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ヒーローがいっぱい!  作者: minmin
2/3

unkownのスーパー惣菜晩酌

 なんとお気に入り登録、5点評価をしてくれた方がいて感謝感激雨あられです。というわけで相変わらず短めですが第2話になります。


 ……表2、じゃなくて3か。こんな単純なミスしちゃってどうする。


 後頭部をガシガシと掻きながら二重線で訂正を入れる。


「えーと。

 表3に示す結果と、図2に示すグラフの直線性により、クロック周波数とCPUの処理速度は比例関係にあると推測できる、と。

 ……やっと終わった」


 そのままぐでーっと机に突っ伏する。大学に入ってから一番疲れたかもしれない。


「お疲れー」


 隣に座る上杉がキーボードをがちゃちゃやりながら俺を横目でちらりと見て声を掛けてくる。


「……なんでたかがオーバークロックの実験でデスクトップPCを分解する必要があるんだよ。おまけにそれをネジの締め方、向きまで図付きで解説しろ?しかも全部ボールペンで手書き?無意味にもほどがあるだろ!?」


 ここは自習室だぞ静かにしろ、と上杉に頭をはたかれる。ちょっと痛い。


「まあ、今年は実験レポート全部ボールペンで手書きしろって学科長が決めちゃったからなあ。ここ1,2年レポートのコピペが酷かったんだと。

 ああ哀しき哉ゆとり世代ってやつだ」


 またそれだ。なんでもかんでも、ゆとりと一括りにするのにはうんざりする。


「ちくしょー……Latex使えたらまだ楽なのに」


 俺の『能力』を使えば、なおさら。


「ワープロソフト使うとコピペが簡単にできちまうから手書きなんだろ?」


 俺の愚痴はばっさり切り捨てられた。実にごもっともだ。


「ところでお前は何やってんの?」


 ひょいっととなりの机を覗きこむ。PCとマイコン、プロペラが付いたモーターがそれぞれ有線で繋がれていた。


「スイッチを入れるとモーターが動き出して、少しずつ回転速度が上がるんだよ。で、設定した最高値になったら一度止まって最初から繰り返す。

 ……はずなんだが」


 そう言って上杉がプログラムを流し、スイッチを入れる。

 すると、確かにモーターが動き出した。およそ1秒毎に止まるカクカクとした動きで。一体どういうプログラムを組めばこうなるのか。

「おっかしいよなあ。

 どこか間違ってても、こんな動きするようなプログラム組んだ覚えないんだよな」


 おい、それって。


「ちょっと見せてみ」


「あ、おい。村上?」


 戸惑う上杉を押しのけて席に座る。画面をスクロールしてプログラムをざっとチェックしてでた結論は――。


「上杉」


「うん?なんかバグあった?」


 嬉しそうに俺の顔を見る上杉。


「ない」


「え?」


「多分これ、モーターが壊れてるだけだ」




 俺の2時間はなんだったんだ、と泣きながら教官室に向かった上杉を見送り、再び自分の机に突っ伏する。

 しばらくそうしていた後のろのろと顔だけ上げ――クロームのアイコンに意識を集中させる。一瞬の後、俺の意識は0と1の集合に変換された。




 膨大な情報量。雄大な電子の海を自由自在に泳ぐ。今日も3ちゃんねるは賑わっていた。

 インターネットは広大だ。様々な情報が行き交う。英数字だけで構成された無機質な情報も、個人の主観が多分に含まれた情報も。

 その中には膨大な悪意もある。大抵は匿名故の無責任な軽い悪意だが、中には見過ごせないものだってあるのだ。

 それは何かの犯行予告であったり、脅迫だったり。ネット特有の詐欺だったり、ストーカーが引っ越しをした相手の個人情報を特定しようとする書き込みもだったりもする。

 そういうネット上の悪意を1つ1つ削除し、その発信源に警告を送る。それが俺のバイトだ。一応は数多いるヒーローの1人に入るらしい。いつの間にだか『Unknown』だなんてこっ恥ずかしい名前を付けられていた。勘弁してほしい。

 そんなことを考えながら、今日も俺はバイトに勤しんでいた。






「――ぃ!おい!村上!」


 上杉に揺さぶられてて目が覚める。いつの間にか寝落ちしていたのか。目をこすりながら上杉の顔を見やる。


「おう、終わったのか?」


 寝ぼけ眼でそう言うと、上杉はこきこきと首を鳴らした。


「おかげさまでな。

 俺はこれから先輩と飲みに行くけど、お前も行くか?」


「何?どこ行くの?」


「焼肉」


 焼肉か。そういえば最近食ってない。是非とも行きたいんだが――。


「金ないしやめとくよ。その先輩に出してもらうのも気が引けるし。

 向かいのスーパーで晩飯買って帰る」


「そっか、じゃあまたな」


 お互いにお疲れーと手を振り合う。自習室を出て行く上杉を見送って、壁の時計を見ると午後10時過ぎ。丁度いい。


「さて、俺も行きますか」


 ――今日は何が残ってるかな?








 晩飯と生活用品をひと通りカゴに入れ終えてレジに並ぶ。今日の1番レジは赤井さんだった。俺と同じ大学の学生で、このレジのバイトチーフだ。


「いらっしゃいませー。

 今日も居残り?あまり無理するなよ?」


 手際よく商品のバーコードを通しながら話しかけてくる赤井さん。


「ええ、まあ。

 留年しないように頑張ります」


「ぐっ。言うようになったねえ」


 赤井さんが軽く呻いて苦笑いする。すると反対側の2番レジからからかうような声が飛んできた。


「そりゃ目の前に見事な反面教師がいたらそうなりますって」


 そう言ったのは鈴木さんだ。ちなみに鈴木さんが入学した時、赤井さんは先輩だったそうだ。それが今では鈴木さんのほうが学年が上になってしまった。

 ……ちなみにその原因はバイト代をつぎ込んで全自動卓を買うほど好きな麻雀にあるとのもっぱらの噂だった。それで反面教師というわけだ。


「まあ、真面目な話なんだけど。

 バイトに熱心になるのもいいけど、それで身体壊すなよ?」


 お前が言うなと外野には言われそうだが、赤井さんは心の底からまっすぐに俺を心配してくれていた。バイト気分の半人前ヒーローだけど、こういう言葉を掛けられるからこそ頑張ろうって思えるのだ。


「……ありがとうございます」


 控えめに小声で礼を言う。

 晩飯食ったら、バイトの続きだ。








「ただいまー」


 1人暮らしなんだからおかえりの声が返ってこないのはわかりきっている。それでも思わずただいまを言ってしまうくらいに今の俺は機嫌が良かった。


 ――今日は当たりだったな。


 手に持った買い物袋を床におろし、座椅子にどさっと座る。ノートPCの電源を入れてから、いそいそと本日の戦利品を袋の中から取り出した。

 フライバイキング、半額50円。メンチカツと肉じゃがコロッケ。それから発泡酒。


「いただきます」


 まずは発泡酒の缶をプシュっと開ける。いい音だ。

 そのまま缶を逆さにする勢いで、一気に喉に流し込む。


「くう~!」


 この喉越し、ビールとそんなに変わらない。俺みたいな安い舌には、これぐらいが似合ってる。

 

 ――さあ、おっかけるか。


 続いてメンチカツをがぶり。冷めたフライものは温めなおすを油でぎとぎとするが、夏の暑い日に冷たいまま食べるメンチカツが良いんだよな。

 肉じゃがコロッケも良い。普通のうすっぺらいコロッケはもそもそとした感じしかしないが、これは味の染みた甘辛いじゃがいもの味がしっかりする。こういう味って、スーパーの惣菜ならではだとおもう。

 また発泡酒。コロッケ、酒、メンチカツ、酒、メンチカツ。あっという間に缶もパックも空になってしまった。


 ――そろそろ〆にするか。


 袋の中に残っていたもう1本の発泡酒を取り出しプシュっとあける。続けて取り出すのは、これまた半額のサーモン寿司。玉ねぎマヨネーズ載せだ。

 スーパーでは大体助六寿司や握り寿司の詰め合わせから先に売れる。こういう1種類だけの寿司は最後の方まで残っていて半額になりやすいのだ。


 ――1種類しかなくても、サーモン好きな俺には宝の山なんだよな。


 レジでバイトをしている後輩が以前ちょっと多めに付けてくれた醤油を1つ回しかける。1貫丸ごと口の中に放り込む。


 ――玉ねぎとマヨネーズ、いい脇役だよ。


 これって、きっと玉ねぎがあるからサーモンとマヨネーズが合うんだよなあ。日本酒だけじゃなくてビール系にも合うようになるし。

 ぐびっと発泡酒を一口。今日も低価格で大満足な晩飯だった。


 ――さ、バイトの続きしますか。


 こきっと首をならす。上杉の癖が伝染ったのかもしれない。そう思うと、なんだか笑ってしまった。





 如何でしたでしょうか?

 ちなみに今回の主人公は20歳です。念のため。笑

 感想お待ちしております。

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