決意
「…って、いうわけなのよ。」
辰美は夢の内容を話した。ヒスイはその都度記憶を取り戻していくようで、はっとしたり、うんうんと首を縦に振ったりしながら聞いていた。
「…これって…証拠になるの?彼女が勝手に作った話を言っているとか」
「あるいは翡翠をかばってるって思われても仕方ないよね。」
「こちらの世界にはこちらの世界の現実が、向こうには向こうの現実があります。大丈夫ですよ。」
ジェイが珍しくはっきりと切り返すと麗華はふむ、と考えて
「それはそうだわ。失礼。」
と、あっさり自分の意見を覆した。辰美は麗華の意外な一面を見た気がした。「あんたって…ただ、自分の意見を押し通すだけじゃないのね…」
「失礼ね。オカルトだって、ミステリーだって真実の追究ってことには変わりはないわ。柔軟な考えを持っていないと出来ないってこともね。あんたも仮にもミス研部員だったら…」
「ああもうはいはい分かったわよ…」
辰美はうんざりと言った。幸也はそんな様子を微笑ましく見ていた。
「ただし、あくまで、証言としては、です。物的証拠がなければ疑いをはらすことは難しいかもしれません。」
「なるほど。そこはこっちと同じって訳ね。」
「じゃあ今度は翡翠君のほうの記憶をまとめてみよう。」
幸也が書き始めた内容は翡翠の記憶と辰美の夢をまとめたものである。翡翠は出会って以来、姫君のことが気に入って懐いていること。当然ながら王家に対する反抗の気持ちは微塵もないこと。名付け式の前日、謎の男に謎の薬を飲まされ、身体の自由が利かなくなったこと。
「身体の自由を奪う効果のある香は古代からあるって聞くわ。向こうにあってもおかしくない。」
「あ、麗ちゃん、お帰り。」
「つまり、その香で身体の自由を奪い、遅効性の毒を飲まされたってことですか?」
「あるいは、医師の処方するであろう薬に反応して毒が発動する、とかね。」
「そうなると、誰でも犯人の可能性があるってこと?」
「そうなるね。」
そこで一同うーんと頭を抱えてしまった。
「顔は、覚えてないの?」
幸也が辰美と翡翠に聞いた。二人は顔を見合わせて悩み、首を横に振った。あからさまに表情を険しくした麗華の肩に宥めるように手を置いて
「まぁ毒の所為だから仕方ないよね。」
幸也がまとめた。
「動機。」
辰美が口を開いた。
「動機って何?ずっと思ってたんだけど、国を危険に晒すって分かっててドラゴンに毒を盛る動機って何だろうって。」
「言いこと言うわね。辰美。さすがミス研部員。」
珍しく麗華が辰美を褒めた。慰めるつもりなのか、本気なのかは分からないがどちらにしてもそう滅多にある事ではなかった。
「姫君が瀕死、って事で皆動揺してそこまで考えが至ってないみたいだけど、そもそもこの真犯人には必ず大きな動機があるはず。」
「大きなリスクを負ってでも成し遂げたい何か、ってことだよね。」
「そう。」
「ドラゴンは…国防の要…」
「現実、ドラゴンと王国の間に亀裂が入った。これが犯人の目的のひとつだとすれば?」
「亀裂が入れば、ドラゴンは国を守らなくなる。それどころか、」
「敵に回ることすらある。」
「それが、目的だとしたら?」
辰美の発言に全員が顔を上げた。
「王国の滅亡か、あるいは、他国による侵攻。」
「攻めるのに邪魔な竜を敢えて味方につけるために王家と竜の仲を裂いた。」
「そのために利用されたのが幼い竜と幼い姫君。」
「そうなってくると、」
「許すわけには行かないね!」
全員の頭と心がひとつになって働いた。
「そうなると犯人は単独犯、もしくは敵国とのつながりのある人間、ってことになる。」
「今、一番侵攻の可能性のある国ってどこなの?」
「北方隣国、ソウ国です。ソウ国はもともと小さな国でしたが徐々に他国に侵攻し、大きくなってきました。」
「次のターゲットはラグーン、ってことね。今まで小競り合いのようなものは?」
「国の歴史には残っていません。しかし国境付近で不穏な動きがあったということは協会の機密文書にあります。」
「…そんな大事なことをぽろっと言っちゃっていいの?」
「国の大事ですから。それと、私は皆さんを信頼しています。」
ジェイは強い瞳で言った。
「私の話を信じてくれて、私たちのために力になってくれようとする皆さんです。」
「私はそんなにいい人じゃないわ。個人的興味よ。」
「それでもいいんです。見返りがあったほうが腰が軽いのは誰でも一緒ですから。」
「ジェイさん…毒も吐くんだね…」
「だからこそ、信頼しているっていうのもあるんですよ。正直ですよね。麗華さんも。」
ジェイが笑いかけると麗華は一瞬かっと顔を赤くした。すぐにふいと横を向いてしまったのでそれ以上は確認できない。
「待って、単独犯じゃない。だって私は二人見たもの。」
辰美もかなり発言するようになっている。全員の思考が流れに乗って研ぎ澄まされていく。
「あ、そうか。そうなると…」
「ソウ国とのかかわりの線が強いですね。」
「ちょっと待って。今ドラゴンたちが立てこもってるの、どこだって言った?」
「国の北の山…」
「それって結構、やばくない?近いじゃない。ソウ国に。」
「やばいですね…勝手に話を進められて共にラグーンの敵に回られたら…」
「そうならないためにもまずは翡翠の潔白を伝えないと。」
そこで皆が一斉に頷いた。視線を合わせて、笑う。
怖くないはずはない。そこまでする必要があるのか、という迷いが無いわけではない。だが、守りたいものがあって、満たしたいものがあるのなら、リスクを承知で飛び込むことは時に必要でそれなりの価値がある。
その、決断こそに。
「では、行きましょう。」
「ラグーン王国へ!」




