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異世界に渡った現代吸血鬼の生態~実践編~  作者: タクティカル
第一章 異世界の始まりは闇より深い森の中
11/19

初めての野外プレイ

タイトル通りです。

 ミリアの悩みを聞いた後、些細な雑談は続いた。

 暗い森を明るく照らす焚き火挟み、とりとめないことを話す。

 話すといっても俺は記憶喪失(という設定)だから、もっぱらミリアの話を聞いてそれに対して相槌を打ったり質問を挟んだりするだけなのだが。

 ミリアから最初にあった初対面の人間特有の壁は取り払われ、彼女の話し方は少しずつ親しいものに対するそれに変わっていた。

 表情も若干作っていた物から、自然なものに変わってきた。

 

「ふーん。記憶が無いってことは、やっぱり自分の年齢も分からないんです?」


「そうだな。でもお爺ちゃんって言われるくらいだから、80くらい行ってるかもな」


「も、もう……! それは謝ったじゃないですか!」


 謝られてもショックなものはショックなのだ。

 これでも心はピチピチのナウなヤングでゴーゴーなのだ。 

 夢だってちゃんとある。


「ミリアも立派な夢を持ってるだろうけど、俺も負けてないぞ?」


「そうなんです? 是非聞かせてもらいたいです! ……あれ? でも――」


 ミリアが不思議そうな顔で首を傾げるが、今は俺の夢の話だ。

 俺にとって1度は叶った輝かしい夢。

 1度味わったからこそ、あの麻薬染みた快楽の日々が忘れられない。

 そう、夢。俺にとっての幸せな夢――


「ハーレ――あ……いや……げふんげふん」


「ハーレ? ハーレ……なんです?」


 俺の言葉が途中で中断されたからか、ミリアが小首を傾げた。


 いかんいかん。

 若い少女が持つ眩しい夢の光を間近で見たせいか、うっかり口が滑ってしまうところだった。

 思春期の少女相手に夢がハーレムなんて語った日には……せっかく温まったこの雰囲気も瞬く間に氷河期入りだ。

 危ない危ない。


 じっとり冷や汗をかく俺から視線を離さず、ミリアは焚き火に薪を投げ込んだ。


「はーれ? ハイガさん、はーれ……なんです? 気になるです」


「いや、その……ハーレ――ハーレーダビットソンが似合う、ダンディなオジサマになりたいなぁ……と」


 苦し紛れに出た俺の言葉は本当に苦しかった。

 もしかしたらこの世界にハーレダビットソンがあるかもしれないと一縷の望みに賭けた訳だが、ミリアの表情を見る限りハーレーダビットソンは存在しないらしい。

 

「ごめんなさい。ちょっとよく分からないです。そもそも……記憶喪失なのに、夢は覚えてるんです?」


「えっ。あっ、うん。何かこう……それくらい大切な夢みたいで」


「そうですか! 記憶喪失になっても心に刻み込まれてるその夢、とても大切な夢なんですね! で、そのハーレーなんとかは――」


「待って今のなし! ハーレなんとかは忘れてくれ! ほ、本当はアレだ。えっと……そう。俺の夢は、色んな所を旅して、その土地にいる色んな人に会いたい――それが俺の夢なんだ」


 嘘は言っていない。

 色んな所を旅して、色んなハーレムメンバーに会いたい。間違ってはいないぞ。間違ったことは言っていない。


 俺の言葉にミリアはパッと笑顔を浮かべた。

 何かを思いついたかのような表情だ。


「だったら! ハイガさんも冒険者になったらどうです?」


「冒険者?」


「です! 冒険者になれば必然的に色んな地域に行くことになります。そこで色んな人に出会えるです。ハイガさんの夢を叶えるのに丁度いい職業です! それに冒険者になれば他の冒険者との交流もできるです。色んな場所に行ってる冒険者の人なら、ハイガさんのことを知ってる人もいるかもしれないですよ?」


 名案とばかりに手を打つミリア。

 冒険者……か。そうだな。

 せっかく異世界に来たんだから、元の世界には無い職業もいいだろう。

 この世界にまで来て日雇いのバイトをする必要もないしな。

 生まれて云百年、とうとう俺もまともな仕事に就くときが来たってわけか。何だか感慨深い。


「そうしようかな」


「そうですっ。冒険者ギルドに行けば冒険者の登録ができるです。記憶喪失ってことで、色々面倒があるかもしれないですけど、私が一緒に行くので、その辺りは何とかなるです」


「そう? じゃあ頼むよ」


「はいですっ」


 任せとけとばかりに笑顔を浮かべるミリア。


 確かに記憶喪失の設定で冒険者ギルドに登録するのは面倒がありそうだ。多分、ある程度の素性は求められるだろうし。

 ミリアにどんな考えがあるか分からないが、ここは素直に任せるとしよう。


「じゃあ今から村へ――と言いたいところなんですけど。今受けてる依頼『ウッドベアーの討伐』期限がもうすぐなので……そっちを片付けてからでもいいです?」


「そりゃ勿論。……ていうか大丈夫なのか? その依頼、1人じゃ難しいんだろ?」


「んー……ですけど、今なら大丈夫だと思うです。胸のつっかかりが取れて、迷いもなくなったので」


 ミリアは俺の顔を見て笑いながら言った。

 別に強がりでもなんでもないようだ。

 その眼に自暴自棄の色はない。多少の不安は感じられるが、それを打ち消すほどのやる気に満ちていた。


「そうか。だったらいいけど。……まあ、俺も力になれるか分からないけど、手伝うよ」


「え? 一緒に来るんです?」


「どれだけ強いか分からないけど、囮くらいにはなるだろ?」


 ウッドベアーの強さがどれほどかは分からない。

 だが、1人で挑むよりは2人の方が戦術の幅が広がるだろう。


 しかしウッドベアーか……。

 名前だけ聞くと、お土産屋さんに置いてる木彫りの熊を想像してしまうな。あの鮭咥えてるやつ。

 あんな可愛らしい魔物なら、是非倒してコレクションでもしたいものだ。


 そういえばミリアの強さはどんなもんだろうか。

 ミリアのステータスを確認してみる。


■■■


名前:ミリア・オーレント

レベル:8

職業:剣士

スキル:《気配遮断》《クイックスラッシュ》《ヘビーストライク》《トライスマッシュ》


■■■


 レベル8なのか。

 1年冒険者をしていて、このレベルは高いのか低いのか……正直分からない。

 ステータスの数値も特に際立ったものはない。


 気になるのはスキルだ。

 スキルが4つある。剣士のスキルだろうか。

 俺は一つもないんだけど……やっぱり無職だからか? それともレベルが低いから? レベルが上がったら覚えるのかな? 職業無職のレベルが上がったら何を覚えるんだ?

 《床ドン》とか《すねかじり》とか? 碌なもんじゃねーな。


「ハイガさんは……レベル2ですか。そう、ですね。直接戦うのは自殺行為ですけど、離れた場所にいてくれたらそれだけで相手の気を散らせますし……」


 いつの間に確認したのか、ミリアは俺のステータスを確認しつつ腕を組みうーんと考え込んでいる。

 俺を危険な目に合わせるのを避けたいのか。自分の勝率をほんの少しでも上げるのか。揺れているようだ。


 俺はミリアを安心させる為に笑顔を浮かべた。


「大丈夫だって。いざとなったらすぐに逃げる。ウッドベアーには決して近づかない。あくまで気を散らせる程度で絶対に手を出さない。問題ないだろ?」


「……ん、そうですね。だったらいいです。あ、でも分かっているとは思うですけど、ハイガさんは年上でも、冒険者としては私の方が先輩です。私の指示にはしっかり従って下さいね?」


「おーけー先輩」


「……えへへ」


 俺が敬礼するとミリアは照れくさそうに微笑んだ。冒険者になって1年、初めて後輩ができたから、らしい。


 簡単に明日の予定を立てたところで、ミリアが食器の片付けを始めた。

 その間、やることのない俺は寝床の準備をする。

 といっても横になる場所の石をどけて、毛布を広げただけだが。

 そうしていると、背後から何かを取り落とす小さな音が聞こえた。

 次いでミリアの声。


「……いたっ」


 ミリアの声に振り返ると、調理の際に使った包丁で手を切ったのか、人差し指から血が出ていた。

 点々と、血の雫が地面に吸い込まれていく。


「……」


 そんな血を見て、思わず喉が鳴ってしまう。

 先ほど食事をしたばかりなのに、涎が毀れそうになる。

 普通の食事ともう一つの食事――血の摂取は別物だ。

 OLが『スイーツは別腹』と言うように、俺にとって『血は別腹』だ。

 いくら飯を食べて腹を膨らませようとも、血を見ると別の飢えを感じる。


 地面に吸い込まれていく血を見て素直に「もったいない」と思った。

 新鮮な血液を取り込んでいく地面にすら嫉妬の感情を抱いてしまう。


 ふらふらと近づいていくそうになる体を自制心で引き止める。

 せっかく小さいながらも信頼関係を築けたのに、ぶち壊してはいけない。

 いきなり襲いかかって血を吸うようものなら、まず間違いなく軽蔑される。

 落ち着け俺。


 大丈夫、血の摂取自体はさっき輸血パックでしたばっかりだ。

 ここで無理して吸わなくても、体に不調は起きない。


 ――だけど、アレは生の血だ。


 輸血パックとは比べ物にならないほど、美味いはず。芳醇で濃厚な香りがこの距離でも感じ取れる。

 久しぶりの生の血はさぞ美味いはず。それこそ涙を流し絶頂にすら至るほど。

 その味を想像するだけでもトリップしてしまいそうになる。

 ……だから落ち着けって。

 

「いたた……やっちゃったです。……はむっ」


「っ!?」


 血の滲んだ人差し指をミリアが口に含んだ。

 俺のだぞ!そう叫んで奪い返したい衝動に駆られる。

 そんな衝動を歯が砕けるほど噛み締めて、何とかこらえる。

 今にも立ち上がりそうな膝の皿を 割れるくらい思い切り強く握り締めた。


 それでも衝動が収まらないので、仕方なくメインウェポンである棒切れを自身の頭に叩きつけた。

 ゴンという鈍い音と共に激痛が走る。


「え!? ハ、ハイガさん一体なにを……?」


「いやいや気にしないでくれ。ちょっと蚊が額に止まって」


「そ、そうですか」


 頭に残る鈍い痛み。

 だがこれで何とか理性を取り戻した。

 これで大丈夫だ。

 ミリアが心配そうな目でこちらを見てくる。

 大丈夫だよミリア。俺はこれからも頑張っていくから。


 そうだよ吸血ってのは尊い行為なんだ。例えるなら命を育む行為、人間でいう子作りと同じようなものだ。

 理性を放棄して衝動に任せて血を吸うのはただのレイプだ。

 

 俺は誇りある吸血鬼。

 吸血をする時はちゃんとそれなりの場を整えて行わなければならない。

 吸う相手に敬意を持って、礼儀を正しつつ及ばなければならない。

 敬意の伴わない吸血は犯罪と同じだ。有名人の言葉を借りるなら『コン○ームをつけない男は、挨拶のできないのと一緒』そういうことだ。


 だからどれだけ新鮮な血がご無沙汰だろうが、そんな新鮮な血が目の前で晒されていようが、我慢だ。

 今は我慢の時。いつかその時が美味っくる。それはそう遠くない美味っはずだ。

 美味っ今日は大人しく美味っ眠って美味っ明日美味っに備えて美味っ寝るべき……さっきからなんだ?

 思考にノイズが走る。


 ていうか――何だこれ美味っ! 口の中に考えられないほどの凄まじい旨味が広がっている。

 頭を突き抜ける美味さに目がチカチカする。

 味がもたらすあまりの快感に頭が溶けてしまいそうだ。

 口の中に広がる味を逃さないようにと、大量の唾液が出てくる。

 少しでも味を深く感じようと、舌がいつにもなく敏感になっている。

 全身の細胞がこの味を求めようと脈動しているのを感じる。


 俺は完全にトリップしていた。


「あ、あの……ハイガ……さん?」


「んむ?」


「ひゃんっ。え、えっと……その……私の……指」


 指?

 ていうかミリアの声が近い。

 さっきまで焚き火を挟んだ距離にいたはずなのに、何故か今は目の前にいる。

 尻餅をついたミリアが目の前にいて、その手が俺に向かって伸ばされている。

 そして手の先、指が――俺の口に。


「ふぁ、ふぁんだとっ?」


「んっ! 口に指を入れたまま喋られるとくすぐったい……ですっ」


 状況確認をしよう。

 今、俺はミリアが切った指を口に咥えている。

 そういうことらしい。

 どうやら無意識にミリアを押し倒して、その指を口に入れた、と。

 包丁で切ったミリアの指を口に入れ、その血を味わっている、と。


 ……犯罪やないですかハイガさん。


 俺は久しぶりの生の血――それも間違いなく処女の血を吸った高揚感に身を晒しつつ、ミリアが悲鳴をあげてポリス的なものを召喚する恐怖に身を竦めた。

 が、一向にミリアがポリス的な物を召喚する気配は無い。


「えっと……ハイガさん? その……ありがとう、ございます」


「ふぁ?」


「……んっ。あの、私が手を切っちゃったから、舐めて治してくれてるんですよね?」


 どうやら通報はされない雰囲気だ。

 俺は慌てて頷いた。

 何度も頷いたことで、口の中で指が動きミリアがくすぐったそうな声をあげた。

 

「昔お母さんにも同じことをされたから……。で、でも傷を治す行為とはいえ、お、男の人に指を舐められるのは、恥ずかしくて……で、できたらそろそろ離してもらいたいなぁ……とそう思うんですけど、どうでしょうか?」


 ミリアは顔を真っ赤にしながら、途切れがちに言葉を紡いだ。

 医療行為という名を盾にもっと舐め……もとい血を頂きたかったが、これ以上はマズイ。

 名残惜しいが、ゆっくりと指から口を離した。

 ちゅぽんと音を立てて指が抜けた。てらてらと光っているのは、俺の唾液かそれともミリアが自分の口に入れたときの唾液か。その両方か。

 

「う、うう……」


 ミリアが羞恥を堪えるかのように、手を押さえながら顔を伏せた。

 

「……」


「……」


 2人の間を何ともいえない雰囲気が漂う。

 き、気まずい……自分でやっておいて何だかやっちゃった感がある。

 ミリアが「もうっ、ハイガさんの変態!」って感じでバチコーンとやってくれたら、それで丸く収まるのだが、恥ずかしさでそれどころではないらしい。

 暫く、その何ともいえない空気が続いた。

 流石にその空気に耐えられなくなった俺は口を開く。


「えっと……ミリア」


「は、はいっ?」


「そろそろ……休む?」


「そ、そうですね!」


 半ばお互い誤魔化すように、勢いのまま就寝することにした。

 焚き火を挟み敷いた毛布に寝転がる。

 そのまま眠ろうとするが、眠れない。

 

「ミリア?」


「は、はひっ!? な、なんですかっ!?」


「いや、トイレに行きたいんだけど……」


「あ、はいっ。向こうに穴を掘ってるので!」


 何ともいえない微妙な空気から逃げ出すように指示された方へ向かった。

 ミリアの言う通り、穴が掘ってありその上に木の板が被せられていた。


 用を済ましてから、何となくステータスを確認する。



■■■


名前:ハイガ

レベル:3


■■■


 レベルが上がっていた。

 このタイミングで上がっていた。


 俺の脳裏にあった1つの仮説が実現味を帯びてきた。


 先ほどミリアと話したときに、レベルについても尋ねてみた。

 ミリアの返答は「魔物を倒せばレベルは上がる」という至極簡単なものだった。

 正確には魔物を倒したときに生じる光――魔魂を体に吸収することでレベルが上がる――というものだった。


 だが俺はいくら魔物を倒してもレベルが上がっていない。そしてあの光――魔魂の吸収もされない。俺を受け付けないかのように魔魂は消失してしまう。

 そして代わりにある行為をした後に上がっているレベル。


 どうやらそういうことらしい。


 俺は血を吸うことでレベルが上がるらしい。

 


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