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光のような、綿のような/華音

みどりむし書房の華音の作品です。


【蛇山夏子】

『春子と不思議な物語』シリーズ

ブログ小編:http://ameblo.jp/midorimushi-show-bow/theme-10030749018.html

小説家になろう版:http://ncode.syosetu.com/n3339bd/


と、


【華音】

「黄昏時、そしてカメラ」:http://ameblo.jp/midorimushi-show-bow/entry-11209585833.html


のコラボレーションです。

「はーい笑って笑ってー!そうそう、いい感じ!」

目の前でカメラを構えたお兄さんがにっこり笑っている。そして俺はなぜかピースをして突っ立っている。隣には春子がいて、少し照れくさそうにして立っている。

どうしてこんな事態になってしまっているのか。それは数刻前に遡る。


俺と春子は、母に頼まれてクリスマスパーティー用品の買い出しをしに、近くにある商店街まで来ていた。

メモに書かれた品を一通りそろえ、さて帰ろうかという時に、春子が俺のコートの裾を引っ張ったのだ。

「ん?どうした」

「お兄ちゃん、あれ」

「あれ?」

 

春子が指差した場所には大きなクリスマスツリーが設置されていた。赤、黄、緑と、色とりどりの電燈でライトアップしている。この辺りでは一番大きいツリーなので驚いているのだろうと思い、俺はちょっと大人ぶってこう言った。

「大きいクリスマスツリーが珍しいのか?」

「あそこに、何かいる」


予想の斜め上をいく回答に、俺はため息をついた。さすがは我が妹、一筋縄ではいかないよな、うん。

「何かいるのか?」

「うん。よく分からないけど…ふわふわ、飛んでるの」


春子はツリーをじっと見つめていた。俺には何も見えないけれど、きっと春子には何かが見えているのだ。

しょうがない、付き合うか。


俺は母に「少し遅くなる」と連絡を入れて、春子と共にツリーの傍へと向かった。何か悪いものだったら、放っておくわけにはいかないし、春子に害をなす厄介者だったら大変だ。


昔はこんな風に考えたことなどなかった。

不思議なものが見える妹の存在は、気にしないようにしていたし、それでも良いと思っていた。

でも今は違う。

春子を理解したい、と思っている。

不思議なものだって、きっといるのだ。たとえ見えなくても。


+++

ツリーは傍で見るととても大きかった。巨大な怪物に見下ろされているような気がして、一瞬、たじろいだ。

「で、どこらへんにいるんだ?その、ふわふわって奴は」

「あそこ。あと、あっちにも。ツリーの周りにいっぱい」

春子が次々と指をさす。そうとうたくさんのやつがいるらしい。

「悪い奴なのか?」

「うーん…分からない。でも攻撃とかは特に…してこない」

一体何が目的なのだろうか。二人で頭を悩ませていたその時、


「そこのお兄ちゃんお姉ちゃん!よかったら写真撮らない?」

ベレー帽をかぶり、茶色っぽい衣装に身をまとったお兄さんが、声を掛けてきた。

お兄さんが歩いてきた方向に目をやる。ツリーの下にパイプ椅子が一脚あり、その傍に立て看板がある。そこには、「クリスマス 記念写真を一枚いかが?」と書かれていた。

「ツリーの前で一枚、写真を撮ってプレゼントしてるんだ。どうかな?」

人懐っこい笑みを向けて、お兄さんが言う。

「春子、どうする?」俺が訊くと、

「あのふわふわ、お兄さんの周りにもたくさんいる」と春子が言うので、ふわふわの様子をうかがうついでに、写真を撮ってもらうことにした。


+++

ツリーの前に、春子と二人で並ぶ。商店街を歩く人達がこちらを見ている。俺は少し恥ずかしくなって、うつむいた。

「お兄ちゃんの方、もうちょっと顔を上げてもらえると嬉しいな。せっかく格好良いんだし。おっ、そうそう、いいねー、イケてるよー」

お兄さんが明るく声を掛けてくれる。しかしこれでは余計に恥ずかしいのだが。通行人の中に目をやると、見覚えのある顔があった。友人のカズキだ。カズキはこちらにひらひらと手を振っていた。なんか笑っていやがる。後で覚えとけよ。

春子の方に目を向けると、少し恥ずかしそうにしながらも、ちゃんとカメラの方を向いていた。


「はい、ポーズ」


お兄さんがカメラのシャッターをきる。その時、白くてふわふわしたものが、いくつも、いくつも空に昇っていくのが見えた。光のような、綿のような。


「春子、あれ」

「のぼってく」


俺達はしばらく黙って、それを見つめていた。


+++

「はい、お疲れ様」

お兄さんに手渡されたポラロイド写真の中で、俺と春子は不器用に笑っていた。

「ありがとうございました」

「すごくいい顔してるね。撮れて嬉しかった」

お兄さんはにっこり笑うと、ツリーの前のパイプ椅子に腰かけた。


「一人で、撮っているんですか?」

「うん。まあ、今日は趣味で撮りに来てるから。アシスタントさんもいらないんだ」

カメラを丁寧に拭く手つきを眺める。カメラが大好きだという気持ちがこちらにまで伝わってきた。

「君達を見ていてさ」

お兄さんが、こちらを向いて話し始めた。

「思い出したんだ。俺にも、妹じゃないけど…妹みたいに思っていた子がいたから。小さい頃の事を思い出してしまった」

お兄さんは少し寂しそうな顔をした。

「今は遠くに住んでるんだ、その子。なかなかすぐ会いに行ける訳でもないし…俺の話になっちゃったけど、つまりさ、その、言いたいことは」

そこで一呼吸おいて、お兄さんは言った。

「そばにいてあげられる時には、おもいっきり話聞いてあげて、優しくしてあげるんだよ。」


中学生の俺には、お兄さんの話はあまりぴんとこなかったけれど、その言葉はなぜか胸に沁みて、俺は深く、「はい」と頷いた。


+++

「それは人の“気持ち”に集まる怪じゃな」

今日の出来事を祖父に話すと、祖父はにやりと笑ってこう答えた。

「気持ち?」

「うむ。古来から“強い感情”を好んで集う怪がおる。奴らは大勢で集う習性があるからのう。ツリーの周りにおった奴らも、きっとその写真家の男性の気持ちに集まってきたのじゃろう」

「じゃあ、空に昇っていったのはどうして?」

春子がクリスマス用の、わっかを折り紙で作りながら訊く。

「それは“強い気持ち”が遠くへ向かったからじゃろうな。その、女子のもとに、のう」


それにしても、いい写真を撮ってもらったのう、二人ともいい顔をしておる、と祖父はにっこりと笑った。僕にも見せてくださいよお父さん、と父もやってくる。母がクリスマスの料理をテーブルに並べていく。実も手伝いなさいよと言われ、俺は台所へと向かった。


強い気持ち、か。きっとその、女の子への想いなのだろうと、思った。


届くといいな、その女の子に。


すっかり暗くなった窓の外に目をやる。

白くてふわふわとした、あの怪が、

ぐんぐんと、空に昇ってゆくような気がした。

2012年12月24日 執筆者:華音

(華音より)

大好きな春子ちゃんたちが書けて嬉しかったです!実君が好きすぎて主人公にしてしまいました(笑)いつも春子ちゃんを優しく見守っている彼が好きです。そして春子ちゃんかわいい。わたくしの作品「黄昏時、そしてカメラ」からカメラマンになった涼ちゃんを登場させました。ちょっと切ないお話になっております。楽しんでいただければ幸いです。蛇山さん、私のキャラクターを書いてくださってありがとうございました。家宝にします!

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