おばちゃまの勝手に相談室。〜夜〜
繁華街から少し入った裏通り。
一軒の小さな店。
殆ど人通りのない、静かな路地裏。
小さな店に、疲れたサラリーマンや、一風変わった人などがお酒を飲みにやってくる。
店の女主人は、綺麗に歳を重ねており、
それなりの年齢なのだろうが、気品漂う。
常連から新規まで、分け隔てなく接客をするので、ちょっとした人気があった。
まあ、それだけではない魅力的な何かが
あるのだろう。
私はカウンター席の端に座り、人間観察する
様に見ていた。
「あら、 いらっしゃい。 久しぶりね。
元気してた?」
一人の中年男性が、店に入って来た。
薄汚れた古いトレンチコートを着ている。
その男性は、無言のままカウンターに座り、
女主人に目で何やら合図した。
「いつものね? 分かったわ」
そう言うと、グラスに氷をカランと入れ、
ウィスキーを注ぐ。
マドラーでかき混ぜ、コトンと男性の前に
置いた。
男性は私の方をチラっと見る。
昭和臭漂う男性。
申し訳ないけれど、現代人の私……。
「この店も、 若い娘が来る様になったの
か」
敢えてなのか、指定席なのか。
私の隣に座った男性。
生活に疲れています。人生にも……。
と言う目をしている。
「あ、 この子? お客じゃないの。 私の
助手ってとこかしら?」
にこりと笑みを浮かべ、私を見やる。
「へぇ……。 助手? こりゃまた何の?」
少し驚いた様子で言った。
私と女主人を交互に見る。
「ふふふ。 さあ、 何でしょうねぇ」
意味あり気に笑う。
男性は、興味を既に失くし、グラスを
持ち、ぐいっとウィスキーを流しこんだ。
本当に昭和へタイムスリップしたかの様な
光景だ。
まあ、テレビドラマなどでしか知らない
けれど……。
「あら、 もうこんな時間? あなた今日は
お帰りなさい。 遅くなるとダメよ」
女主人が時計を見ながら私に言った。
夜十時五分前……。
「じゃぁ私は帰ります。 明日の講義は
午前中だけですので、 午後に伺います」
そう言い、春物のコートを着てカバンを
持つ。
女主人に軽く会釈し、店を後にした。
「随分若い助手さんだね……」
先ほどの男性の声を背中で聞きながら。
そうです。ここはおばちゃま勝手に相談室の
時間外営業所……。
昔風の酒場。
女主人は、おばちゃまカウンセラー。
野外学習の名のもと、おばちゃま営むお店に
て、適当なカウンセリングを聞いています。
謎のおばちゃまカウンセラー、幅広い。
マンションでの相談室は日中用。
夜は夜でまた違う人種のカウンセリング。
何事も勉強。
助手を務める私は、何故か時間外労働も。
あくまで助手。静かに観察です。
おばちゃま先生の勝手に相談室夜バージョンは、やはり疲れたサラリーマンなどが
主にやって来ます。
お酒片手に愚痴炸裂。
先生も、お酒片手に適当回答。
「ほんっと! やになるよなぁ。 うちの
上司! 頭古いんだよ。 それだからダメなんだ」
とある酔っ払いサラリーマンの愚痴。
酩酊間近……。
「ふふ。 でも仕方ないじゃない? この不況
じゃ、 会社辞められないでしょ? 貰う物は
貰ってるんだもの。 右から左よ?」
世の中は世知辛い。
サラリーマンも大変なんだなぁ。
他人事だから、他人事として聞く。
「ねーぇ、ママー。 こないだ彼と喧嘩して
さあ。 酒提供する店やめろって。 それじゃあ食べていけないわよ」
少し派手目のお姉様。
「あら、 そんな事言うの? 彼氏。 だったら
もう少しかいしょ持たなきゃねぇ。 稼ぎ増やしてから、言いなさいって」
もう、殆ど何なのか分からない。
ただの愚痴酒場。
私もこの流れについていけなきゃ、助手など
務まらない……。
そもそもこれでいいのか?私。
そんな疑問を抱くが、何故か魅力ある
おばちゃま先生……。
謎のある人は、人を惹きつける。
私も多分、その一人なのかも知れない。
今度は何処に営業行くのか。
少し楽しみな様な……。
おばちゃまの勝手に相談室。