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異世界に渡った現代吸血鬼の生態~実践編~  作者: タクティカル
第一章 異世界の始まりは闇より深い森の中
17/19

勝利の余韻と帰還

これで1章は終わりです。

ありがとうございました!

「はい、取り合えずこれで止血はできたです。……本当にポーションいらないんです? その……腕は治らないですけど、少しは楽になるですよ」


「いや、遠慮しとくわ」


 アイテム袋からポーションを取り出そうとするミリアを手で制止する。

 あんな物飲んだ日には、三日三晩下痢と嘔吐が止まらないだろう。


 ウッドベアーを倒した俺達ははキャンプ地点から少し離れた場所に新しくキャンプを作り、そこで休んでいた。

 流石に死体とはいえ、ウッドベアーが転がっているすぐ側では落ち着くこともできないからだ。

 キャンプを作ったといっても、俺は手伝っては居ない。

 手伝おうとするも「怪我人は休んでてください!」と涙目で、今は包帯が巻いてある俺の右腕があった場所を見ながら言うので、従わざるをえなかったのだ。


 魔物よけの焚き火を挟み、座る俺とミリア。

 

「じゃあ……説明して欲しいです」


「説明ってなんの?」


「なんのって……色々です! 私、確かに死んだはずなのに、どうして生きているのかその理由とか! あと、レベル2だったハイガさんがどうやってウッドベアーを倒したのとか、あとえっとえっと――とにかく色々です! もう、色々聞きたいことがあって、私の頭ぐちゃぐちゃですよ! もうっ」


「何で怒ってるの?」


 さて、どうやって答えたものか。

 ウッドベアーを倒した方法については、俺達2人のチームワークプレイだと言えるけど「2人の友情パワーだぜ!」と言ったところで、納得はしないだろうな。

 ミリアの質問に答えるのは難しい。

 何よりもミリア自身に起こった変化について伝えなければならないからだ。

 できることなら時間を置いて、ゆっくりと伝えたいと思っていた。

 

「……教えてくださいハイガさん」


 ジッとこちらを見つめるミリア。

 時間を置いて……何て言い出せる雰囲気じゃない、か。

 仕方がない。


 ミリアの疑問を全て氷解させるために、俺は自分の正体を明かすことにした。


 俺は座り心地の悪い石から、地べたに移動する。


「まず最初に言っておくけど……今から俺が話すことは真実だ。とても信じられないとは思うけど」


「大丈夫です。ハイガさんの言葉なら絶対に信じるです」


 闇の中で光る蒼と金のオッドアイから信頼を感じる。

 随分と信頼されてるな俺。

 夢を肯定し、命を助けたことで相当な信頼を得たらしい。

 

 純粋な信頼の眼を向けられながら、俺はゆっくりと口を開いた。


「俺は――吸血鬼だ」


 その言葉を発してから「ああ、言ってしまった」そんな後悔が押し寄せてきた。

 ミリアの反応はどんなものだろうか。

 俺が吸血鬼だと知って恐怖されるだろうか。それとも吸血鬼なんて存在しないと俺の存在を否定されるだろうか。

 今までの人生で何度か自分が人外であることを告白したことはあるが、あまりいい結果になったことがない。 

 ミリアはどちらだろうか。


「ハイガさんが……吸血鬼?」


「そうだ」


「きゅうけつき……ですか」


 ミリアは初めて聞いた言葉を舌の上で転がすように、吸血鬼という言葉を繰り返した。


 おかしいな。思っていた反応と違うぞ。

 最悪、化物扱いされて剣を向けられるのも覚悟してたんだけど。


「ミリア? もう一回言うけど、俺――吸血鬼なんだよ」


「はいです。ハイガさんは吸血鬼。それがどうしたです?」


 どうも「ハイガさんが吸血鬼だろうと、私の知ってるハイガさんに代わりません」的な感動する類の台詞ではなく、本当に吸血鬼という言葉を理解していないようだ。

 これはもしかすると……そういうことなのか?


「あの、もしかしてだけど……吸血鬼知らない?」


「はい。その吸血鬼というのはなんです? ――あ、も、もしかしてですけど! わ、私あまり詳しくないですけど、貴族の爵位だったりするんです!? わ、私何も知らなくて……田舎物でごめんなさい」


「いや違うんだ、そうじゃない」


「貴族じゃないです? じゃ、じゃあもしかして――王族の人です!?」


 放っておいたら勝手に勘違いして王家の血筋にされてしまいそうだ。

 どうやら、本当に吸血鬼という存在を知らないらしい。

 ありえなくは……ないのか?

 ここは異世界だ。俺が元いた世界と常識が違う。

 俺の世界にプチゼリーみたいな存在がいなかったように、この世界には吸血鬼という存在そのものがいないのかもしれない。


 その後、俺の世界に存在した怪物や妖怪の名前やその特徴を出してみたが、全く存在していなかったり、名前は違うがそれらしい特徴を持つ魔物が存在したり、それらしい存在が御伽噺の中で語られていたり……とそんな具合だった。

 吸血鬼の特徴である『血を吸う怪物』は存在するのか尋ねて見ると


「血を吸う……ですか? それだったらチュパカブラって魔物がいるですけど」


 と言われた。

 チュパカブラ存在してんのかよ!

 吸血鬼がいなくてチュパカブラはいるとか、どういう世界なんだよ……。


 ともかくこの世界に吸血鬼という存在はいないらしい。

 だとすると説明が面倒なことになるな。


 とりあえず自分が人間ではないことを教えることにする。


 俺は口を開いて、唇を捲った。ミリアに牙を見せる。


「あっ、牙です!? そ、それ本物……です?」


「触って確かめるか?」


「は、はい……」


 ミリアが恐る恐る手を伸ばし、俺の牙に触れた。

 細い指が4本の牙を1本ずつ撫でて行く。

 これがミリアの初めて(の吸血)を奪った牙だよ……そう囁きたいが、今この状況だと変態以外のなにものでもないので自重した。

 ミリアの指が離れる。


「本物の牙です……。えっと、つまりハイガさんは……獣人ということです? それにしては耳も尻尾もないですし……」


「いや、そういうことではなく……もうそれでいいや」


 何だか面倒くさくなってきた。自分がこの世界に存在しない吸血鬼という存在だというのを説明するのは難しい。

 もう獣人だか何だか知らないが、それでいいや。とにかく人間じゃないことを分かってもらえばいい。

 本番はここからだ。


「で、だ。俺はその吸血鬼なんだが……種族の特性で、非常に治癒力が高い。簡単な怪我ならすぐに治る」


「え? そうなんです?」


 実際見せる方が早い。


「そうだ。それを証拠に――はい、ここに先ほどウッドベアーの口から引っ張り出した俺の右腕があります」


「わぁ!? な、なんで持ってきてるです!? 気持ち悪いからどっかやって下さい!」


「酷いこと言うなよ……」


 確かに左腕でちぎれた右腕をプラプラさせてたら気持ち悪いかもしれない。

 だがそれでも捨てろって言うのは酷くないだろうか。

 俺は一旦右腕を地面に置き、俺の体に残った肘までしかない右腕の包帯を外した。

 

「い、一体何をするつもりなんです……?」


「まあ見てろって」


 食いちぎられた右腕の断面同士を合わせる。

 10秒ほど待ち、手を離した。

 ボトリと右腕が地面に落ちる。ミリアが小さく悲鳴をあげた。

 もう1度断面同士を合わせる。今度は30秒ほど合わせてから手を離す。


 ――よし、くっついた。


「ほら。しっかりくっついてるだろ? 手も動く」


「……あ……え……?」


「どうしたミリア?」


「あ、ありえないですっ! ち、ちぎれた腕がくっつくなんて、そんなの見たことないです!」


「だけど実際にくっついてるだろ?」


 さっきまで切断されていた手をニギニギ動かす。ミリアに向かってピース。

 ミリアは信じられないものを見る目で、俺の手の動きを見ていた。

 かなり驚かせてしまったようだ。だけど言葉で説明するより、こうやって見せた方が分かりやすい。

 しかし手をくっつけただけでこの驚きよう。他にミリアの血を吸って、無くなった腕を生やす方法も考えていたけど……そっちをしなくて正解だったようだ。


 ミリアは手品のトリックを暴こうとする観客のように、俺の手をペタペタ触り、なぞり、軽き叩き……納得した。


「う、うぅ……信じられませんけど、目の前で動いてる手を見た以上、信じざるをえません。ハイガさんはちょっとドン引きするほど治癒力が高い……それは分かったです。吸血鬼がそういう種族だってことも」


「分かってもらえてよかった。で、俺が吸血鬼である事と、ミリアが死に掛けていた状態から復活したのは関係がある」


「関係……です?」


 ここからは丁寧に説明しなければ、ミリアの誤解を生んでしまう。

 俺はミリアが死にかけていたこと。死の間際の生きることを望んだことを説明した。

 ミリアは自分が生きたいと願ったことをぼんやりとだが覚えているらしい。

 ミリアは俺と契約し、半分だが人間を捨て、半分俺と同じ吸血鬼になったこと、その治癒力を使って生還したことを説明した。


「いきなりそんなこと言われても……」


 当然だがミリアは困惑した表情だった。

 そりゃ「お前は既に人間じゃない」って言われて「オッケーだよー」みたいに受け入れる能天気な人間はいないだろう。

 ここはやはり、俺がしたのと同じように実際に見てもらうしかないだろう。


 半吸血鬼であるミリアに牙はない。

 他に見た目で分かる方法は……ああ、そうだ。


「ミリア、手鏡は持ってるか?」


「え? ああ、はい。持ってるですけど……」


「それで自分の顔を見てくれ」


 瞳だ。右目が本来の色である蒼から吸血鬼が持つ瞳である金色に変化している。

 自分の瞳の色が変わっていたら、人間ではなくなったと受け入れることができるだろう。


 ミリアは不思議な表情でアイテム袋から手鏡を取り出し、顔の前に翳した。


「これで一体何が――」


 ミリアの言葉が途切れた。

 驚いた顔で鏡を見つめている。

 どうやら瞳の色が変わっていることに気づいたようだ。


「あ、あの……あのっ、ハイガさん!」


「落ち着けミリア」


「で、でも! わ、私――鏡に映ってないんですけど!?」


 ん? ああ、そうか。ミリアは鏡に映らないタイプか。

 吸血鬼である俺はその種族の特性で鏡に映らないが、眷属となった半吸血鬼は必ずしもそうとは限らない。

 半吸血鬼は吸血鬼として全ての特性を持っているわけではなく、いくつかの特性が引き継がれるだけなのだ。

 ミリアは鏡に映らない特性を受け継いだらしい。


「え、ええっ!? な、なんで!? どういうことなんです!?」


 色々な角度に鏡を傾け、何度も自分の顔を確認するミリアに、できるだけ丁寧かつ穏やかに説明した。

 鏡に映らなくなったのは吸血鬼の特徴だと。

 映らないだけで別に大した害は無い。

 初潮を迎えた娘に誰にでも起こる変化だと伝える母親のように、優しく説明した。自分で例えておいてなんだが、酷い例えだな。

 とにかくミリアを興奮させないように、言葉を選んで丁寧に説明した。


 俺の説明を聞いたミリアは、徐々にだが落ち着き、そして自分が人間じゃなくなったことを受け入れてくれた。


「本当に……ハイガさんの言う通り、私、人間じゃなくなったんですね」


「なんかごめんな。殆ど詳しい説明もせずに勝手に人間止めさせて」 


「あ、謝らないで下さい! ハイガさんは私の命を助けてくれたんですよね? その……人間じゃなくなっちゃって、ちょっとびっくりしたですけど……でも、不思議と嫌な感じじゃないので……とにかく謝らないで下さい!」


 ミリアは思いのほか落ち着いている。

 今のところ鏡に映らないくらいで、外見的な変化もないからだろう。

 だがこれから嫌でも自分の変化を知ることになる。その時は俺が責任を持ってフォローをしなきゃならないな。


 吸血鬼化によって起こる変化については後々説明しておくとして……取り合えず早急に言っておかなければならないことがある。

 ミリアの命にも関わる話だ。


「さっきも説明した通り、ミリアは人間じゃなくなった。俺と契約して眷属になった」


「眷属です? 契約って……その、奴隷みたいなものです?」


「……遠いような近いような。でも言葉にするとそうだな。奴隷、みたいなものになるのかな。いや、奴隷と言っても俺の命令に絶対服従とか、そういうことはないし……ソフト奴隷。そう、ソフト奴隷的な? そういう感じだと思ってくれたらいい」


「ソ、ソフト奴隷って……。でも、いいです。ハイガさんは命を助けてくれたんですし、ソフト奴隷でも何にでもなるです」


 ミリアの顔に嫌悪や拒否感といった感情は浮かんでいない。

 よかった。『貴様の奴隷になるくらいなら……死を選ぶっ』的な女騎士発言されたらどうしようかと思ったけど……その心配はないらしい。

 ミリアが物分りのいい子で助かった。


 さて、ここからがメインの話だ。


「で、眷属になったミリアは、主人である俺から与えられるある物を体に取り入れなきゃいけないんだ。1日1回必ずな」


 ある物とは勿論――血だ。


「1日1回……ハイガさんの物を取り入れる、です? ある物、取り入れる……? ――えぇ!? そ、それってつまり……そういうことなんです!?」


 ミリアが顔を真っ赤にして言った。俺は頷くことで肯定した。

 

「いや、だってそんな……えぇー!? それ本当なんです!? 本当の本当に本当なんです!? そ、そんなの村の男の子達がこっそり集まって読んでたエッチな本みたいな展開じゃないですか!? つまりセ――んんっ、あ、アレなことをするってことです!? 本当なんです!?」


「本当だ」


 ていうか村の男の子が集まって読んでたエッチな本ってなんだ? 

 異世界では吸血鬼物のエロ本でも流行ってるのか? でも吸血鬼いないんだよな。

 まあ俺のレーダーがビンビン反応するそのエロ本については、後々サーチするとして。


「何度も言うが本当だ。嘘じゃない」


「そ、その、しないと……どうなるんです?」


「体が溶けて死ぬ」


「体が溶けて死ぬんです!?」


 ミリアはショックを受けたように仰け反った。

 そりゃ1日1回俺の血を体に取り込まないと死ぬなんて言われたらショックだろう。

 だがこればっかりは、じゃあ止めとくか、なんていうわけにはいかない。

 本当に1日1度俺から血を受け取らなければ、ミリアは死ぬのだ。こればっかりは眷属になった以上、抗えない摂理だ。


 ミリアは耳まで顔を真っ赤にして、俯いた。

 しかし真っ青にするなら分かるけど、何で顔を赤くするんだ? まるで恥ずかしがってるみたいだ。


 流石に受け入れがたいのか、ゆっくりと顔を上げ、真っ赤な顔に涙目で懇願するように口を開く。


「で、でもいきなり過ぎますし……そ、そういうのはもっとこうお互い仲良くなってゆっくり順を踏んでですね」


「そんな時間ないんだけど」


 さっきミリアに時計を見せてもらったが、日が変わるまで3時間もない。

 それまでに俺の血を取り込まなければ、ミリアはグズグズに溶けて死ぬ。


「だ、だってっ、私、男の人と手を繋いだこともないんですよっ!?」


「手なら昨日繋いだだろ」


「そうでした!」


 昨日、記憶喪失であると語った俺を勇気付けるように、ミリアの方から手を握ってきたはずだ。


「じゃあ抱っこ! 抱っこです! お、お姫様抱っこも経験しないで、そういうことするのはイヤですっ」


「それもした。気絶したミリアを運んでウッドベアーから逃げるときに」


「嘘ですーっ!?」


 本当だ。

 ミリアは口を震わせながら「じゃあ」と言葉を繰り返す。


「そ、それじゃあ! ……そ、その……キスとか。キスもしてないのに……色々すっ飛ばしてアレなんてできないですっ」


「すまん、ミリアが死に掛けてる時にポーション口移しで飲ませたからその時に……」


「いつの間にか階段を上り詰めてたです!?」


「何度も言うけど……すまんな」


 気絶していたとはいえ、女の子の大切なものまで奪ってしまったのは申し訳ないと思う。

 だけど、血を飲むこととそのことは今関係があるのだろうか。分からん。


「うー……でも、こんな急に……。初めては好きな人と……いえ、確かにちょっと運命的なものを感じてましたし、命を助けられたって分かって顔見てるだけでドキドキしてますし……好きか嫌いで言えば普通に好きですけど……でもでもっ、まだ会ったばっかりなんですよっ!? いくら運命を感じてもいきなりそういうことは……わ、私この間成人したばっかりなのに……でもこういうのに出会った時間は関係ないって、エレナさんも言ってたし……少しでも運命を感じたら絶対に逃がすなって……うぅー……」


 ブツブツと呟きながら地面に埋まるんじゃないかと思うほど、どんどんと俯いていくミリア。

 暫く……5分ほど、もにょもにょ呟いていたミリアだが、ゆっくりと顔を上げた。


 その表情は未だ赤いままだが、先ほどまでの翻弄され混乱の只中にあった少女のものではなく、覚悟を決めた真剣な表情であった。


「……ハイガさん。……わ、私のこと大切にしてくれるです?」


「ああ、大切にする」


「本当にほんとーに、世界中の誰よりも……大切にしてくれるですか?」


「大切にするよ」


 何てったって異世界に来て初めてできた眷属だ。

 眷属とは家族みたいなもの。俺とミリアは同じ血を共有した家族だ。

 下手をすれば普通の家族よりもその結びつきは強固だ。


「ずっと……一緒にいてくれるです?」


「ああ、ずっと一緒だ」


「ずっと……す、健やかなる時も病める時もずっとずっと一緒にいてくれるですか?」


「吸血鬼は病気にならないぞ?」


「そういうのはいいですからっ! どうなんです!? ……誓ってくれるんですか?」


 何か結婚の誓いみたいだな……。

 まあ、いいか。一緒にいることには変わらない。

 眷属にした以上、ミリアが最後の瞬間を迎えるまで責任を持つ覚悟はできている。

 眷属を作るというのはそういうことだ。


「ああ、誓うよ。ずっと側にいる。この身が朽ちるその時までミリアの側に居る。この身に流れる血に誓って」


「……はぅ。あ、あの……今の台詞……もいっかい」


「え? ああ、いいけど。――ずっと側にいる。この身が朽ちるその時までミリアの側に居る。この身に流れる血に誓って」


「――っ」


 俺の誓いを受けたミリアは、何かに心臓を射られたかのように自分の心臓辺りをグッと押さえた。

 熱に浮かされ揺れる瞳が、俺を貫く。


「だ、だったら……その……よろしくお願い……します。あの、不束者ですけど……が、頑張るです」


 ミリアは口を震わせながら、そう言った。

 俺は笑顔で頷き、ミリアに手を差し出した。ミリアが俺を上目遣いで見て、ゆっくりと手を握った。

 昨日よりも若干冷たくなったミリアの体温が伝わる。


「あ、あの……呼び方なんですけど、だ、旦那様とか……あなたとか……呼んだ方がいいです?」


「いや、今まで通りでいいけど」


 主人マスターって呼んでもらいたいって気持ちもあるけど、流石に眷属になったばっかりでそういう呼び方は強要できない。

 まあ、いずれ……な。

 

「……村のお父さん、お母さん。ミリアは2人が考えているよりずっと早く……大人になるです」


 よし、ミリアも納得してくれたな。

 よかった。これで懸念事項の一つが片付いた。

 さて、では早速。


 俺は握っていたミリアの手をもっと強く握った。

 惚けた顔のミリアの口から「あっ……」と小さな声が聞こえた。

 俺はミリアの瞳をジッと見つめて、その耳にそっと囁いた。


「じゃあ、直に日が変わるだろうしその前に……するか?」


「しないですよ!? ロマンティックさの欠片もないお誘いですね!? だ、大体、は、初めてがこんな森の中なんて絶対に嫌です! これだけは絶対に譲れないですから!」


「えぇー……だったらどこならいいんだよ」


「そ、それは……私の部屋で! 今から帰れば日が変わるまでに着きますから!」


 ただ血を吸うだけなんだから、すぐに終わるしどこでもいいんだけど……。

 そう主張しようとするも、ミリアは既に立ち上がり撤収準備を始めていた。


「さあ行くですよハイガさん!」

 

 そういうわけで、ウッドベアーとの死闘で疲れきった体を無理やり動かし、殆ど走るような勢いで村を目指すことになった。


 こうして長いようで短かった常闇の森での冒険は終わった。



 


 


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