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異世界に渡った現代吸血鬼の生態~実践編~  作者: タクティカル
第一章 異世界の始まりは闇より深い森の中
6/19

初めての戦闘と謎の発光現象


 木に背中を預けながら、傷が癒えるのを待つ。

 特にこれといってやることがないので、とりあえず定番のアレを行ってみることにした。

 アレ、いわゆるお約束のステータス確認だ。

 異世界に来たらやはりこれをやっとくべきだろう。


 自分の状態――ステータスを確認しようと心の中で強く念じる。



■■■


名前:ハイガ

レベル:1


■■■


「お、出た。やっぱ異世界と来たらステータスだよな」


 頭の中に文字が浮かぶ不思議な感覚。

 レベルの下にもつらつらと体力やら筋力などのステータスが表示されていたが、これといって特筆すべき点がなかったので割愛。

 普通のRPGの普通の主人公のレベル1時点でのステータス、といった感じだった。

 スキル欄もあったが、完全に空白だった。

 職業の欄も『無職』だった。本当の事とはいえ、何だかムカつく。せめて『夢追人』とか『流浪人』とかにしてくれればいいのに。


 よくよく考えてみると、何故異世界に来ただけでステータスが表示されるのかは分からないが、これはもうそういうものだと思うしかない。便利だしな。

 こればっかりはお約束だ。食パン咥えて登校すれば転校生にぶつかる、女性しか乗れないロボットに男だけど乗れる主人公、寮長になった寮が実は女子寮だった、一見普通の学生だが実は退魔の家系で直死の――などなど、ありふれたお約束だ。

 お約束はいい。見ていて安心するし、純粋にワクワクする。わぁい、俺お約束大好き!

 

 しかし……俺、レベル1なのか。

 これでも結構長生きしてるんだけどな。年齢とレベルは関係ないのか?

 それともつい最近まで消えそうなくらい弱ってたからレベル1なのか?

 分からないが……これはこれでいい。


 レベルがあるということは、それを上げることができるということ。

 ここだけの話、俺がゲームをしていて一番楽しいと思える瞬間――それがレベル上げだ。

 ひたすらダンジョンに篭もってレベルを上げる。ひたすらダンジョンの中を行ったり来たりして、魔物を倒す行為だけを繰り返しながら、上がっていくレベルを見てニヤニヤする。それが楽しい。

 レベルを上げすぎて適正レベルを超え、ボスをあっけなく倒してしまったときの呆気なさは快感だ。

 某有名RPGでダメージが限界突破してラスボスをワンパンした時は、嬉しさの余り悲鳴をあげた。

 どうしてここまでレベル上げが好きのなのか。あえて理由を考えるなら『成長』を見ることが好きだから、か。歳をとらない不変の俺にとって『成長』は羨ましい概念だ。成長する存在はそれだけで愛しい。

 レベル上げはゲームとはいえ、そんな成長が数字で表されるので、大好きなのだ。


 そんなレベル上げ大好きな俺が、自分の体で実際にレベル上げを経験できる。こんなに嬉しいことはない。

 しかもレベル1だ。上げ放題。最高じゃないか。


「よし、そこそこ治った」


 体を見ると、全快とはいえないが8割ほど治癒が終わっていた。

 このペースだと完治までまだ時間がかかりそうだ。完治までの時間がもったいない。

 辺りを捜索している間に治りきるだろう。


 そう考え、自分が目覚めた森の中を探検することにする。

 何はともあれ必要なのは情報だ。

 この世界がどういう世界で、どういう生き物がいるのか。どういうルールで成り立っているのか。 

 それを調べなければならない。

 できたら人間、もしくは人間に近い存在に出会うことができたら一番てっとり早い。

 森の中に村があればいいんだけど……。

 夜になるまで待って森の外を出歩く選択肢も考えたが、朝になって太陽を遮る場所が確保できなかったらと考えると、それは悪手だと感じた。

 今は1日中太陽の光が届かない、この薄暗い森の中を捜索すべきだ。


 俺は立ち上がり、歩き始めた。





 森の中を暫く歩いていると、すぐ側の茂みがガサガサ揺れ、何かがゆっくりと這い出てきた。

 青く透明な物体。器に入れて固めたゼリーをそのままひっくり返したような物体。


――スライムだ。


 目と口もない、ただのゼリー状の物体。

 その体の中に何やら石のようなものが浮かんでいる。

 そんなスライムが目の前に現れ、じりじりとこちらに近づいてきた。


■■■


名前:プチゼリー

レベル:1


■■■


 スライム……もといプチゼリーを見ていると、先ほどと同じようにステータスが表示された。

 どうやら自分以外の存在のステータスも確認できるらしい。便利だ。

 

 レベル1。俺と同じレベルだ。

 レベル1同士ということで少し親近感が沸くが、あちらさんはこちらを襲う気満々のようで、その体からにゅるにゅると触手を伸ばしている。ファイティングポーズのように見える。

 しかし遅い。こちらに向かってくる動きもそうだが、触手の動きものろい。欠伸が出てしまうレベルだ。

 流石レベル1ということか。

  

「さて、とりあえず倒すか」


 どう見ても話が通じそうには見えない。ここは戦闘一択だろう。

 しかし今の俺は素手だ。

 素手でも倒せそうな気がするが、あまり触りたくない。触れた相手を溶かすタイプだったらマズイ。火傷に引き続き、体を溶かされるとか幸先が悪すぎだ。

 冷静に、できるだけ慎重に行こう。


 一応試しに吸血鬼としての能力を発動しようとしてみるが……当然の如く何も起きなかった。

 使い魔も呼び出せないし、体を蝙蝠に変えることもできない。

 血で武器を作ることもできなかった。

 この世界に来る前と同じ状態だ。

 この世界の空気は体に合うが、だからといって力が戻ったというわけではないらしい。


「その辺に何かないか?」


 俺はじりじりと迫ってくるスライムから距離を置きつつ、辺りを見渡した。

 するといい具合に手に持てそうな棒切れが落ちていたので拾う。

 握ってみる。それなりに軽く、そこそこ丈夫そうだ。武器として使えるだろう。

 我侭を言わせて貰うなら、丸太の方が良かった。アレは武器にも使えるし、攻城平気としても使える。命綱代わりにも使える万能武器なんだけど……無いものは仕方が無い。


「おっと」


 スライムが2メートルくらいまで接近して、俺に向かって触手を伸ばしてきた。

 が、やっぱり遅い。アイドルの始球式レベルの遅さだ。

 当たってやる義理はないので、かわしながら接近する。

 わざと当たってこの世界のレベル1の魔物の攻撃力がどんなもんか検証することも少しは考えたが、触れた相手を溶かすタイプだったら(以下略

 そのまま接近し、棒切れを振り下ろす。

 

 ベチャリと音を立てて、棒切れが全く抵抗なくゼリーの体に沈み込んだ。

 湖を割るモーゼのようにゼリーの体が割れ、左右に飛び散った。

 

「やったか?」


 無駄にフラグを立てつつ、ジッと観察していると、左右に飛び散ったゼリーの破片が少しずつ中心に戻り始めた。

 再生しているのか?

 中心にあるのは、体の中に浮いていた石だ。その石に向かってゼリーが集まっているようだ。


 直感的にこれが『核』だと思った。

 そのまま核と思われるものを踏み潰す。

 卵を割るくらい簡単に潰れた。

 潰した瞬間、ぷるぷる蠢いていた破片が動かなくなった。

 どうやら死んだらしい。


「ま、レベル1ならこんなもんだろ」


 実にチュートリアル的な強さだ。

 RPGの主人公が街を出て初めて戦う魔物的な強さ。異世界に来て最初に会った魔物がこいつだった俺は相当運がいい。

 運がいいといえば、俺が目を覚ました場所が森の中でよかった。もし草原とか荒野とか太陽が直に当たる場所からスタートだったら、始まった瞬間に俺は焼け死んでいただろう。

 魔物のレベルといい、始まりの場所といい、よく考えると都合が良すぎるような気がする。

 もしかしたら狐のヤツが何か手を加えたのかもしれない。

 

 とにかくこれで大体だが、この世界の『レベル1』の魔物の強さが分かった。

 このゼリーだけで判断するのは早計かもしれないが、こんなもんだと思っていていいだろう。


「ん?」


 突然、ゼリーの死体からキラキラ光る粒子のようなものが発生した。

 それは宙に浮かぶと、一目散に俺へと飛んで来た。

 そして俺の体を包み込む。温かい。嫌な感じはしないし、悪いものじゃない気がする。


 そのまま暫くの間、粒子は俺に纏わりついていた。何となく、俺の体に入ろうとしている、そんな風に見えた。

 だがそう見えただけで実際に体に入ってくることはなく、途方に暮れた様子でそのまま天に登り消滅した。


「……なんだ今のは?」


 何の光だったんだ?

 やっぱり何はともあれ情報が必要だ。

 まだまだ分からないことが多い。

 探索を続けることにした。

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