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鞄の中にナイフを入れているのは

作者:

鞄の中にナイフを入れているのは

いざという時のためではない

いざという時が来たとして

私はそれを手にすることなどできない

私にできるのは

全てが終わった後で

いそいそと鞄から取り出して

握りしめることだけだ


でも


いざという時に

闘う意志はあったのだと

胸を張れるという安心感


鞄の中にナイフを入れているのは

私を殺そうとする何かに刃を向けるためではない

私が殺される時が来たとして

私はその刃を自分の胸に向けるだろう

私の命が終わった後で

自殺だと報道すればいい

私を殺そうとした何かは

私を殺せはしなかった


つまり


私は自分の意志で死んだのだと

私は自分の意志で生きていたのだと

証明できるという安心感


鞄の中にナイフを入れているけれど

殺される時はおろか

いざという時さえも

来やしない


ナイフの入った鞄を肩に

俯いて歩く帰り道

何かにぶつかって

尻もちをついた時

私はナイフを握っていた


そしてその刃は――


闘う意志があるのだと

生きる意志があるのだと


私自身に語りかける


何かを見ようと顔を上げると

鏡のように尻もちをついた誰かがナイフを握っていた


そしてその刃は


誰かの意志を映していた


互いにナイフを向けたまま

私たちは――


きっとナイフは錆びつかない

私が生きようとする限り

鞄の中で呼吸をして

私と確かに生きている


読んでいただきありがとうございました。

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