図を見ながら金バッジに触れた。一瞬、ジェイの輪郭が歪み、次の瞬間には黒いスーツが探偵の制服になっていた。
「わお。何それ。初めて見た。」
辰美が感嘆の声を上げる。
「こちらの制服ですよ。このまま行くとあちらでは目立つでしょう?」
「なるほど。隠密行動には必要だよね。」
幸也も納得した。そんなことをしている間にもジェイは地図と周りとを睨めっこしている。そして、
「良かったですよ。どうやらここはドラゴン達の立てこもる北の山の近くのようです。」
「とりあえず翡翠君を仲間に会わせて、無事だってことを教えたほうが良いとよね。」
幸也の提案に皆頷いた。
「私もそう思います。まず翡翠君の身の安全が確保されればドラゴン達も安心するでしょうから。」
「そして事情を説明して、智恵を借りられれば良いわね。」
「じゃあ、行きましょう!」
「待って下さい!」
全員がすっかり出発する気になった時、草むらの中から聞き覚えの無い声がした。
「ドラゴンの…山は…危険です…」
草を掻き分けて出てきたのは怪我をした、一人の若い男だった。




